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【小説】放浪の帝イサ・第1話-仇討ち-

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みなさんこんにちは。

てっかまきです。

今日から「竜帝の野望」新シリーズ初めます。その名も「放浪の帝イサ」

これは「竜帝の野望」の2年後。「竜帝の野望2-ブア島の大戦-」の4年前の話になります。

時系列は

竜帝の野望(イサ16歳~21歳)⇒放浪の帝イサ(イサ23歳)⇒竜帝の野望2-ブア島の大戦-(イサ27歳)

です。

基本的に1話完結型で、イサがティシュラルトの各地方を点々と旅して事件を解決していくという話になります。

水戸黄門とか暴れん坊将軍とかあんな感じ。

今まで書いてるのは8話までです。続きも書こうと思えば書けるのですが、止まってますね。ただ、1話完結で、そんなにモヤモヤすることは無いと思うので、上げようと思いました。

それではご覧ください。どうぞ。

第1話-仇討ち-

竜帝イサ・アレドラードが支配する帝国領ドラグランカ大陸にソラリタの町という町があった。ある日の昼、その町の近くの森で5人の男を前に1人の少年が剣を持って立ち向かおうとしていた。
「お前ら覚悟しろ! 姉ちゃんの仇だ!」
少年は剣を持ち、手が震えながら5人の男に向かって叫ぶ。5人の男は大爆笑する。
「何のことか知らんが、人買いに売っぱらえばそれなりの金になるかな」
5人の男は野盗であった。少年を前にしてニヤニヤと笑っている。
野盗がそんなことを言っていると、少年が雄叫びを上げ、野盗に上段から斬りかかった。難なくその太刀筋をかわす野盗。少年の剣は木の枝に当たってボンと跳ね返った。手がジーンと痺れて動けない少年。
「太刀筋が歪んでるじゃねえか。もっと刃をきっちり立てないとダメよぉ」
野盗の1人がふざけて少年に剣の使い方を教える。大爆笑する他の4人。少年は再び雄叫びを上げると今度は横薙ぎに斬りかかった。野盗は少年の剣を自分の剣で軽く弾き飛ばした。茂みの中にすっ飛んでいく少年の剣。
「さあ、一緒に来るんだ」
野盗の1人はそう言うと少年の腰を抱え、無理やり肩に担いだ。
「やめろ!! はなせ!!」
少年はそんなことを言いながら暴れるが大柄な野盗の前では全く効果が無い。
「おい、帰ろうぜ」
そう言って後ろを振り返った野盗は仰天した。後ろに立っていた4人の首が無くなっており、血が吹き出していた。バタリと倒れこむ4体の胴体。
傍らには1人の女が冷たい目をして立っていた。見たところ若い。20歳前後だろうか。緑色の髪を後ろで束ね、男物の服を着て、血のついた剣を持っている。小柄で愛らしい顔立ちなだけに血のついた剣を持っていると、より不気味に感じる。
「な、なんだてめえは!?」
野盗は少年を地面に下ろすと左手で剣を抜き、構えた。
「これから死ぬ奴に名乗ってもね……」
女はピュッと剣を1回振って血払いをすると剣を納めた。そして、野盗にゆっくりと近づいていく。
「や、やめろ、それ以上来るな……」
野盗は震えている。そして、女が近づいていくうちに意を決したのか雄叫びを上げながら間合いを詰め上段から剣を振り下ろした。女は入身で右にそれをかわすと野盗の剣の柄を右手で逆手に掴み、右側にぐいっと腕をひねった。剣を振り下ろした勢いが付いているところに腕をひねられてバランスを崩し、ぐるんと宙を舞う野盗。思わず野盗は剣を持ってる手を離し、剣は女の手に渡った。女は奪った剣を倒れこんだ野盗の心臓に投げつけるように突き刺した。血しぶきを上げて絶命する野盗。
少年は震えながらその一部始終を見ていた。小さな女が大柄な野盗5人をいっぺんに倒したのだ。恐怖もあり、胸躍る感じもあり、それらが同時に少年の心のなかで入り交じっていた。
「この辺に町は無い? 坊や」
女は少年に向かって何事も無かったかのように言う。
「あ、あの、町ならこの先に僕の住んでいる町が……」
その瞬間、女は屈託のない笑顔を見せる。
「あー、良かった! 3日連続野宿だったからお風呂に入りたくてたまらなかったのよ」
たった今5人を殺したとは思えない笑顔であった。

