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【小説】ロールプレイてっかまき物語

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――吸い込まれそうな深い闇夜の中、そのオーガの女は丸腰のまますたすたと歩いていた。バニラ色のオーガ町人服に身を包み、髪は同じくバニラ色の盛り髪であるが、この闇夜の中ではその色を窺い知ることはできない。山林の奥から聞こえてくる鳥の鳴き声が、より一層、月のない夜の山道を不気味なものにしている。

(迷ったか)

女はそう思い、当たりを見回すが人の気配はない。

(地図買っとくんだった)

女はため息をついて再び歩き出した。しかし、進むにつれて道幅はどんどん狭くなり、山林は深くなっていった。女はこの状況に嫌気がさした。女が立ち止まりうなだれたとき――、6~7人の人影が茂みから飛び出てきた。
女はこれ幸いとばかりに道を尋ねる。

「ちょうど良かった。このへんに村か何か無い? 集落でも一軒家でもいいんだけど」

それを聞くなり人影たちは全員、武器を抜いた。

「教えてほしけりゃ金出しな」

そう言って女の周りをぐるりと取り囲む。

(2、3、4。……7人か)

女は深くため息を付いた。せっかく見つけた人影が野盗とは。見たところオーガもドワーフもプクリポもいる。

「丸腰の女に武器使うの? 持ち物いっぱいで剣捨てちゃったのよね」

野盗の頭目と思しきプクリポはそれを聞いて鼻で笑った。

「お前ら、かかれ」

プクリポが合図するとともに、野盗のひとりが後ろから斬りかかってきた。女はスッと横にかわすと野盗に足を掛ける。野盗はたまらず前につんのめってすっ転んだ。

「何してる! 全員でかかれ!」

プクリポの指示とともに6人がいっせいに斬りかかってきた。女はそれらの太刀筋を全て紙一重でかわす。1人の野盗が上段に剣を構え、斬りかかろうと間合いを詰めようとしてくる。女はその野盗の間合いに入るか入らないかぎりぎりのところで動いて野盗を誘導し、別の野盗の前まで来るとスッとふたりの間合いに入る。するとふたりの野盗が同時に女に斬りかかる。そこで女が横に避けるとふたりの野盗が同士討ちしてしまった。別のふたりが別方向から同時に斬りかかる。女は片方の野盗の腕を取るとひょいと投げてもう一人の野盗にぶつける。その衝撃で思わず放り出された野盗の剣を逆手に捕まえると重なって倒れこんでいたふたりを串刺しにした。また別のふたりが女に同時に斬りかかる。

「へえ、結構良い片手剣持ってるね」

女は目をこらして剣を眺めながらひょいひょいと野盗の斬撃をかわすと、パシッと順手に剣を持ち替え、ふたりの胴を一振りで斬り裂いた。

「お前、なにもんだ?」

ひとり残ったプクリポが槍を構える。

「そっちこそ。その構えはメギストリスの兵士団の構えだろ? なんで兵士が野盗なんか」
「名を名乗れ!」

そう言った瞬間、女の放った一閃の突きがプクリポの喉に突き刺さった。血を吐いて地面に倒れこみ絶命するプクリポ。

「てっかまきと申します。……ってもう名乗っても意味ないか」

女は地面に剣をざくっと突き刺しながらそう呟いた。彼女の名は「てっかまき」 齢は23に近い。この広大なアストルティアを旅する1人の傭兵である。

******

――酒場は大繁盛していた。活気に溢れ、笑い声が絶えず、ごったがえしていた。多くの人で。

「マスター、エールもう1杯くれ!」
「あいよ!エール一丁!」

ここは「眠る白猫亭」。オルフェアの郊外にある酒場である。経営しているのは人間の夫婦であった。
店内はいささか変わった作りで、石造りの壁にドワチャッカ風のカウンター、オグリド風のテーブルの他、ウェナ風の小テーブルなど、様々な国の文化が融合した作りであった。おそらく店主が幅広い文化や料理に精通しているように思われた。

その活気のある店内に1人の女が入ってくる。オーガである。バニラ色のオーガ町人服に身を包み、髪は同じくバニラ色の盛り髪。背には華々しい髪型に似つかわしくないはがねの大剣を背負っている。てっかまきである。しかし表情は暗い。疲れているのだろうか。

