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【小説】竜帝の野望2-ブア島の大戦-・第5話

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――5日後夕刻。ラハトゥの丘から西に5日間の場所。ロウサンリの森。

第7中隊は大隊から分離してこの場所に来ていた。針葉樹が生い茂る、割りと深い森である。端から端まで抜けようとするとおそらく半日はかかるであろう。ここに、ラハトゥ戦での敵の残党が100名ほど逃げ込んだのである。ゲリラ化するとやっかいだからと掃討を命じられたのだ。

森の中に入り、敵兵を探す。広い森であるので隅から隅まで探すのは時間がかかる。斥候を放って半日以上経つが、未だに戻ってくる気配はない。

「……逃げられたか」

中隊長がそう判断し、帰還を命令しようとしたその時。小隊の1つが悲鳴や雄叫びで騒ぎ始めた。1人の伝令兵が中隊長のところにやってくる。

「何事だ!?」

「て、敵襲!! 第3小隊が交戦中!! 敵の勢いが凄まじく、全滅しつつあり!!」

「敵の数は!?」

「2人です!」

「なんだと!?」

中隊長はすぐに残りの小隊に第3小隊の支援を命じた。304分隊にも現場に向かえとの指示が来る。

「敵兵が2人ってどういうことなんでしょう?」

ダムが走りながら言う。

「わからん」

レイガはそう言いつつも嫌な予感がしていた。

現場にたどり着いたレイガたちが見たのは恐るべき光景だった。黒い甲冑を身につけた剣士が巨大な両手剣を小枝のように振り回し帝国兵をまるで紙くずのように斬り刻んでいるのだ。アルの剣よりも太く、長く、重く、常人では持つことすら不可能な代物だった。見たところ一振りで6人7人を同時に斬り裂いている。5人の帝国兵が周りを囲んで一斉に斬りかかるも無残に斬り裂かれた。帝国兵は完全に指揮系統が失われ、大混乱に陥った。森には悲鳴や怒号が響いている。そして、黒剣士の傍らにはニヤニヤしながら立つあの男。

「シャルペナ!」

レイガが思わず叫ぶ。

「あの笑ってる男の人ですか?」

リュカが不審な表情でシャルペナを見つめている。アルが背負った剣を抜き、構えようとしたとき。

「待て! やめろ!」

レイガがアルを止める。

「なぜです!? 仲間が死ぬのをただ眺めてろと?」

「お前じゃ勝てねえ。死にたいなら行け」

レイガに言われて黒剣士を見ながら歯ぎしりをするアル。そうこうしてるうちに黒騎士はこっちのほうに歩いてきている。

「お前ら退け! 茂みの中に隠れろ!」

とっさのレイガの判断だった。全員が近くにあった茂みの中に隠れた。

「……声を立てるなよ。嵐が過ぎ去るのを待て」

レイガが小声で全員に命令する。その間にも黒剣士は巨大剣を振り回し、すでに50人以上斬り殺している。

「軍規違反では? 敵前逃亡ですよ?」

アルがレイガの判断に疑問を呈す。

「どうせ告発する奴はいねえさ。全員死ぬからな」

そのときベルルが異変に気づく。

「隊長!! リュカが居ねえ!!」

「なんだと!?」

レイガが隠れてる人員を確認すると確かにリュカの姿が見えない。

――許せない!! 自分の仲間を盾にするなんて!! 今度会ったら私が殺すから!!

「まさか、本当にシャルペナを……」

そのダムの言葉を聞く前にレイガとアーシェが茂みから飛び出した。

「アーシェ!! 下がってろ!!」

「かっこつけてる場合じゃないでしょ」

2人は悲鳴と怒号を上げながら大混乱に陥っている帝国兵の中をリュカを探して走り回るがどこにもいない。そのうち黒剣士はアーシェに目をつけ、思いっきり横薙ぎに巨大剣を振り回した。アーシェは頭上高く飛び上がって間一髪でかわしたが、その横薙ぎ攻撃によってそばにあった針葉樹が二本切り倒され、帝国兵3名が巻き添えで真っ二つになった。バキバキと音を立てて倒れる2本の木。

(こりゃやべえ、リュカより俺らのほうが先に死ぬ)

とっさにそう思ったレイガが叫ぶ。

「アーシェ退け!! 逃げるぞ!!」

レイガとアーシェは元居た茂みの方へ逃げる。黒騎士はアーシェを追いかけようとする。

「逃げる奴は追わなくていいジレロ。ここにいる連中を殺せ」

シャルペナが黒剣士に言う。

(ジレロ……?)