女と少年は町に向かって歩きながら話していた。
「僕は武器屋の息子のアルンって言うんだ。お姉さんの名前は?」
アルンは少し照れくさそうに言った。この年頃の若い女とあまり話したことが無く、ドキドキしていた。
「私はアーシェ、冒険者よ」
女は前を向いたまま無表情で言う。本当はイサという名前である。帝国の君主、竜帝イサ・アレドラードその人であった。公務は影武者と側近に任せて自分は諸国漫遊の旅をしているのである。
「あの、アーシェ……さんは、どうやってそんなに強くなったの?」
アルンはイサの顔から目を逸らして言う。恥ずかしいのだ。
「16歳のころから剣を習ってるから」
イサは相変わらず淡々と前を向いて答えている。
「僕、男なのに何も出来なかった」
イサは初めて少し笑った。
「最初はそんなものよ。私も16歳のころ野盗に襲われてさ。何も出来ずに……連れて行かれそうになって」
本当は強姦されそうになったのである。だがアルンへの配慮から表現を変えた。
「……そこを偶然通りかかった剣の師範に助けてもらったの。それが入門のきっかけ」
イサは16歳までは帝国領ディルメース大陸の小さな村で育った。その後、旅に出て帝都へ渡り、竜帝の娘であることがわかったのである。剣の修行をしたのはその道中でのことであった。
「その師匠に今も習ってるの?」
アルンは初めてイサの顔を見上げて話した。イサの強さの秘密に興味津々だった。
「いや、その師匠は私が入門して1年後に死んだ」
「死んだって病気か何か?」
「違うわよ。……私が殺したの。勝負してね」
アルンは絶句した。しばらく黙っていたがやがてまた話し始めた。
「その後は誰に習ったの?」
イサは少し懐かしそうな顔をしている。
「カミイズミっていうお師匠様。90歳ぐらいだったけど物凄く強いの。3年間修行したけど結局ただの一太刀も入れられなかったなぁ」
アルンはじっとその話を聞いていた。小さな町に住む11歳の少年には途方もなくスケールの大きい話に感じた。
「その師匠はまだ生きているの?」
イサは少し切なそうな表情をした。
「ううん。私に目録をくれてからすぐに死んじゃった。寿命でね」
「……そうなんだ」
2人は再びしばらく黙っていた。
「その後は自分で修行したの?」
その言葉を聞いてイサはクスっと笑った。
「うーん、どうだろう? 一応、色んな所に行って色んな人と戦ってるけど、正直もう強くなりすぎて全然修行にならないんだよね」
アルンは目を輝かせた。目の前の小さなお姉さんが途方もなく大きく見えた。
話しているうちに2人は町についた。
「宿屋ってどこかわかる?」
「宿屋ならこの通りをまっすぐ行って右だよ。今日は助けてくれてありがとうアーシェさん」
アルンはニコッと笑って言った。イサは優しく微笑み返すと宿屋に向けて歩いて行った。

――その後、宿屋にて。
イサは宿屋に着くとチェックインするなりさっそく風呂に入った。そして、一頻り旅の疲れを癒やした後、自室に戻った。
「ん?」
部屋の中を見ると荒らされた形跡がある。革袋の口が無造作に開けられているのをイサは見逃さなかった。袋の中を見てみると、財布がない。そして竜帝の身分を証明する紋章メダルも無くなっていた。イサは頭を抱えて壁にがっくりともたれ掛かった。財布はともかく紋章メダルを失くすとまずいのだ。メダル自体はまた作れば良いのだが、女官長のエールシスにこっぴどく怒られるのである。これまで3回失くしているが、その度にエールシスの怒りは増大しているように思えた。今度無くしたらどれだけ怒られることか――。その夜、イサは生きた心地がしなかった。