てっかまきは気だるそうに歩くとカウンターにドサッと座った。

「へいらっしゃい! 何にする? 姉ちゃん」
「エールを」
「エール一丁!」

程なくしててっかまきの前にエールが運ばれて来た。てっかまきはゴクゴクとそれを一気に飲み干す。

「ねえ、ちびちび飲むの面倒くさいから樽でくれない?」
「おう、いいぜ、ちょっと待ってな」

てっかまきは意外に思った。オーグリード大陸以外でこういうことを言うとたいてい嫌な顔をされるのだ。オーガにとってはエールは弱すぎるため、飲むときは樽1杯飲み干すほど飲むのだが、それでは他の客のぶんも飲んでしまうため、店の評判が落ちるのである。

この店はオグリド文化にも精通してるため、オーガにもエールを出せるのであろう。

「ねえマスター、あなたかなり若いけど、ここあなたの店?」
「ん? ああ、ここは親父の店だよ。いま旅行で留守だから俺がやってんだ」
「へえ」

そんな話をしていると、店に1人の男が入ってきた。オーガである。年の頃は40歳ぐらいだろうか。しかし、このような大衆酒場には似つかわしくないような高貴な礼服に身を包んでいた。

「お隣、よろしいですかな?」

男はてっかまきに言う。

「ええ、どうぞ」

てっかまきは自分のジョッキに樽からエールを注ぎながら答えた。

「では、失礼致します」

男は一礼すると、カウンターに腰掛けた。

「何飲む? 紳士さん」

てっかまきはエールをぐびぐびやりながら男に尋ねた。

「ほほう、エールですか。久しく飲んでおりませんな。では私もエールを」
「マスター、エール樽1つ追加ね」

程なくして樽が運ばれてくる。男は嬉しそうにそれを飲み始めた。てっかまきはそれを横目で見る。この男は何者なんだろうかと。

「ねえ、紳士さん。あなた何でこんなとこに来たの? この店はいい店だけど、お世辞にも高級店とは言いがたいわ」

男はぷはーっとジョッキに入ったエールを飲み干すと、理由を語り始めた。

「はい。私は名をギールと申します。とある良家に勤める執事でして、当家のお嬢様は冒険譚が大変にお好きなのです。そこで私が冒険者様がたのお話を聞きに参った次第で」
「要するに話のネタを仕入れに来たと」
「そういう次第です」
「なるほどねぇ。あれじゃない? 実はお嬢様に惚れてたりするんじゃない?」
「な、何を馬鹿なことを! そのようなめっそうもないこと!」

ムキになって否定するギールを見ててっかまきはクククと笑った。

「もし宜しければ貴女のお話をお聞かせ願えませんか?」
「私の話で良ければいくらでも話すけど。……エール飽きてきたわね、いったん蒸留酒に変更ー。マスター! 蒸留酒ちょうだーい! いちばん強いやつねー!」

程なくして木製のタンブラーに入った蒸留酒が運ばれてくる。てっかまきはそれをちびちびとやりはじめた。

「失礼ですが、貴女のご職業は何を?」
「傭兵よ」
「ほほう、しかし最近は戦争など無いではないですか」
「そうね。だから商売あがったりよ」
「どのような御仕事をなさってるので?」
「まあ……、お城が募集してる魔物退治とか、酒場の掲示板に貼ってる仕事とか……。あとは賞金首とか。要するに傭兵という名の何でも屋ね」

