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【小説】竜帝の野望・第6話

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第4章 竜帝の野望

イサは一通り話を聞くとブトンフにお茶を御馳走になっていた。ペルのこと、竜帝のこと、自分のこと、そしてこれから自分が何をすれば良いかということ。それらが明らかになってイサは肩の荷が降りたような気がした。

「ブトンフさん、私、これ飲み終わったらディルメース領に帰ろうと思う」

「と、言いますと?」

「ディアテュヌスを探す」

ブトンフは首を横にふる。

「無駄でございます」

「無駄ってどういうこと?」

「ディアテュヌスは暗殺を避けるためディルメース領の各都市を転々と移動しております。探そうとしても糠に釘です」

イサは落胆した。どうすばいいのかわからなかった。途方にくれて俯いているのを見て、ブトンスは言う。

「しかし、運命というべきか、良いチャンスがございますぞ」

「良いチャンス?」

「はい。今から1週間後にディアテュヌスはこの帝都に来るのです。軍務のことで陛下に謁見するために」

「じゃ、じゃあそのときに暗殺すれば……」

「左様でございます。この機会を逃すと、もうディアテュヌスに近づく機会は無いかもしれません」

イサは両手を両膝に乗せて前のめりになり、じっと考えている。

「護衛はどれくらい居るの?」

「おそらく100人規模の軍勢かと」

(100人……多いな。訓練されてて野盗とは違うし)

イサの表情は険しい。

「……何とかやってみる」

イサは1週間後を待つことにした――

―― 1週間後。

ブトンフの言うとおり、ディアテュヌスは来た。帝都の中の舗装された道路を100人ほどの軍勢を従えて、悠然と歩いている。イサとブトンフは細い路地に隠れてその様子を伺っていた。鎧兜を身につけた軍勢の真ん中に身なりの良い服装をした60歳前後の男が歩いている。

「あの男がディアテュヌス?」

「左様でございます」

イサはそれを聞くなり一飛びで軍勢の中に斬り込んだ。兵士たちが一斉にイサに斬りかかる。イサはいきなり大きく薙ぎ払うとかまいたちを発生させ、15人を同時に殺した。

「お下がり下さい閣下! おい! 同時にかかれ!」

兵士たちはさすがに訓練されており素早くイサを囲うと一瞬のズレもなく5人同時に斬りかかってくる。しかも切り下げ、袈裟斬り、横薙ぎ、突き、切り上げとそれぞれが違う斬り方で同時に斬ってきた。イサは兵士の頭上に飛び上がり囲いを飛び出すと小さいかまいたちを発生させて5人の首を跳ねた。

「10人でかかれ!」

そう号令がかかると10人の兵士がイサを取り囲み、また一斉に斬りかかってくる。イサは大きく息を吸い込むと竜巻のように1回転して剣を振り回した。すると四方八方にかまいたちが飛び、10人の兵士が真っ二つになった。この時点で30人斬っている。

「うぬう! 全員で次々にかかれ! とにかくそいつを疲れさせるのだ!」

間髪入れずに2,3人ずつ斬りかかるがイサは息一つ切らすこと無く一振りで3人ずつ首を飛ばし、あっという間に40人斬った。これだけ斬るとさすがに兵士たちの連携も乱れ始めた。

「閣下の周りに固まれ! そいつを近づけるな!」

イサは兵士たちの壁に一筋の隙間が出来、ディアテュヌスが見えた瞬間を見逃さなかった。イサは一瞬でその隙間に飛び込むとディアテュヌス目掛けてものすごい速さで突進した。あと12歩、あと8歩、あと4歩、そして、あと半歩でディアテュヌスに剣が届くというところまで来たその時。傍らに居た兵士、一人だけ違う鎧を纏っている男が腰に携えた剣の柄に手をかけた。その瞬間、イサの背筋に悪寒が走りイサは反射的に後ろに飛び退いてしまった。イサの心臓はバクバクしている。

(あのまま斬りつけたら私が死んでた……?)