――翌朝。
イサはこの町の人々に色々と話を聞いてまわるため、宿屋を後にした。もともとイサが旅をするようになったのも国民の暮らしぶりを自ら見たいと思ったからなのである。最初にイサが向かった場所は市場であった。朝から市場には多くの人がごった返していた。店には新鮮な野菜や肉、魚がたくさん並んでいる。どうやらこの町の経済は好調なようである。イサは目についた果物屋に立ち寄ってみた。
「おはよう、おじさん」
「おっ、おはよう姉ちゃん。旅人さんかい?」
果物屋はイサが持ってる革袋を見て旅人だとわかったようである。
「そうよ。昨日この町に来たの。リンゴ1つ貰える?」
「リンゴかい? 銅貨1枚だよ」
この世界の貨幣システムは万国共通であり、銅貨、銀貨、金貨の3枚の硬貨から成る。それぞれの硬貨は銅貨100枚が銀貨1枚、銀貨100枚が金貨1枚というレートで交換される。これは固定相場である。
「あ、やばい、昨日財布盗まれたんだった……」
「あらら、盗まれちゃったのかい? 最近多いんだよ。タダであげるから持ってきな」
店主は優しく微笑んだ。
「えー、本当? ありがとう」
イサはリンゴを革袋に仕舞った。
「この町の暮らしぶりはどう? 見たところみんな幸せそうに暮らしてるみたいだけど」
果物屋の表情が急に深刻になる。
「姉ちゃん、悪い事言わねえからすぐこの町から出ていきな。命が惜しかったらな」
イサは一瞬意味がわからず、きょとんとした。事情を聞こうと思ったが、果物屋が他の客の相手をし始めたので邪魔をしては悪いと思い、市場を後にした。
次に来たのは商店街だった。アルンに会おうとして来たのである。アルンなら何か話してくれるかもしれないと思った。武器屋はどこかと思ってうろうろしていると、
「あ、アーシェさん、おはよう」
と言う子供の声が聞こえた。振り向くとアルンが立っていた。
「ああ、アルン。あなたを探していたのよ」
「僕を? なんで?」
「ちょっと聞きたいことがあってさ」
「なに?」
イサはちょっと周りを気にすると、アルンに目線を合わせるため、しゃがみこみ、両手でアルンの腕をそっと掴んだ。
「あのさ、さっき果物屋のおじさんに、この町の生活どう、って聞いたら、命が惜しかったらこの町出て行けって言われたんだけど、なんか心当たりある?」
アルンは深刻な表情をして俯いた。
「……生贄にされるんだ」
イサの眉間に少ししわが寄る。
「生贄?」
「うん、若い女の人が生贄にされるんだよ。この町の近くに野盗団の住処があって、町を襲わない代わりに月に1回若い女を差し出せって言われたらしくて。……僕の姉ちゃんも先月連れて行かれたんだ。だから仇を討とうと思って昨日……」
イサの表情が険しくなった。
「その野党団の住処、どこにあるかわかる?」
「それが……わからないんだ。領主様が軍隊を出して調べたけどわからなくて」
イサはしばらく何か考えていた。そして立ち上がると、
「ありがとう、アルン。姉さんの仇は取るから」
そう言って立ち去った。アルンはその後ろ姿をずっと見つめていた。