てっかまきはタンブラーの中で揺れる蒸留酒を見つめながら答えた。ギールはそれを見て優しく笑う。

「大変失礼ですが、なぜ女性の身で傭兵などを? 見たところ大変お美しいので、良家のご子息たちから引く手あまたでしょうに」
「借金があるのよ」
「借金?」

ギールは不思議そうにてっかまきの顔を見つめる。

「ええ。6500万ゴールドのね。いま500万ぐらい返したかな」

ギールは目を丸くした。6500万ゴールドなど、普通の暮らしをしていたら作れる借金ではない。

「一体どのようなご事情でそのようなことに?」
「話長くなるけどいい?」
「構いません」

ギールはエールを飲むのをやめて、真剣に聞き始めた。

「私の父は鍛冶屋だった。レンダーシアにある名もない小さな村の。親ひとり子ひとりでね」
「お母様は?」
「死んだ。私を産んですぐに」

ギールは目をそらしてうつむいた。

「まあ、片親とはいえそれなりに幸せだったわよ。12歳のあのときまでは」
「あのとき?」
「ええ、あの男が来たのよ」
「あの男とは?」
「……私の父の作った武器を見て、『これは絶対に売れる! グランゼドーラに大きな店を構えて大々的に売りだそう』って。それで父とその男は共同経営者になった。父とその男は協力して資金を集めたわ。色んな国の金持ちに武器を売り込んで」
「それで?」
「それで、いよいよ店を構えようってときに。あの男がお金を持ち逃げしたの」

ギールは腕を組んで深刻な表情で唸った。

「それでお父上は今どこに?」
「お金を持ち逃げされてしばらくしてから自殺したわ」
「……それで貴女が借金を返していると」
「まあ、そういうこと」

てっかまきはそこまで話すと、蒸留酒を一気に飲み干した。

「その男はどうなったのです?」
「私はその男を追ったわ。そして、居場所を突き止めた」
「それで?」
「……突き止めたけど、すでに死んでたの。誰かに殺されてた。結局お金のありかはわからないまま」
「そうだったのですか……」
「こんな辛気臭い話、お嬢様には話せないよね」

てっかまきはケタケタと笑う。

「いえ、貴重なお話を拝聴させて頂きました。それで御礼と言っては何ですが」
「ん?」
「貴女に当家からお金を融通いたしましょうか? ある程度の額なら出せると思いますが。私のほうから旦那様に……」

てっかまきは妙だなと思った。偶然酒場で会ってちょろっと話しただけの人間に大金を融通するなど普通では考えられない。

「いや、いい。この借金は自分で返すって決めてる。あの男に負けたくないのよ」

それを聞いたギールは腕組みをしてしばらく考えていた。

「では、当家からお仕事を依頼するというのはどうでしょう?」
「仕事?」
「ええ。近々当家のお嬢様がメギストリスの国王に謁見なさるのですが、その道中の護衛をお願いしたいのです」
「護衛なんか、そっちに常勤してる人で十分でしょ」
「それが、そうでもないのです。最近、当家に強盗や空き巣の被害が頻発してまして、道中万全を期したいのですよ」
「ふーん」

てっかまきはジョッキにエールを注ぎ、口をつけた。

(単に私を囲い込みたいだけか……?)

ギールを見ると、神妙な面持ちで目を伏せている。てっかまきは考えたが一応話だけは聞いてみることにした。

「……それで報酬は?」
「10万ゴールド」

てっかまきの不信感はますます募る。

「ただ、道を歩いて行くだけで10万?」
「それだけの価値のあるお仕事です」
「むー」

てっかまきは腕組みをして怪訝な顔をしている。

「受けて頂けませんか?」

てっかまきは不審に思ったが、10万ゴールドは欲しかった。少しでも借金の足しにできる。

「……わかったわよ。受けるよ」
「良かった! では、当日まで当家にお泊りくださいませ。お部屋を御用意しておきますので」
「……」
「そういうことで、今日のところは飲み明かしましょう! わっはっは!」

上機嫌なギールをよそに、まだ釈然としないてっかまきであった。

******

――2週間後。ギールが勤める屋敷。裏庭にて。

「ねえっ! てっかまきさま! 今度はこの丸太を斬って見せてくださいましっ!」
「ふぁ~い」

てっかまきは大剣を構えると、立てられたてっかまきの身長ほどある丸太を両断した。

「わぁっ! すごいわっ! これが本物の冒険者さまなのね!」
「……お嬢様、もう勘弁してくれませんかね」
「てっかまきさま! まだまだ丸太はありますわよ!」

てっかまきはげんなりした様子で再び大剣を構えた。

この屋敷に来てから2週間、お嬢様から剣の腕を見せてくれだの、冒険の話を聞かせてくれだの一日中引っ張りまわされ、ヘトヘトであった。

この屋敷のお嬢様は名をエルヴィヒという。愛らしいプクリポである。婚約者がいるらしく、そちらもまたプクリポであった。

てっかまきが丸太斬りをしているところにギールが来る。

「お嬢様、その辺でお止めになって、もうお休み下さい。明日は出発なのですから」
「まだ、昼間じゃないの。てっかまきさま! さあ! 次の丸太を!」
「てっかまき様がお疲れですと、道中支障をきたします。てっかまき様、お部屋へお戻りくださいませ」