男は少し笑ったように見えた。

「プロメトス、お前が早く動かんからみんな殺されてしまったではないか」

ディアテュヌスは諌めるように言う。

「申し訳ありません閣下。あの娘の剣技があまりに見事なもので見惚れてしまいました」

プロメトスと呼ばれた男は笑いながら釈明した。

「お前以上に剣技が見事な者などおるまい。もういい。さっさとやってしまえ」

ディアテュヌスが命令する。プロメトスは前に出るとイサと対峙した。剣は抜いていない。

(この人、強すぎる……! 確実に殺される……!)

イサはそう思ったが、この機を逃すとディアテュヌスは殺せない。イサは横薙ぎのかまいたちでプロメトスを攻撃した。しかし、プロメトスはかまいたちが眼前に迫っても顔色一つ変えず、手刀でかまいたちを斬り裂き、かき消してしまった。イサはヘビに睨まれたカエルのように固まった。もう打つ手が無くなってしまった。イサはペルセシャスの遺言を思い出し、死ぬ気でプロメトスに飛びかかった。右の袈裟斬りである。しかしプロメトスに近づき剣を振り上げたところでイサはなぜか動けなくなった。なぜ体が動かないのかと思い、下を向いて自分の体を見てみると、みぞおちにプロメトスの剣が深々と突き刺さっていた。イサにはプロメトスがいつ剣を抜いたのかすら見えなかった。プロメトスが剣を引き抜くと傷口から血が吹き出し、イサは崩れ落ちた。

「う……うう……」

イサは這ってディアテュヌスに近づこうとしている。そのとき、1台の馬車が通りかかった。

「おい、こいつまだ生きとるぞ、プロメトス」

「……すみません、すぐにとどめを」

プロメトスがイサの心臓に剣を突き立てようとしたその時、

「待て」

馬車の中から1人の女が出てきた。傍らにはシュロテーとエールシスを従えている。

「これはこれは、お久しゅうございます、陛下」

その女はネイシュであった。

「大儀」

ネイシュはひとまずディアテュヌスの来訪をねぎらう。

「しかしながら、待て、とはいかなる意味ですかな?」

「その娘を許してやれ」

ネイシュがそういうとディアテュヌスは大笑いした。

「ご冗談を。私の兵士をこれだけ殺した女を許せと?」

「いかにも」

「陛下、いかに陛下のご命令とはいえ出来ることと出来ないことがございます」

「ならば軍務についての話はとりやめにする。今すぐディルメースに帰り、造反の用意をせよ」

「な、なんですと!?」

プロメトス、シュロテー、エールシス、その場の全員に緊張が走る。

「……私と戦ってでもその小娘を助けると?」

「シュロテー」

「はいよ」

シュロテーは意識を失っているイサを抱きかかえようと、イサに近づく。その際、プロメトスと目があった。対峙する2人。

「閣下、この男と戦えば、私も無事では済まないかもしれません」

そう言いながらプロメトスが剣に手をかける。

「うぬぅ」

唸るディアテュヌス。

「また明日参ります陛下。しかし、この件は高くつきますぞ」

捨て台詞を吐いてディアテュヌスは宿に向かおうとした。しかし、プロメトスはシュロテーに抱えられて行くイサをじっと見つめている。

「どうしたのだ? プロメトス」

「いえ……なんでもありません」

そう言いながらプロメトスは思った。

(確かに心臓を突いたはずだが……)

――1週間後。

イサは夢を見ていた。身なりの良い服装をし、頭にティアラを乗せた美しい女性。自分と同じ緑色の髪。年の頃は40歳ぐらいであろうか。その人がディアテュヌスと対峙し、自分を助けてくれる夢。ディアテュヌスと戦ってでも自分を助けると言ってくれる夢。その人の顔は初めて見る。でも、どこか懐かしい感じがする。この人は誰なんだろう。

(ひょっとして……叔母さん?)