――2時間後。町近くの森。
イサはどこかに野盗がいないかとウロウロと探しまわっていた。いつもは鬱陶しいほど遭遇するのに、こんなときに限っていないのである。その後1時間ほど探しまわったところ3人の野盗が火を焚いて食事をしているのを見つけた。
イサは野盗に向かって猛烈な速度で走り出すと野盗の1人の後頭部に後ろから前蹴りを食らわせた。前のめりに吹っ飛んで焚き火の中に頭から突っ込む野盗。
「あちーっ! 何すんだて……」
そこまで言ったところで野盗の首は飛んでいた。
「何だてめ……」
もう一人はそこまで言ったところで首が飛んだ。
「ひ、ひいいい!」
最後に残った1人は腰を抜かして怯えている。
「おい」
イサは野盗の首に剣を突きつけて言った。
「この辺に野党団の住処はあるか?」
野盗は目をひん剥いて震えながら首を横に振るだけで何も答えない。
「正直に答えないと死ぬよ?」
イサは野盗の首筋に刃を当て少し手前に引く。野盗の首から血が流れだした。
「し、知らねえ! もう3年もこの辺で野盗やってるけど聞いたことねえ! 第一、そんなとこあったらこんなとこで火焚いたりしねえ!」
イサはそれを聞くと野盗の首を跳ねた。イサはやっぱりかと心のなかで思った。
「アーシェさん!」
イサが振り向くとそこにはアルンが立っていた。
「アルン、どうしてここへ?」
「ごめん、後をつけてきたんだ。どうしても、野党団の場所が知りたくて」
イサは鋭い表情で野盗の死体を見つめている。
「でも……この野盗たちは場所知らなかったね」
イサは野盗の死体を見つめて言う。
「……アルン、女の子を攫ってるのは野党団じゃないよ」
アルンは驚いてイサの顔を見上げた。
「どういうこと?」
イサはピュッと剣を一振りすると鞘に納めた。
「たぶん犯人はリイデュルだよ」
アルンは驚いて固まった。
「リイデュルって……領主様?」
「そう。ここの領主」
「な、なんで領主様だってわかるの?」
「軍を出して野盗の根城一つ見つけられないというのは考えにくい。この野盗共も知らなかったしね。だとすれば他の人間が野盗団のふりをして女の子を攫いに来てることになる。ここら辺で野党団を偽装できるほどの人員を動かせるって言ったらリイデュルしかいないでしょ」
アルンは俯きながら言う。
「僕……どうしても自分の手で仇を討ちたいんだ」
イサは切ない表情でアルンを見ている。
「だから、僕、領主様のお屋敷へ行く」
アルンはイサに背を向けて走りだした。
「待ちな!」
イサに呼び止められたアルンは足を止めて振り向いた。
「今のあんたが行っても死にに行くようなものよ。あの屋敷には兵士が100人はいるでしょ。私が一緒に行ってやる。雑魚は私が片付けるからリイデュルはあんたが倒しな」
「うん」
アルンの目は決意で満ちていた。
「リイデュルははっきり言って剣は弱いけど、それでも貴族がやる最低限の剣の訓練は積んでるから、今のあんたでは勝てないよ。私が特訓してやるから、仇討ちはそれからにしな」
アルンはイサがなぜこんなに領主のことに詳しいのか不思議に思った。しかし、今はイサに従うことにした。
姉の仇を討つために――。

――30分後、ソラリタの町のとある空き地。
イサはアルンのために大きな藁人形を作り、アルンの家の武器屋から剣を持って来て特訓をし始めた。
「あんたがまともにリイデュルと渡り合うには基礎体力訓練から始めて5年はかかる。そんなに待ってられないから子供用の戦い方を教える」
「はい」
アルンの目は真剣だ。本当にリイデュルを殺すつもりなのである。
「子供が大人と戦うのにあれこれと技に手を出してもダメよ。器用貧乏になっちゃうからね。一つの技をそれなりに使えるようにして一撃必殺で倒すしかない」
「はい」
「子供が手っ取り早く大人を殺せる技は”突き”よ。巷に溢れてる流派の多くは子供には危ないとして突きを禁止してるところが多いけど、裏を返せば危ないってことは子供でも殺傷力があるってことよ。片手剣の場合は普通は片手で突くんだけど、子供の場合は力が弱いから両手で柄を持って突いて。では、まずは自分の思うとおりに突いてみて。あんたの癖を見るから」
アルンは気合の発声をしながら藁人形を突いた。しかし、藁人形の中に剣が入っていかない。
「うーん、もうちょっとここをこう……」
イサは背中からアルンの体に手を回しアルンの手を握って突きの構え方を指導し始めた。しかし、アルンの耳には入らない。イサと体が密着してることに胸がドキドキして仕方がなかった。冷たくて柔らかい手の感触。体全体で感じる体温。首にかかる吐息。そして、ほのかに香るいい匂い。
「アルン、あんた聞いてんの?」
「ご、ごめんなさい」