ギールはてっかまきを部屋に連れて行こうとするが、エルヴィヒが足にしがみついて離さない。

「て、っ、か、ま、き、さ、ま! に、が、し、ま、せ、ん、わ、よ!」

エルヴィヒはありったけの力をこめてしがみついた。しかし、ギールはエルヴィヒをひょいと抱き上げると、そのまま屋敷に入ってしまった。

「ああっ! ギール! 何をするんですの! クビにしますわよ! ギールのばか!」

こうしててっかまきは無事に部屋に戻ることが出来たのである。

「ああー、疲れた。勘弁してよ、本当にもう」

てっかまきはその辺に剣を放り投げると、ベッドにドサッと横になった。この屋敷はかなり大きく、プクリポ用からオーガ用まで部屋が用意されていたため、小さいプクリポ用ベッドに寝ずに済んだ。

てっかまきは仰向けに寝返りをうつ。

(10万のためだ……、我慢だ我慢)

そんなことを考えているうちにそのまま眠ってしまった。

――翌日未明。

てっかまきは目を覚ました。疲れたまま長時間眠ったせいか、ひどく喉が乾いている。

てっかまきは水を貰おうと、キッチンのほうへ赴いた。

「あのー、すみません、お水を……」

キッチンには常に人間のメイドが待機しているはずであるが、呼びかけても返事がない。てっかまきはゆっくりとドアを開けてみた。しかし、キッチンには誰もいない。

不思議に思いながらもてっかまきは水瓶を探してその辺を歩きまわった。すると、ふと勝手口の扉が目に入った。少しだけ開いている。鍵もかけてないのか。

てっかまきは不審に思って勝手口の隙間から外を覗いてみた。裏庭でメイドらしき人間がちらちらと動いているのが見える。

「何をしているのですか?」

後ろから声をかけられて思わず振り返った。立っていたのはギールである。昼間の温和な表情とは打って変わって、眉間にしわを寄せ鋭い表情をしている。

「い、いや、喉が渇いたから水を……」
「お水は持って行かせますので、お部屋にお戻り下さい」

ギールはてっかまきの肩をガシっと掴むと、

「さあ、早く」

と急かす。

「あ、はい……」

てっかまきは首をかしげながら、キッチンを後にする。ギールはてっかまきの後ろ姿を冷たく見つめながら、勝手口の扉を閉めた。

――その日の朝。

「では、旦那様。奥様。行ってまいります」

ギールは玄関で見送る当主と夫人に深々と頭を下げた。

「うむ、王様に粗相のないようにな」
「道中、気をつけてくださいね」
「てっかまきさまがいるから大丈夫よ!」

エルヴィヒはてっかまきにしがみついてニコニコしている。

「お嬢様、馬車へどうぞ」

ギールがエルヴィヒを案内し、一行はメギストリスへの道を歩みだした。

屋敷からメギストリスへは徒歩で3日かかる。街道の途中には一件宿がいくつかあり、そこに泊まる手はずになっていた。

ギールとお嬢様はピンク色のかわいい馬車で進み、その周りを常勤の人間兵士3人、てっかまき1人で囲んで徒歩で進むのである。屋敷を出てから半日ほど進んだところにて、てっかまきは思った。

(特になにもないな……)

ギールの態度の不審さから何か起こるのではと警戒していたのだ。

「ねえ、ちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」

てっかまきは馭者に話しかけた。

「ギールさんってこの屋敷に来てから何年?」
「えーっと、屋敷の者の中ではいちばん古株でして、15年ほどになりますか」
「ふーん」

てっかまきは馭者から目を離し、再び前に進み始めた。

(そういえば、キッチンのメイドも怪しい動きしてたな)