レイガはその名前に聞き覚えがあった。

「お前ら退くぞ!! 逃げるんだ!!」

304分隊は全速力で戦場から離れた。自分たちの無力さに打ちひしがれながら――

――黒剣士から逃げた日の夜。

304分隊は森の一角で火を焚いて野営をしていた。あれからほとぼりが冷めた頃を見計らって戦場に戻ってみた。死体の数からしておそらく304分隊以外は全員が殺されたと思われる。リュカの死体が無いかどうか隅々まで確認したが、どこにも無かった。アーシェだけが戦場に残り、まだ探している。

「……ありゃあ、黒い死神だな」

レイガが真剣な表情で言う。

「黒い死神? なんですかそれは」

ダムがレイガに尋ねる。

「昔、ゼレルシュの戦場に居たとき、聞いたことがある。ジレロって名前の物凄い剣士がいるってな。そいつは”黒い死神”と呼ばれてると」

みんな俯いている。さすがのラスもこのときばかりは死体から金目のものを漁ったりはしなかった。

「リュカを助けに行きましょう! 死体が無かったからきっとあの2人に連れ去られたんですよ」

アルが身を乗り出して全員に訴えかける。

「助けも何も場所がわからねえだろ」

ベルルがぶっきらぼうに言う。そのときアーシェが戦場から戻ってきた。

「姉さん何かありましたか?」

シュアルがアーシェに尋ねる。

「……これが落ちてた」

アーシェがレイガに手渡したのは1枚の小さな紙切れだった。

「これは……地図?」

手書きで書かれた地図と思わしき図である。全員がレイガの周りに寄ってきてレイガの後ろから紙切れを覗きこむ。

「これって、この周辺の地図じゃないですか!?」

ダムが言うように、地形から見ても明らかにロウサンリの森周辺の地図であった。森から南西に3日歩いたところに☓印が付けられている。

「おそらくあの2人が分隊に合流するための地図では? ☓は合流する場所」

ダムが分析する。

「助けに行きましょう! リュカはこの場所に居るはず!」

アルが改めて訴える。

「俺は反対だな。一刻も早くこの状況を大隊に報告すべきだ」

ベルルがぶっきらぼうに言う。

「仲間が攫われた以上、助けるべきだよ」

シュアルが珍しく真剣な表情で言う。

「我々だけ手ぶらで帰っても敵前逃亡を疑われるだけでは? 少しは敵の首を持って帰らないと」

ダムは軍法会議にかけられることを恐れる。

「新しい戦利品があるかもしれないから俺は行ってもいいよ」

ラスは黒い死神への恐怖よりも戦利品を選ぶ。隊員の意見は真っ二つに割れていた。そのときアーシェが立ったままやるせない表情でしゃべり始める。

「あの子の父さんも傭兵だったのよ」

全員がアーシェのほうを見る。

「そして味方に裏切られて殺された」

全員黙って聞いている。

「この間、進軍してるときに聞いた。……あの子、とても悲しそうにしていた」

切ない表情で話すアーシェ。

「……くそ!」

やるせなさから拳で地面を叩くベルル。

「明日、この場所に向けて出発する。俺らが命じられたのは残党狩りだ。残党の居場所がわかった以上、そのまま帰るわけにはいかねえ」

全員がレイガのその言葉に納得したようであった。明日からのリュカ救出作戦に備えて全員が眠りについた。リュカの生存を信じて。

――野営地を出て翌日の昼、一行は印の場所を目指して草原を行軍していた。背丈ほどの草が生い茂る鬱蒼とした草原である。

行軍の先頭はベルルである。

「ベルル、お前ちょっと急ぎすぎじゃないか」

ラスが後ろからベルルに忠告する。

「えっ……、べ、別に急いでねえよ。普通だよ」

「ペース守らないと持たないぞ」

「うるせえな、この守銭奴!」

一番後ろにはレイガ、アーシェ、アルが進んでいる。

「姉さん」

「なに?」

アルが一本の剣を差し出す。

「これを」

「なにこれ」

「ロウサンリで拾ってきたんです。剣を取ってください」

「……いらない」

「しかし今は手加減しているときでは」

「別に手加減はしてない」

「姉さんの柔術の腕からして剣を取ればひとりで100人はゆうに殺せるはず。死神の相手が出来るのは姉さんしかいません」

アーシェは何も言わずに歩いている。しかしアルは剣を引かない。