――2週間後、リイデュルの屋敷。
「アルン、まず雑魚を片付けるから、あんたはあの岩の陰に隠れてな」
「う、うん」
アルンは緊張していた。いよいよリイデュルを殺す時が来たのだ。自分のこの手で。大人用の片手剣を背負った小さな戦士はイサの言うとおり岩の陰に隠れた。
イサは門を守ってる兵士に近づくと、
「リイデュルに会いたい」
と単刀直入に言った。門番2人は顔を見合わせる。
「お前頭がおかしいのか? お前みたいなならず者を屋敷に入れ……」
その瞬間兵士の首が飛ぶ。
「て、敵襲!! 全員門へ来てくれ!!」
もう一人の兵士が叫ぶ。
「屋敷の中を探しまわるのが面倒だ。全員この場に連れてこい」
イサは鋭い目つきで睨みつけながら兵士に言う。
やがて100人の兵士がイサの周りを取り囲んだ。
「じゃあ、始めるか」
そう言うとイサは物凄い勢いで兵士を斬り捌き始めた。兵士の一人が上段から斬りかかるとその瞬間に両腕が無くなっていた。そして次の瞬間首が飛んだ。別の兵士が後ろから槍で突いたが横に攻撃が逸れてしまい、振り向きざまに首を撥ねられる。また別の兵士が正面からイサの首に向かって突きを繰り出すと攻撃がなぜか横に逸れてしまい、あれ、自分は相手の首を狙ったはずなのにと思った瞬間に自分の首を飛ばされる。これはカミイズミから学んだシンカゲ流の奥義で微妙な重心の動きや姿勢の変化によって自分が動く方向を相手に錯覚させ攻撃を逸らせるというものである。
アルンは岩陰からイサが戦う様子を見ていた。アルンの目に写るイサの剣技は凄まじかった。太刀筋が全く見えず、3人4人の首が同時に飛び、どんどん兵士たちが倒れていく。しかし、体の動き自体はそんなに速くない。というかほとんど攻撃をかわそうという素振りを見せていない。でも全ての攻撃が当たっていない。かわそうとしてないのに。アルンには不思議であった。
イサは2分ほどで100人の兵士を一掃した。アルンはその様子を手に汗をかきながら見ていた。自分に突きを教えてくれた優しいアーシェはそこには居ない。服と顔と手を血まみれにし、人の首を跳ね、胴体を真っ二つにし続ける様は鬼神のようであった。アルンはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「もう出てきていいわよ、アルン」
アルンはそれを聞くとちょこちょことイサに歩み寄った。イサは息一つ切れていない。イサは横にペッと赤いツバを吐き出すとアルンを見て軽く微笑んだ。そしてなぜかその辺に転がっていた石を1個拾った。2人は屋敷の中に向けて歩き始めた。イサに連れられて門を通り抜けるとき、アルンは吐きそうになった。血と内蔵の内容物の入り混じった臭いである。
「そのうち慣れる。そしてこの臭いを嗅ぐと故郷に帰ってきたような気持ちになる」
アルンは困惑してイサの顔を見た。イサはまっすぐ前を向いて屋敷の中を歩いている。やはりイサは自分とは違う世界の人なのだとアルンは思った。しばらく屋敷の中を歩いて行くと領主の寝室へとたどり着いた。ベッドが5つぐらい入りそうな広い部屋である。
「な、なんだお前らは……!」
リイデュルは血まみれのイサと剣を背負ったアルンに面食らったようで目をひん剥いて驚いている。
「誰か……!」
「誰もこないわよ」
イサが冷たい目つきで言い放つ。
「な、何が目的だ? 金か? 金が目的か?」
イサは部屋を見回している。高価な壺や装飾品で飾られている。
「……このあいだ帝都で会って以来か? リイデュル。まさか私の顔を忘れたわけじゃないだろうな?」
リイデュルはイサが何を言っているのかわからず、しばらくイサの顔をじっと見ていたが、やがて目の前の血だらけの女がイサであることに気づいたようで、イサの前に跪いた。
「りゅ、竜帝陛下」
アルンは目を丸くしてイサの顔を見る。
「町の女を攫っていたのはお前だな?」
リイデュルはイサの顔から目を逸らすと、
「……何のことやら私には」
と惚けてみせた。
「ならば今から屋敷を調べるぞ。少しでも女の痕跡があれば問答無用でこの場で処刑する。今真実を吐けば免罪の機会を与えよう」
「ひっ、申し訳ありません! 私がやりました! 私の趣味で拷問をしては殺しておりました!」
震えながら土下座して謝るリイデュルをイサはフンと鼻で笑った。
「……では、約束通り免罪の機会を与える。このアルンと戦って勝て。それで許してやる」
リイデュルはあっけにとられて顔を上げ、イサの顔を見た。イサは少しではあるが笑っている。
「そ、そんなことでよろしいので?」
「ああ、いいぞ。さっさと準備しろ」
「は、はい!」
リイデュルは壁に掛けてあった剣を取るとアルンに向けて剣を向けた。子供相手とはいえ命がかかっているのであるから表情は真剣である。アルンも背中の剣を取り、リイデュルを睨みつけながら突きの構えをした。
「……では、決闘を始める。始め!」
まず仕掛けたのはリイデュルのほうであった。上段からアルンに剣を振り下ろす。アルンは後ろに飛び退いてそれをかわした。リイデュルは日頃の贅沢三昧のせいでブクブクに太っており動きが遅く、アルンでも難なく避けられた。しかし、アルンも動く標的を突く訓練はしていないので突けない状態であった。どちらも決め手に欠け、その後も3太刀ほどリイデュルが仕掛けたが全て外れた。しかし、次の瞬間、イサがさっき拾った石をリイデュルの顔面に思いっきり投げつけた。苦痛に顔を歪め、しゃがみ込むリイデュル。
「今だ! アルン!」
その声を聞いたアルンは気合いの叫び声を上げながらリイデュルに突進した。そしてアルンの剣はリイデュルの心臓に深々と突き刺さった。即死である。リイデュルは口から血を吐きながら前のめりに倒れこんだ。床に広がっていく血。アルンの心臓は張り裂けそうだった。緊張感が解けたせいなのか恐ろしくてたまらなくなった。自分はついに人を殺してしまったのだと。震える両手の手のひらを目を丸くして見るアルン。そのアルンにイサが歩み寄った。
「よくやったわ、アルン」
そう言ってイサはアルンを抱きしめた。アルンはイサにしがみつき、弾けたように大声で泣き叫びはじめた。イサは優しい表情でアルンをずっと抱きしめていた。アルンの泣き声は誰もいなくなった屋敷じゅうに響いた。

