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【小説】魔神系非モテ女子の戦い・第10話

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第10話 転職できるかな

「チャクラの中にも”神”を名乗る者、”神”と呼ばれる者が居るが、本来、神とは3大神とその眷属のみを言い、チャクラの中に居る者は全て人間か悪魔かどちらかである……ふぅん、なるほどね」

奈央は例の汚い部屋に寝っ転がって悪魔名鑑を音読していた。試験のためである。ナンディンに殺されかけたあの怪我は、濃縮プラーナの点滴を3日間打ち続けることでようやく治った。そして一晩明けた今日、正式に会社を辞め、転職活動を始めているのだ。普通は転職活動は退職前に行うものだが、どのみちシヴァに狙われている状態でエンジニアになど戻れないので、きっぱりと辞めたのである。

「ベリアルは悪魔の中で最も淫らで不埒である……えっ、うそ」

奈央が受けるのは黒井から教えてもらったサタングループのコントラクター登用試験である。コントラクターとはサタン会員が悪事を働いた場合にこれを解決し、必要に応じて制裁を加える役目を負うスタッフのことで、人間社会の知識、悪魔社会の知識、そして戦闘能力が要求される高度な業務であった。奈央はこの仕事に興味を示し、登用されるために寝ずに勉強した。1か月後の試験のために。

そして1か月後、試験当日の朝、奈央は鼻歌を歌いながら試験会場に向かっていた。グーグルマップで位置を確認しながら人混みの中を歩いている。常識ではこのようなことをしたら危険なのだが、奈央は人をスッスッスッと避けながら進んでいく。
(ふん、人の歩く動きなど止まっているのと同じよ)
そんなことを考えてると、案の定、奈央はスクランブル交差点で1人の女性にぶつかってしまった。
「あいたっ! す、すみませ……」
女性は奈央に見向きもせず通り過ぎて行く。奈央は一瞬硬直したが、すぐにその女性を追いかけた。
「ちょっと! 待ちなさ……」
だが、女性は既に人混みの中に消えてしまっていた。女性は大きめのサングラスをしていたが、どうみてもナンディンであった。
似てただけかな。などと奈央は不審に思い、首を傾げながら試験会場に向かった。

試験会場は都心にある小さな雑居ビルの貸し会議室であった。会議室には長机が何列も並んであり、受験生たちが各々、思い思いに準備している。突っ伏して寝ている者、血まなこになって参考書を読んでいる者、楽しそうに喋っている者。どこにでもある普通の試験会場の光景である。全員が悪魔であることを除いては。
奈央は自分の席に荷物を置くと、屋上にある喫煙所へ赴いた。親指から小さい火を出し、咥えたタバコに火を点ける。
(すみません火かしてもらえますか? とか言わなくてよくなったのは便利だわ)
そんなことを考えていると、背後から聞き覚えのある声がする。
「悪いけど火かしてもらえる?」
奈央が振り向くと、そこにはサングラスをつけたナンディンがタバコを咥えて立っていた。

奈央は絶句した。恐ろしいからではない。状況が飲み込めなかったのだ。なぜナンディンがここにいるのか。ここにいるということは試験を受けに来たということなのか。なんのために。そんな考えが頭に駆け巡り、何も言葉が出てこなかった。
「今度こそ殺してやろうか」
そう言ってその女は笑った。その独特なゲッゲッと言う笑い声を聞いて奈央は全てを理解した。ラボラスだ。ラボラスが化けているのだ。
「なんであんたこんなとこにいんの?」
奈央は憮然として言った。病室で3日間一緒に過ごして以降、奈央はラボラスのことが嫌いになっていた。臭いしうるさいし、卑猥な言葉をかけたりするのである。
「ベリアル様からお前も受けろって言われたんだよ。全くいい迷惑だこっちは。山で悠々と暮らすのが好きだったのによ」
「知らないわよ、そんなこと」
「そんなことより、早く火出せや日照り女」
奈央はラボラスの顔にぶわーっと炎を吹きかけるとツカツカと会議室へ戻って行った。黒焦げのタバコを咥えたまま舌打ちをするラボラス。

試験中、奈央はスラスラと問題を解いていた。東大卒の腕の見せどころである。
科目は一般教養(人間)、一般教養(悪魔)、日本語、人間の法律一般、サタン会員規約、悪魔分類学の6つである。各100点で、全ての問題がいっぺんに配られ、2時間以内に全部解かなければならないのだ。合格点は500点以上である。奈央が5つ目の問題を解き終わったとき、ピコンとLINEの音がした。
(やば……! 電源切ってなかった)
奈央は試験官の顔を伺いながら、電源を切ろうとスマホを取り出した。

“たすけてやま”

と書かれている。送ってきたのは西村である。奈央はそれを見るなり隣に座っていたラボラスに解答用紙を差し出した。
「これ出しといて」
「え、おい!」
奈央はリュックを片手に、会議室を走って出て行った。呆然とするラボラス。ふと奈央の解答用紙を見てみる。
「なんだこりゃ。日本語の問題ぜんぶ白紙じゃねえか」