「ねえ、キッチンのメイ……。!!」

てっかまきが再び馭者に目をやったとき、馭者の首は無くなり、血が吹き出していた。
とっさにてっかまきは背中の大剣に手をかけながら飛びのき、馭者から離れる。

「ギールさん! 扉の鍵を閉めろ!」

そう叫んで周りを警戒するが、どこにも敵の姿は無い。次の瞬間、後ろに殺気を感じたため、とっさに前に飛び退いた。

見ると、常勤兵士がオノを構えててっかまきを睨みつけている。

「あなた、何のつもりなの?」

てっかまきは大剣を抜き、構える。その瞬間、上空と右に殺気を感じ、左へ飛びのいた。見ると、他の2人の常勤兵士も片手剣と槍を構えてうっすらと笑っている。

「やるしかないみたいね」

てっかまきは一足飛びでオノの兵士に飛び込むと、右下から切り上げようとした。兵士もオノを振り下ろしたが、てっかまきの剣のほうが圧倒的に速く、兵士は一撃のもとに両断された。

「こいつは手ごわい。気をつけろ」

片手剣を持った兵士が言う。いっぽう馬車のなかでは外に出ようとするエルヴィヒをギールが制止していた。

「てっかまきさま!」
「お嬢様、危険です! 外に出ないで下さい!」

槍を持った兵士がてっかまきにすさまじい速度で突きを繰り出す。てっかまきはそれを紙一重でかわしながら横薙ぎに大剣を振りぬいた。両断される兵士。

「ふん……。使えない奴らめ」

片手剣を持った兵士が剣を構える。
(こいつ強い……)

てっかまきは構えを見ただけで兵士の実力を看破した。

兵士は一瞬で間合いを詰めると、てっかまきの首を狙い、横薙ぎに斬りつけてきた。てっかまきは上体をそらしてそれをかわしながら上段から垂直に兵士を斬りつける。兵士は後ろに飛びのいててっかまきの攻撃をかわし、次の瞬間、突きを繰り出した。並の冒険者なら見えないほど速い突きである。てっかまきはその突きを左手で受け止めた。手のひらに兵士の片手剣が突き刺さる。てっかまきは兵士の剣を掴みながら右手で上段から兵士を斬りつけた。まさか自分から剣をつかむとは思ってなかった兵士は一瞬体が硬直し、てっかまきの一撃をかわすことができず、両断された。

「ぐ……!」

てっかまきは痛みに耐えかねてその場にうずくまってしまった。

「てっかまきさま!」

馬車からエルヴィヒとギールが出てくる。てっかまきに駆け寄るエルヴィヒとギール。

「……これはどういうこと? ギールさん」

ギールを睨みつけるてっかまき。だが、ギールの表情は厳しい。

「答えなさい!」

てっかまきは左手をだらりと下げたまま立ち上がり、右手に持った大剣をギールに突きつけた。

ギールは恐怖の表情を浮かべ、震えている。しかし、その恐怖の対象はてっかまきではない。てっかまきの背後にいる何かに対してであった。

てっかまきはギールの表情を不思議に思い、振り向いた。そこに立っていたのはキッチンのメイドである。

「約束を違えたなギール!」

メイドはギールを睨みつけながら、手から強烈な衝撃波を発し、てっかまきを吹き飛ばした。馬車に勢い良く叩きつけられ、地面に倒れるてっかまき。

メイドはそばにいたエルヴィヒの首根っこをひっつかむとふわりと宙に浮いた。

「ま、待ってくれ! お嬢様だけは!」

ギールの嘆願も虚しく、メイドは薄く笑ったまま、空中に出現した黒い渦の中に消えてしまった。がっくりと膝をつき、崩れ落ちるギール。

「う、うう……。」

てっかまきは左肩を押さえ、足を引きずりながら、意気消沈しているギールの元へズリズリと歩み寄る。

「これはどういうこと……? ギールさん」

てっかまきの問いかけにギールは目をつぶり唇を噛み締めながら答える。

「すべてお話します……。ひとまず、お屋敷へ……」

そう言うとギールはてっかまきの左手にホイミをかけた。

「魔法がつかえたのね」
「たしなむ程度ですが……」

てっかまきとギールは馬車を使って屋敷へと戻った。

******

「……あのメイドは人間ではありません」

ギールはてっかまきの部屋の椅子に腰掛けて話している。てっかまきはベッドに腰掛けて真剣な面持ちでそれを聞いていた。

「なぜ魔物が屋敷の中に?」
「あの女が屋敷に来たのは2年ほど前です。異形の姿でお嬢様をさらいに来ました」
「それで?」
「私は嘆願しました。お嬢様だけは助けてくれと。そこであの者は言います。『定期的に生け贄を用意するなら娘の命は助けてやっても良い』と」