――後日、帝都、宮殿、謁見の間。
「陛下、アーシェ様がおいでですが」
イサの影武者フェリラはアーシェ、つまり本物のイサを呼ぶように側近に促した。イサは顔がバレないように目だけを仮面で隠している。イサはフェリラの前に来ると跪いた。フェリラは側近たち全員に謁見の間から出るように促し、全員が出て行くと、イサは立ち上がり、逆にフェリラのほうが跪く。
「お帰りなさいませ、陛下」
フェリラが目を伏せながら言う。
「大儀」
イサはフェリラを労いながら仮面を外した。

30分後、宮殿内廊下。
「ねえ、レリイ、ちょっと来て」
イサは副女官長のレリイを小声で呼んだ。
「なんでございましょうか、陛下」
レリイは軽く頭を下げながら尋ねる。
「紋章メダル無くしちゃったんだけどエールシスに内緒で作っといてくれない?」
レリイはやれやれという顔をして、
「またですかぁ? 陛下」
と言った。その時、
「お帰りなさいませ陛下」
と言う声がイサの後ろからした。イサが恐る恐る振り向くと女官長エールシスが立っている。
「……その顔は何か隠してらっしゃいますね陛下」
その言葉にイサはビクッと背筋が伸びた。
「今から持ち物検査をします。陛下、革袋をこちらに」
その後、紋章メダル紛失が明らかになり、エールシスのお説教は3時間続いた。

――イサの旅はまだまだ続く。

あとがき

みなさんいかがでしたでしょうか。

ベタでスタンダードなプロットですね。

第1話なのでこんな感じで。

今後、もっとひねったお話が出てくるのでお楽しみに。

では、今日はこの辺で失礼します。

See You!

コメント

  1. ハルカ より:

    仇討ちってそういうことだったのね♪