奈央はビルを出てすぐにタクシーを捕まえると日高市の山まで行くように頼んだ。ラボラスと戦った、あの場所である。乗っている間、奈央は西村に通話を試み続けた。しかし、何回かけても繋がらない。
(お願い無事でいて)
奈央はひたすら祈り続けるしかなかった。

都心からは1時間ほどで日高市の山に着いた。タクシーを降りてその辺を探したが、誰もいない。
「ひっひっひっひっひ」
気持ちの悪い笑い声に振り向くと1人の悪魔が立っている。頭から突き出た二本の角。ぎょろりとした大きな目。頬まで裂けた口から飛び出た長い牙。ボサボサの黒い長髪。日本に伝わる夜叉そのものの容姿である。日本の着物を身に纏い、日本刀を持っている。
「あなた、ヤクシニーね」
悪魔分類学を勉強した奈央には何の悪魔なのかすぐわかった。
「悪いけどここで死んでもらうよ」
ヤクシニーはひっひっと笑いながら刀を抜いた。
「パズズをどこへやったの?」
ヤクシニーは質問には答えず、いきなり間合いを詰めると袈裟斬りを繰り出してきた。炎拳で受け止める奈央。しかし、刀は溶けない。ヤクシニーはすかさず剣を引くと奈央の首を跳ねようと刀を払う。今度は雷拳でそれを受け止める奈央。するとヤクシニーは激しく感電し、倒れこんだ。見てみると、気絶している。
(なにこのクソ弱いやつ……。こんなのにパズズがやられるとは思えないし)
ヤクシニーの懐を調べると西村のスマホが入っている。おおかた盗んだのだろう。
そのとき、1台の車が奈央の前に止まった。降りてきたのは西村である。奈央はこれまでの経緯を説明した。
「いや、助かりました。ふとカバンの中見たらスマホが無いんで焦りましたよ。」
「どうやってここが?」
「パソコンでスマホの位置情報取得してわかったんです」
「でも、こいつなんなんだろ」
奈央はヤクシニーを足で突きながら言う。
「そいつはシヴァの軍勢の下っ端だ」
車から1人の男が降りてきた。その男を見て奈央は仰天する。ベリアルである。それも課長の姿ではない。本当の姿の。しかし羽は無く、普通の人間の服を着ている。ベージュ色のパンツに白のTシャツ。その上に黒いジャケット。胸元にはさりげなくペンダントが光っている。今風の若い男の格好であった。それがまたベリアルによく似合うのだ。奈央はポーッと見惚れている。
「おそらくシヴァの指示ではないだろう。お前の首を取って出世しようとでもしたんじゃないか?」
「あの……課長、なんでここに? って、なんでそんな格好を?」
「こいつにちょっと話があって、ファミレスで話してたらスマホが無いとか言って慌てだしたんだ。それでこのざまだ。それにもう課長じゃない。俺は会社は辞めた」
「ええっ!? なんで!?」
「お前の扱い方を巡ってクールマと対立した」
「どういうこと?」
「なぜお前を手放したのかと、早くシヴァにぶつければ良かったのにと。あいつはお前を捨て石にする気まんまんだったのさ。悪魔のことを石ころぐらいにしか思っちゃいねえんだあいつら神ってのは。だからあいつと袂を分かって俺は俺でシヴァを倒す方法を模索することにした」
奈央は大筋を理解したが、同時に呆然ともしている。
「お前も早くシヴァと渡り合えるぐらいに強くなれ。ぼやぼやしてると置いてくぞ」
「は、はい」
「そういや、お前今日試験じゃなかったのか? 受かったんだろうな?」
「あ……はは、たぶん」
奈央はぎこちない笑いでその場をごまかした。

受かるかどうか不安だったが、1週間後、奈央の元に無事に合格通知が届いた。成績はラボラスが574点でトップ。奈央は答えたところが全問正解で500点ちょうどであった。その後の2次試験の面接では、人間としてのこれまでの履歴と悪魔としてのこれまでの履歴、戦闘歴、志望動機などを淡々と聞かれ、晴れて契約が内定した。