てっかまきはあごをなでながら目を細めた。

「ふーん、それで適当な冒険者を雇って兵士たちに襲わせてたわけね。生け贄にするために」
「そうです……。月に1度、酒場を巡って冒険者を雇い、メイドの配下である常勤兵士たちに襲わせ、生け贄としておりました」

そう言うとギールは床に跪き、土下座を始めた。

「虫の良いお願いであることはわかっています! お願いです! お嬢様を助けるために力を貸してください!」

地面に頭を擦り付けてギールは嘆願した。てっかまきは目を細めたまま窓の外を見ている。

「まあ、乗りかかった船だし、助けてやってもいいわよ」
「本当ですか!?」
「ただし報酬は20ね」
「わ、わかりました。なんとかします」
「女のアジトはどこにあるの?」
「確証は持てませんが、おそらくここから東へ行ったところにある井戸の中かと。以前、メイドと常勤兵士たちが話しているのを聞きましたので」
「よし、じゃあぐずぐずしてないで行こう! あんたも来るのよ」
「はい、お手伝いします」

てっかまきとギールは東に向けて馬を飛ばした。

――3時間後。東の井戸の前。苔が生した古ぼけた井戸である。おそらくもう誰も使っていないのだろう。

てっかまきとギールは井戸のつるべを掴んで下へ降りていった。割りと深い井戸で下まで降りるのにかなり時間がかかった。

「よっと」

てっかまきが地面に足をつけるとともにギールも足をつける。井戸の底には足首が浸かるぐらいの水が残っており、靴に水が染みこんできた。程なくしてギールがたいまつに火をつける。

一面に苔が生した石壁。その他には特に何もない。

「何もないじゃない」

てっかまきはため息をついた。

「すみません、たいまつを持っていただいてもよろしいですか?」
「いいけど、なにすんのよ」

ギールは拳でコンコンと石壁を叩き始めた。すると、一箇所だけ音の違う部分がある。

ギールは持っていたナイフを石壁の隙間に突き刺すと、テコの原理で力を加えてみた。

すると、ボコリと石が壁から外れ、中に空洞があるのが見えた。ギールが慎重に周辺の石を取り外すと人1人がやっと通れるほどの穴が姿を現した。

「……行きましょう」

2人は穴の中に入り、ゆっくりと中を進み始める。しばらく進むと、出口が見えてきた。明かりが灯っていてこちらに光が差し込んでくる。

2人が出口から出ると、大きな空洞に出た。そして、そこに彼女は居た。メイドである。

「いらっしゃい」

メイドは薄く笑いながら言った。

「ギール! てっかまきさま!」

壁をくりぬいて作られた牢の中にエルヴィヒが居る。

「来ると思ってたよ。ギール。それに、冒険者も一緒か」

大剣を抜くてっかまき。

「奇特な女だねぇ。自分を殺そうとした奴を助けるなんて」

メイドはケタケタと笑っている。

「2人も生け贄に来てくれるとは今日はいい日だよ。3人とも確実に殺してやろう」

漆黒の闇がメイドを包む。程なくして闇の中から現れたのは人型の怪物であった。長い黒髪に赤く光る目、灰色の肌を持つ女である。赤黒い全身鎧に身を包み、禍々しい装飾のされた漆黒の大剣を持っている。

「クク……、行くぞ!」

その瞬間、前に居たはずのメイドが後ろから大剣を振り下ろしてきた。

「!!」

ふたりはとっさに飛び退いて間一髪大剣をかわす。メイドが振り下ろした大剣の衝撃波で轟音と土煙が舞った。土煙の中からメイドがてっかまきめがけて跳びだしてきた。メイドは上段から片手で大剣を振り下ろす。てっかまきも同じく大剣でそれを受ける。金属の衝突する音が空洞内に響いた。

(片手なのになんていう強打……!)

