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【小説】竜帝の野望2-ブア島の大戦-・第6話

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――その日の夜、野営地にて。

アルはシュアルから傷の手当を受けている。

「これでよしと」

シュアルはアルの胴から肩に包帯を巻いた。

「すまん」

「いま傷口を見てみたらもう血は止まったみたいだから大丈夫だよ」

「くっ……、俺は情けない……。こんなかすり傷で倒れるなんて」

「誰でもそんなもんだよ」

それを遠目に見ながら険しい表情をするベルルの姿があった。ベルルは火の前で鶏ももを食べているアーシェのところに詰め寄る。

「お前が剣を取っていればアルは負傷しなかったんじゃねえのか?」

「ベルル。やめろ」

そばでエールを飲んでいたレイガが制止する。アーシェは平然と鶏ももを食べている。

「おい! なんとか言えよ!」

ベルルはアーシェの服を掴んだ。その瞬間、ベルルの体は宙を舞っていた。地面に叩きつけられるベルル。

「ベルル。大丈夫か」

しかしベルルは止まらない。

「なんでだよ隊長! なんでこいつをかばうんだ! こいつのせいでみんな死にかけた! こいつが剣を取ってればリュカだって……」

ベルルがそこまで言ったところでレイガはベルルの顔面を思い切りぶん殴った。地面に倒れ込むベルル。

「ぐっ……、隊長……」

レイガは野営地を歩きながら大声で叫ぶ。

「いいかお前ら! よく聞け! 傭兵なら自分の力で戦え! 人の力をあてにするんじゃない! 昨日味方だったやつが明日には敵になってるなんてことはザラだ! 人の力なんぞ頼ってたら死ぬぞ!」

全員がレイガの言うことを黙って聞いている。

「ベルル。リュカを助けたいなら、みんなを守りたいなら、自分でやれ。アーシェの力をあてにするんじゃない」

ベルルは下を向いたまま何も言わなかった。

――未明。他の隊員が寝静まる中、火の前でレイガとアーシェがエールを飲んでいる。

「子どもたちのおもりも大変ね」

「まあ、隊長の宿命だろ」

「……ふふ、本当なら隊長って柄じゃないんでしょ?」

レイガを横目で見ながら笑うアーシェ。

「あ? どういう意味だ、そりゃ」

「金さえ手に入ればいい。あんたがリュカに言った言葉」

レイガはバツが悪そうにしている。

「……それが傭兵だろ。金のために人を斬り殺す」

「リュカ、かなり怒ってたわよ。行軍の間もあんたの悪口ばっかり」

アーシェは軽く笑った。レイガはむくれている。

「甘っちょろいお嬢さんだよ。だからこんなことに」

「世界を平和にするため……、だっけ?」

「ああ。傭兵が自分から仕事無くしてどうすんだっての」

ふたりは目を見合わせて笑うとエールを口に運んだ。

「……なあ」

「ん?」

「……なんで剣捨てたんだ?」

「さあ、なんででしょうね」

「言えないような理由なのか」

「人生いろいろよ」

アーシェはエールをぐびりと飲み干した。

「ふん……、ま、言えない理由なら聞きやしねえよ。誰だって忘れたい過去の1つや2つあるしな」

そう言うとレイガはごろんと横になり、グーグーと寝てしまった。

「人生いろいろ……か」

アーシェは傍らに落ちているベルルの剣を見つめた。その晩、アーシェはずっとレイガの横で酒を飲んでいた。

――ロウサンリを出て3日後の昼、304分隊は☓印の場所に居た。その場所には小さな砦があった。

近くの茂みに隠れて伺ってみる。見たところ塀の上に弓兵が3人居る。また、門を守ってる傭兵が2人、外をうろうろしてる兵士が3人。

「砦の中に何人いますかね」

アルは鋭い目つきで砦を見つめながら言う。

「あの砦の大きさだとそんなに入らない。おそらく10人ぐらいだろう」

レイガが答える。

「20人規模で守る砦、弓が3人。9人ではきついですね」

シュアルが険しい表情で言う。

「死神もいるしな」

ベルルが嫌なことを言う。

「どういう作戦で行くんですか?」

ダムがレイガに尋ねる。

「……あの砦は周りから攻めるには固すぎる。正面突破するしかねえ」

全員の表情が険しい。

「弓に気をつけろ。俺が3つ数えたら突撃だ、いいな?」

全員がうなずく。

「いくぞ、1……2……3、突撃!!」

全員が一斉に茂みから飛び出した。砦の門を目掛けて一直線に走って行く。気づいた弓兵が弓を飛ばしてくる。弓がアーシェに迫ったが刺さる前に掴んだ。この弓はあんまり性能の良い物では無いらしく、矢の速度が遅いため、避けやすかった。アルとシュアルに矢が迫ったが余裕で避けられた。他の全員も難なく避けている。そして閉まった木の門がだんだん迫ってくる。アルが背負った剣を抜く。9人はアルとアーシェを先頭に門へ突撃した。