契約日当日の昼。奈央は黒のパンツスーツを着て契約場所に向かっていた。場所は渋谷にある雑居ビルの2階である。
「Bar Satan……。ここよね」
そこはサタングループが経営するバーであった。むき出しの石造りの内壁にアンティークな洋風の木のドア。薄暗く、空気がひんやりと冷たい。いかにも悪魔が住んでそうな場所である。奈央はドアに張り付いているライオンのノッカーに手を伸ばすと3回ノックした。しばらくしてドアのきしむ音と共に、男が顔を出した。30代前半ぐらいの精悍な顔立ちの男。黒い長髪を後ろで束ね、冷たい目をした男である。カマーベストと蝶ネクタイでビシッとキメている。マスターであろうか。
「開店は6時からですが」
「あ、いえ、コントラクターの契約に来ました。秋月奈央と申します」
「ああ、秋月さんですね。どうぞ」
奈央はマスターに連れられて中へ通された。中も全て石造りになっており、中世ヨーロッパの城を思わせる雰囲気。座席は全て皮製の高級ソファーである。かなり値が張りそうなそうなバーだ。会員制だろうか。
「こちらへどうぞ」
マスターは奈央を個室のVIPルームへ通した。部屋には1人の女性が座っていた。ショートヘアの黒髪にグレーのスカートスーツを着た愛らしい顔立ちの女性である。年齢はおそらく奈央と同じぐらい。
「こんにちは。はじめまして。株式会社サタンミリティア、エージェントの沢村忍と申します」
沢村は奈央を見るなりにっこりと笑って立ち上がると丁寧にお辞儀をした。
「はじめまして。秋月奈央と申します。……あ、悪魔の名前はアスラです」
秋月も丁寧にお辞儀をする。
「えっと、名刺名刺……。どこいったかな。あ、あった」
沢村はそう言いながら名刺を差し出した。奈央は名刺を受け取ると、沢村の向かいの席に腰掛けた。
「改めまして、登用試験合格、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
奈央と沢村は座ったままお互いに礼をする。
「本日は契約内容の説明および契約手続きをさせていただきます」
「はい、お願いします」
沢村はバッグから1枚のA4用紙を取り出した。
「こちらがアスラ様との契約書になります」
契約内容を要約すると以下のようなものであった。

――――
契約期間:1年。
業務内容:悪魔と人間、および悪魔と悪魔の間のトラブルの解決。および制裁。
契約金:8000万円。
賃金:固定給、年1200万円。プラス歩合給。
福利厚生:住宅の無償貸付、医療の無償供与、傷害手当、年金、子育て支援、結婚相手斡旋、保養所、訓練場。
――――

奈央は破格の待遇に顔がニヤけるのを必死に我慢した。沢村が契約内容をひと通り説明した後で質疑応答に入る。

「内容について何かご質問ありますか?」
「あの、この結婚相手斡旋というのは?」
常人ならまず賃金のことを聞くのだが奈央はこの点が一番気になっていた。
「弊社が、エージェントそれからコントラクター同士のお見合いをセッティングするというものです」
「悪魔の人だけですか?」
「いえ、人間も斡旋できますよ」
「そうなんだぁ」
奈央はウキウキしてきた。この制度を使えばこの日照り生活から脱出できるかもしれないと希望を見ていた。

「固定給って変わるんですか?」
「契約更新の際に前年の実績をもとに変動します。アスラ様の場合は筆記試験の成績も良くありませんでしたし、戦闘実績も乏しいのですが、ポテンシャルが高いと判断し、この金額になりました。ですので、今年度に実績を作れなければ一気に下がる可能性が高いです」
「あー……、そうですよね」
奈央は一気にテンションが下がった。

「歩合給がちょっと良くわからないんですけど」
「依頼人が払う依頼料の20%をコントラクターが得られるというものです」
「依頼料の相場ってどれぐらいなんですか?」
「依頼内容によってさまざまですよ。小さいものでは10万円から。最高額は3億円だったかな」
「さ、3億!? どんな依頼だったんですか!?」
「人間から主神として崇められてるレベルの悪魔に制裁を加えてくれというものです。側近の方がセクハラを受けたとかで」
「セクハラ……」
奈央は金額とその内容に呆れてしまった。

「ほかに何かありますか?」
「あの、仕事の流れがよくわからないんですけど」
「まず、依頼人がわれわれエージェントに接触してきます。そこで依頼内容の確認や依頼料の交渉を行い、交渉が成立すればコントラクターに引き合わせます。コントラクターは依頼者から改めて依頼内容を聞き、仕事を行うという流れです」
「人間が被害にあっている場合は人間が接触してくるんですか?」
「いえ、普通の人間は悪魔の存在を知りませんので、悪魔が人間に危害を加えていないかどうかを弊社が常に調査しています。もし、悪事を働いている者がいれば弊社が直接コントラクターに依頼するということになります」
「なるほど」

「他に何かありますか?」
奈央はしばらく考えた。
「……いえ、もう結構です」
「では、契約書に署名と捺印を」
言われたとおりに署名捺印をする奈央。
「では今日からアスラ様は弊社のコントラクターということになります。アスラ様のエージェントは私が担当します。よろしくお願いします」
「あ、こちらこそ」
「依頼が入ったら携帯に連絡しますので」
「はい。わかりました」

こうして奈央はサタンミリティアに転職し、新たな人生を歩むことになった。

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作者コメント

一応ここで第1部終わりです。次回から第2部に突入します。

コメント

  1. ハルカ より:

    第2部も楽しみ♪
    もしかして、転職の話の前に第1部終わらせもよかったかも?

    • てっかまき より:

      読んでくれてありがとう。
      前に「小説家になろう」に上げてたときはここらへんで切ったんだけど、うろ覚えだったから適当に切っちゃったw