てっかまきがそう思った一瞬の隙にメイドはもう一方の手でメラを繰り出した。火球を近距離からまともに食らって吹き飛ぶてっかまき。

「てっかまき様!」

ギールが叫んだときにはすでに後ろからメイドが大剣を振り下ろしている。

「くそっ」

ギールは横に飛び退いてそれをかわすと、メイドに向けてメラを放った。火球はまともにメイドの顔を直撃したがまるで効いていない。

次の瞬間、てっかまきが後ろからメイドに斬りかかる。だが、それと同時にメイドの体が光り輝いた。

(これはイ……)

てっかまきがそう思うのと同時に2人が激しく吹き飛ばされ、壁に勢い良く激突した。イオである。

「ぐ、ぐ……」

てっかまきとギールはまともに壁にぶつかってかなりのダメージを負った。てっかまきはなんとか立ち上がると、肩で息をしながらズリズリと大剣をひきずり、メイドと対峙している。ギールの方は全く動かない。気絶してしまったようだ。

「ふふ……」

メイドは軽く笑うと一瞬で間合いを詰め、上段から垂直に大剣を振り下ろした。てっかまきは入り身でそれをかわすと下からメイドの両手を斬り飛ばそうとする。しかしダメージを負っているため速度が遅く、メイドが大剣を振り下ろした衝撃波でふっとんだ。

てっかまきはもう限界である。次の一撃を食らうと確実に死ぬ。

てっかまきは再び起き上がると、大剣を引きずりながらメイドと対峙した。

「トドメだ! 死ね!」

メイドが一瞬で間合いを詰め、横薙ぎに大剣を振り抜こうとする。しかし、次の瞬間、強烈な火球がメイドの側頭部を直撃した。思わずそっちに目線を移してしまうメイド。火球を撃ったのはギールである。

てっかまきはメイドがギールに気を取られた一瞬の隙に突きを繰り出し、メイドの心臓を貫いた。

声をあげることも出来ずにがっくりと崩れ落ちるメイド。即死である。

「はあ……、はあ……」

てっかまきとギールは肩で息をしながら膝をつく。

「あなたやるじゃない。メラミが使えるなんて」
「すみません……。加勢が遅れました」

メイドの死体はしばらくすると黒い霧のように霧散した。

******

――4日後の夜、メギストリスの酒場にて。

「本当に自首するの?」

てっかまきはカウンターで蒸留酒を飲みながらギールに語りかける。

「ええ、魔物に加担したのは事実ですから」

ギールは何も飲まず、カウンターに座ってるだけである。

「別にそこまでしなくてもいいと思うけどね。私以外誰も知らないんだし」
「いえ……、明日お城へ行きます」
「ふーん」

てっかまきはタンブラーの中で揺れる蒸留酒を見つめる。

「お嬢様には言ったの?」
「いえ、長期でお暇を貰うとだけ」
「お別れを言わなくていいの?」
「良いのです。お屋敷には新しい執事がいらっしゃるそうですので、すぐにそちらに慣れるでしょう」

てっかまきは深くため息をついた。

「ねえ」
「はい」
「なんであんなにすごい魔法使えたわけ? 一介の執事が使えるレベルじゃないよ」
「……」
「言いたくないってか」

てっかまきは蒸留酒を一口ごくりと飲み込んだ。

「私の家系は代々魔法使いでして、私も魔法の英才教育を受けて育ちました」
「それで?」
「私は21歳のときに結婚し、子をもうけ、とても幸せでした」

ギールは切なそうな懐かしそうな微妙な表情をしている。

「ですが娘が3歳になったとき、あの事故が起こったのです」
「事故?」
「そんなたいそうな話ではありません。単なる魔法の実験中の事故です。それで妻と娘を失ってしまい……」
「それで執事になったの?」
「ええ、終生魔法は使うまいと決めました」
「ふーん」
「お嬢様は私の娘と同い年で、旦那様には大変失礼ですが、自分の娘のように思っておりました」

ギールは優しく、力なく微笑んだ。

「しかし、もう未練はありません。使うまいと誓った魔法も使ってしまいましたし。極刑になる覚悟はできております」
「……まあ、極刑はともかく、魔法使ったのは別に悪くないんじゃない?」
「はい?」
「それで『娘さん』が助かったじゃん」