「ちええええええええええ!!」

アルの奇声が轟き、アルの剣とアーシェの前蹴りが同時に門をぶち破る。

「アーシェは弓兵を始末しろ! 他は全員俺と一緒に来い!」

レイガが指示を出す。

アーシェは一飛びで塀の上に登ると弓兵の一人に突撃した。弓兵は懐から短刀を取り出し、右手に持ってアーシェを突いてくる。アーシェは弓兵の右手を掴んでそのまま短刀で弓兵の喉を突いた。血を噴き出して倒れる弓兵。そのときアーシェの後ろから矢が飛んできたが、アーシェは半身になって避けた。アーシェは塀の上を走って物凄い速さで別の弓兵に迫りみぞおちに前蹴りを食らわせる。前のめりになって悶絶する弓兵。アーシェはそこですかさず両手で頭を掴んで顔面に膝蹴りを食らわせる。そして、のけぞったところで顔を掴んで後頭部から地面に打ち付けた。絶命する弓兵。塀の上を見回すと最後の1人の弓兵が居ない。どうやら恐れをなして逃げたようだ。

塀の下では砦の中の敵兵が全部出てきて乱戦になっていた乱戦が行われていた。弓兵を除くと18人いる。

「ちええええええええええ!!」

アルが敵兵の1人に剣を振り下ろす。相手も両手剣の使い手である。同時に剣を振り下ろしたところ、敵兵が剣ごと真っ二つになった。別の敵兵が後ろから突きを仕掛ける。相当な手練で完全に殺気を消した突きであった。アルがやられると思った瞬間、塀の上から飛び降りてきたアーシェがそのまま敵兵を踏みつけた。敵兵が持っていた剣が宙に舞い上がる。アーシェは舞い上がった剣を掴むと倒れている敵兵にそのままに突き刺した。絶命する敵兵。

「ありがとうございます! 姉さん」

「礼を言ってる暇があったら戦いな」

敵兵はメイスをレイガの頭に振り下ろした。レイガはそれを横に弾いて相手の頭に戦斧を振り下ろす。果物のように2つに割れる敵兵の頭。全員で合計10人ほど殺したころ、敵兵の1人が逃げ出し始めた。雪崩を打って他の敵兵たちも逃げ出していく。アーシェはその一人に足を引っ掛け転ばせ、捕らえた。

――304分隊は砦の中に入った。その辺にあった縄で敵兵を縛り、全員で取り囲む。

「た、助けてくれ!お願いだ!何でも言うから!」

敵兵はかなり怯えて、暴れている。

「シャルペナを知ってるか?」

レイガが敵兵に尋ねた。

「知ってる! 今朝までここに居た!」

敵兵が暴れながら答える。

「どこに行った?」

「そ、それは知らねえ!」

アーシェの蹴りが敵兵の顔面に炸裂する。鼻血を出して倒れる敵兵。

「本当だって! 本当に知らねえ!」

「そのときに女は一緒だったか?」

「女? あのリュカって女か? あいつならここの地下室にいる」

全員が一瞬顔を見合わせた後、下へ降りる階段へ走った。

地下室は牢屋になっており、3つの部屋があった。1つ目の牢屋には何もない。2つ目の牢屋にも何もない。3つ目の牢屋――人が1人倒れてる。体格からして女である。しかも裸だった。後ろ手に縛られて向こうを向いて寝っ転がっている。

「あんたら下がってな」

アーシェが牢屋の扉を押すとキイという音を立てて扉が開いた。倒れてる人に近づくアーシェ。倒れてる人に触るとゴロンと仰向けになった。

「リュカですか!?」

アルがアーシェに尋ねる。

「死んでる」

アーシェははっきりと言う。

「……リュカは殺された」

それを聞いてがっくりと崩れ落ちるアル。

「クソ……!!」

壁を殴るベルル。アーシェが自分の上着を遺体にかけてやる。全員で遺体を見てみると死後半日ほど経過している。だが死臭は少ない。おそらく地下室が寒いせいであろう。遺体の顔は原型を留めないほどに腫れ上がっていた。おそらく相当な回数殴られたと思われる。