これは夢なんだろうか、それとも記憶なんだろうか、そんなことを考えてるうちに、イサは目覚めた。

どこかの部屋の天井が目に入る。

(私、生きてる……。ここは……?)

イサが起き上がろうとしたその時、体に激痛が走る。

「ま、まだ起きちゃいかん!」

目に入ったのは知らない男の顔。

「あ……あなたは?」

「医者だよ」

枕元のほうから声がする。

(この声は……シュロテー?)

「意識が戻って良かったわ」

右のほうから声がする。

(エールシスだ……)

「良かった……。良かった……」

「泣くなよ。ブトンフじいさん」

(ブトンフさんも居るんだ)

「とりあえず意識が戻ったので、後は食事ができるようになれば、死ぬことは無さそうです」

医者が言う。

「俺は助けろと言われただけだ。任務は終わった。あとはお前の役目だエールシス」

「ええ、わかってるわ」

「私も付き添わせてくれ。こんなことになったのは私の責任だ」

そんな会話が聞こえた。イサはまた眠くなり、そのまま寝てしまった。

――3ヶ月後。

療養所の庭でイサは剣を振っていた。ここまで回復するのに3ヶ月を要した。エールシスはイサが回復すると、命令は遂行したと言って引き上げていった。

(よし、完璧)

イサは自分の太刀さばきに手応えを感じた。ブトンフがそれを傍らで見ている。

「あんな物凄い剣士は19年前にはおりませんでした……」

イサは俯いている。

「どうすればいいのかな……。私ではとても勝てない」

ブトンフはしばらく考えていた。

「一つだけ……可能性がございますが」

「えっ……どんな可能性ですか!?」

イサはその話に食らいついた。プロメトスに勝つためならどんなことでもやるつもりだった。

「アレドラード様……ペルセシャス様がご存命のころ剣のお師匠様がいらっしゃったのです。その方は剣聖と呼ばれ、世界一の剣士だと言われておりました。その方のお力を借りれば、あるいは……」

「剣聖……その人はどこに?」

「帝都から1ヶ月ほど歩いたところの山の中です」

「その人の名前は?」

「カミイズミと仰る方です。しかしその方は……」

「私、行ってみます!」

そう言ってイサは駆け出した。

「あ、イサ様!」

イサはその可能性に賭けた。これがダメならもう一度プロメトスに挑んで死ぬつもりだった。イサは1ヶ月かけてブトンフに教えてもらった場所に赴く。たどり着いたその日の深夜未明、山中で明かりがちらちらしてるのを見つけるとイサは駆け出した。そして、木で出来た1軒の小屋を見つける。

(あそこだ……!)

イサは小屋に駆け寄り、戸を開けてみた。――誰もいない。でも松明に火は灯っており、小屋の中に生活した形跡はあった。

(出かけてるのかな)

そんなことを思いながら周辺をうろうろしてると、

「こんなところで何をしとるんじゃ」

と後ろから声を掛けられた。振り向くと小さな老人が立っている。年の頃はいくつであろうか80? 90?  それくらいである。小柄なイサよりもさらに小柄で、頭髪は既に無く、真っ白な口ひげと胸まであるあごひげを蓄えている。

「すみません、この辺に、カミイズミさんという方が……」

「カミイズミはわしじゃ」

「えっ……」

(こ、この人……? 剣なんか持てるの?)