それを聞いたギールは嬉しそうに微笑んだ。

「……そうですね」

その後、ギールは王国に自首し、裁判を受けた。本来なら極刑になるところであったが、情状酌量され、終身刑ですんだ。

エルヴィヒが真相を知るのはこれから5年後のことである。エルヴィヒはお城へ行き、面会を願い出たが、すでにギールは恩赦によって釈放されており、牢獄には居なかった。エルヴィヒはあらゆる手を尽くしてギールを探したが、ついに見つけることはできなかったという。

その後のギールのゆくえは誰も知らない。

つづく……かもしれない、たぶん。

※この小説はフィクションです。実在、およびゲーム内の人物・団体・地名・魔法名とは関係ありません。

※ハーメルンにて掲載しています⇒小説ページヘ

******************

昨日イベントに行って無くて何も書くことが無いから小説書いてみたけど思った以上に大変でしたね。

本当は5000文字で収めるはずが10000字超えてしまいました。

プロットも穴だらけで正直、出来が良いとは言えないっす……。

まあでも暇つぶしに読んでもらえたなら幸いです。

というわけで今日の記事はこれでおわりです。

またネタが無い時があれば書くかもね。

では、今日はこの辺で失礼します。

See You!

コメント

  1. フェアリー より:

    おぉ!
    面白いw
    じっくり読んでしまったw
    次の話期待して待ってます!

    • てっかまき より:

      これ2日間で書いたんだけど正直きつかったw
      ほぼ1年半ぶりぐらいだからね。書くの。
      次はちょびちょび書いてまたネタがないときに上げますわ。
      読んでくれてありがとう。

  2. ピンクの人 より:

    ロールプレイ物語いいですね!
    ロールプレイが好物の私にとってはこんな物を見ると自分もやりたくてウズウズしてしまいます!というかてっかまきさんもロールプレイ好きなんですね今度ジックリ話してみたいww

    • てっかまき より:

      ロールプレイ好きですよ。だから金ノ輪屋にもロールプレイ桃兎にも行きましたしね。
      私が初めて行ったプレイベもロールプレイ酒場だったんですよ。
      「踊る野うさぎ亭」っていうイベントだったんですけどね。
      でも私が初めて行った日を最後に休業してしまったんですよ。
      それ以来、金ノ輪屋が来るまでロールプレイイベントは無かった状況でして。
      もっとロールプレイイベントが増えて欲しいんですけどね。

  3. マリ より:

    こういう外伝クエストありそう!
    ちょっと長めの、夢現辺とかと同じくらいの立ち位置のクエスト。
    描写がちょっとリアルだったけど、
    ゲーム中の感じで脳内再生された…!
    特にメイドとの対峙の場面じゃ、難易度選択のコマンド出てくるのも脳内再生余裕でした\(^o^)/
    このクエストはどこで受けられますか!

    • てっかまき より:

      このクエストはてっかまきの脳内で受けられます!

      描写はてっかまき風にアレンジしてます。
      こういう作風なのよてっかまきは。

      既存の地名と魔法名以外はほぼオリジナルやね。
      存在しない村とか町があったりもします。

      あと、雑魚敵とかも登場しません。戦っても面白く無いからね。
      それから、このてっかまきは目覚めし冒険者ではないので、ゲーム内のキャラよりも弱く設定してます。イオで瀕死になるとかね。ドルボにも乗れないです。

      そういうの色々考えて書いてるのよ~。

  4. ハルカ より:

    そっかぁ、昨日は書くことなかったのね…って
    わー、こんなところに小説が∑(‘◇’*)
    世界観すごくておもしろかった♪

  5. かりん より:

    わ!なにこれ凄い❗
    こんなところに大好物の物語がっw

    先週体調悪くて久々にブログ読んでるんですが、なんか…楽しくなってきた❗
    素晴らしい才能ですよこれ!
    もっと読みたーい(*≧∀≦*)

    • てっかまき より:

      いやぁ、私は才能ないよ。
      何回か出版社に応募したけど全部1次落ちだったし。
      まあ、世の中そんなに甘く無いですよ。

      でも、この小説が概ね好評だったんで、一応次の構想は練ってます。
      書くの疲れるから、だいぶ気合いが必要だけどねw