「姉さん」

「いらないって言ってるでしょ! あんたそれでも傭兵なの?」

アーシェの怒鳴り声に全員が驚き、足を止める。

「アル、無理強いするな。人にはそれぞれ事情があるんだ」

レイガがアルを諌める。

「は……、すみませんでした」

剣を引き、頭を下げるアル。そのとき――

「て、敵襲! 10時の方角!」

ダムの声に反射的に武器を取る9人。言われた方向を見てみると雄叫びを上げながら100人規模の敵勢が押し寄せてくる。

「なんでこんな距離まで気付かなかった!」

「草で見えませんでした!」

100人の軍勢はあっという間に304分隊を取り囲むと攻撃を仕掛けてきた。隊員たちはあまりに多勢に無勢なため浮き足立っている。

「お前ら落ち着け! 20人も倒せば脱出できる! アルとアーシェは前方の敵を全力で攻撃しろ出来るだけ早く突破口を開け! 他はふたりの援護だ! 守り主体でいい! できるかぎり横後ろの敵をふたりに近づけるな!」

敵は四方八方から304分隊を斬りつけてくる。

「ちえええええええ!」

アルは前方の敵を一刀両断にした。

「アル! 必殺じゃなくていいから複数人を戦闘不能にさせるように斬りな!」

「わかりました」

アルは威力よりも速さ主体で前方の敵の足を斬り始めた。一振りでふたり、三人を斬っている。足を斬られた敵はその場に倒れこみ、動けなくなった。アーシェは天高く飛び上がると囲んでいる敵兵の頭を踏みつけて囲いを突破し、囲んでいる敵兵の背後から挑発的な攻撃を始めた。

「おらおら! あんたら女一人殺せないのかい? この玉なしども!」

挑発された前方の敵兵たちは激昂して陣形を崩しアーシェを取り囲みはじめた。

「女は無視しろ! 陣形を崩すな!」

敵の指揮官が統制しようとするも敵兵はアーシェを攻撃しようとする前方と304分隊を攻撃している後方へと別れ、完全に陣形が乱れた。

「前方はアーシェとアルに任せろ! 俺らは後方の敵を引きつけるぞ!」

レイガが指示を出す。

「ちええええええええ!」

アルは敵の背後から足を斬りつける。

「おらおら! その程度か! 玉なしども!」

このときのアーシェの柔術は神業であった。

四人が一斉に斬りかかってくるとアーシェはそれらの太刀筋を全て紙一重でかわす。一人の敵兵が上段に剣を構え、斬りかかろうと間合いを詰めようとしてくる。アーシェはその敵兵の間合いに入るか入らないかぎりぎりのところで動いて敵兵を誘導し、別の敵兵の前まで来るとスッとふたりの間合いに入る。するとふたりの野盗が同時にアーシェに斬りかかる。そこでアーシェが横に避けるとふたりの敵兵が同士討ちしてしまった。残りのふたりが別方向から同時に斬りかかる。アーシェは片方の敵兵の腕を取るとひょいと投げてもう一人の敵兵にぶつける。その衝撃で思わず放り出された敵兵の剣を捕まえると重なって倒れこんでいた二人を同時に串刺しにした。

「くそっ! 損耗が激しい! 退け! 撤退だ!」

二十五人ほど倒したところで敵の指揮官が号令をかける。それと同時に敵兵たちが一斉に撤退し始めた。

「全員集合しろ! 誰も死んでないか!」

レイガのもとに隊員たちが集合する。

「アルはどこ行った!」

全員が周りを見回すがアルの姿が無い。

「全員で探せ! アルが倒れてないか!」

隊員たちは草をかき分けながらアルを探す。

「隊長! いました!」

ダムが草むらの中から声を上げ、手をふる。全員が草をかき分けてダムの元に行くとアルが倒れていた。

「アル! アル!」

レイガがアルを抱き起こす。

「う……、後ろから」

アルが苦痛に顔を歪めながらそう言うと、レイガはアルをうつ伏せにして鎧を脱がせた。背中を斬られている。レイガは慎重にアルの傷を調べる。

「大丈夫だ。皮しか斬られてない。斬られたショックで昏倒しただけだ。……、おい、シュアル! 手当てしてやれ!」

「了解」

「今日はこのままここで野営にする! 全員で準備しろ!」

レイガの指示で304分隊はキャンプを張り始めた。

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