イサが疑問に思うのも無理は無い。手足は枯れ木のように細く、腰は曲がっていて、とてもではないが戦闘など出来そうになかった。

「あの、剣術を習いたくて……」

「いいよ」

あまりにもあっさり弟子入りさせてくれたのでイサは拍子抜けした。

「見たところお前さん、一応剣は振れるようじゃな。流派はどこじゃ?」

「ジアス流です」

「なに? ジアス?」

カミイズミは大笑いした。

「あの鼻垂れがいっちょまえに流派なんぞ立ておったのか」

「師範を知っているんですか?」

「あいつはわしの弟子じゃ。いちばん末弟のな」

イサはひっくり返るほど驚いた。自分の師匠の師匠なのだ。しかもイサを殺しかけたあの師範がいちばん末弟だと言う。

「まずは入門試験じゃ。打ち込んでみい」

「打ち込んでみいって言われても……」

「腰に剣を下げとるじゃろ。それで斬りかかって来い」

イサは躊躇した。こんな小さい丸腰の老人を斬りつけていいものかどうか。

「早くやらんといきなり破門にするぞ」

「は、はい」

そう言った瞬間にイサは剣を抜き左から逆袈裟に斬りかかった。しかし、カミイズミは動こうとしない。そして、イサの剣はカミイズミの体を真っ二つに斬った。

(やばい! 本当に斬っちゃった!)

しかし、そう思った瞬間、イサは地面に寝っ転がっており、イサの剣がイサの顔に突きつけられていた。

(え……)

「んー、全体的に力み過ぎじゃの。ジアスの悪いクセが移っとる。もっと力を抜かんとダメよ」

カミイズミはイサの剣を地面にザクッと突き刺してさっそく教え始めている。

(なに今の……確かに手応えあったのに)

カミイズミの技は明らかにただ避けただけでは無かった。イサの手には斬った感触があったのだ。

「おい、聞いとるのか」

「は、はい」

「いつまで寝っ転がっとるんじゃ。はよ起きんかい」

「すみません」

イサは起き上がると、地面に刺さった剣を抜いて鞘に納めた。

「とりあえず入門試験は合格じゃ。今日からわしのことはお師匠様と呼ぶように」

「はい、お師匠様」

「中に入れ。茶でも飲もう」

イサとカミイズミは小屋の中でお茶を飲みながら話し始めた。

――

「ほう、お前さんペルの娘か。そういや似とるな」

「お師匠様も”ペル”って呼んでたんですか?」

「”ペル”はここで他の弟子と一緒に修行してたころのアダ名よ」

「そうだったんですか」

「まあ、ペルやジアスよりはよっぽど才能あるよ、お前さんは」

「えっ……本当ですか?」

「本当。ペルとかジアスは才能無しじゃった」

(あの2人が才能無しなの……?)

「で、お前が勝ちたい相手とやらはどんな剣を使うんじゃ?」

「私が袈裟斬りで飛び込んでいったら抜いたのが全く見えずにみぞおちに刺さっていたんです」

「みぞおち?」

カミイズミは鼻でふんと笑いながら言う。

「典型的な速さ先行型じゃな。強さが速さだと履き違えとる類じゃ。しかも仕留め損なっとるし」

「速いほうが強いんじゃないんですか?」

「ぜんぜん違うよ。さっきのわしなんてぜんぜん速く動いとらんぞ。人間が動ける速さなんぞ限界があるんじゃ。そんな大変なもんを鍛えるのは面倒臭いじゃろ」

カミイズミはお茶を飲み干すともう1杯注ぎ始めた。

「あの、さっきのお師匠様の技の話なんですけど」

「なんじゃ?」

「確かにお師匠様を斬った感触があって」

「そういう技じゃからな」

「あの技を教えて頂けないでしょうか」

「あんなしょうもない技覚えんでいいわい」

「しょうもない技?」

「無刀取りという技じゃ。弟子の育成用に開発した技じゃから実戦では役に立たんよ」

(ものすごく役に立ちそうな気がするけど……)

「まあ、お前さんなら、そいつには3年もありゃ簡単に勝てるようになるじゃろ」

「さ、3年!?」

「そんな一朝一夕で強くなれるわけないじゃろ。圧倒的格上に3年で勝てるなら上出来じゃよ」

「はい……」

「さて、そろそろ寝ようかの。明日から厳しいぞ」

「は、はい」

――ここからイサの修行の日々が始まる。

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