「この遺体、本当にリュカですか?」

シュアルがレイガに尋ねる。レイガは遺体にかかっている上着の裾から出ている足を指さした。

「この太ももの傷はリュカのものだ」

その場の空気が重くなる。

「あんたら、ちょっと上に行ってな。遺体を詳しく調べるから」

アーシェが全員を急かすように促す。

「頼む」

レイガはそう言うと全員を上に連れて行った。

アーシェは遺体の上着を剥がす。全身、腹も胸も背中も痣だらけである。だが痣は1種類ではない。おそらく棒のようなもので殴ったり拳で殴ったり色々なもので殴られたと思われる。そして、下腹部を調べた瞬間――アーシェの顔が激しく歪む。

1階に戻った9人は何も言わずにアーシェが調べ終わるのを待った。しばらくすると、アーシェが戻ってくる。

「……どうでした?」

ダムが問う。アーシェは何も答えず、やるせなく首を横に振った。一同はアーシェの表情を見て、リュカが何をされたのかを察する。

ベルルはがまんできす、剣を抜き、捕虜の首を跳ねた。

「くそ……!」

その後、リュカの遺体は砦にあった毛布で包まれ、砦の外に埋葬された。そして、全員で簡単な供養の儀式をした。

その夜。一行は砦に泊まることにした。砦の内部には食料も酒も豊富にあった。全員手を付けようとしなかったが、レイガが「食べないと持たないから食べろ」と命令したため、無理して食べていた。

「ベルル、お前ちょっと飲み過ぎじゃないか?」

ラスがベルルに言う。

「うるせえ! こんなに酒がたくさんあるのに飲んで何がわりいんだよ!!」

ベルルは浴びるように酒を飲んでいた。

「明日に差し支えるぞ」

「てめえは黙って金勘定でもしてろ!!」

アルとシュアルが隅のほうで食べながらこそこそ話している。

「ベルルはなんであんなに荒れてるんだ?」

「鈍感な男だな君は。男心ってやつだよ」

「その割には助けに行くの嫌がってたじゃないか」

「素直じゃないんだな」

砦の外ではレイガとアーシェが座って夜風を浴びていた。

「……俺の責任だ。リュカには悪いことをした」

レイガは目をつぶっている。

「傭兵が死んだことを傭兵が悩んでも仕方ないでしょ」

アーシェは淡々とエールをラッパ飲みしている。

「それに、あんたが命令したわけじゃない。あの子が自分の判断でやったことよ」

レイガはしばらく黙っていた。

「あいつは傭兵じゃねえよ。あんな傭兵は居ない」

アーシェは何も言わずに軽く笑いながらレイガの顔を見た。

「確かに傭兵が傭兵の死を惜しむのはおかしなことだが、俺が悔やんでるのは指揮官としてだ」

「金さえ手に入れば良いんじゃなかったの?」

笑いかけるアーシェにレイガは何も言わず、黙っている。

「金さえ手に入ればいいさ……」

レイガはか細く呟く。

「あんたも今まで見てきたんでしょ。戦場の現実を。甘っちょろいこと言ってる新兵が死ぬなんて珍しくもなんともない」

レイガは何も言わない。

「隊長がそんなにしょぼくれてちゃ困るんですけどね」

レイガは何も言わずに立ち上がると砦の中に戻っていった。

「まだ子供ね」

アーシェは星空を眺めながら呟いた。

――翌朝。

「なんですって!? このまま旅団に合流する!?」

アルが驚いてレイガに尋ねた。

「仇を取りに行きましょうよ! このままじゃやりきれない!」

ダムが珍しく語気を強める。

「……仇を取ろうにもシャルペナの居場所がわからねえ」

レイガが真剣な顔で2人に言い聞かす。

「あんた、よくそんな冷血なこと言えるな!!」

ベルルがレイガに噛み付く。

「これも戦場の現実ってか!? 仲間にあんな酷いことされてすごすごと帰れってのか!?」

「どうしようもねえんだ!!」

レイガも別にリュカを見捨てたわけではない。だが、ジレロと戦うと確実に死者が出る。これ以上の犠牲は避けたかった。

「……上官の命令は素直に聞け。行くぞ」

9人はニリラニス平野に向けて歩き出した。

⇒最終話に続く