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【小説】魔神系非モテ女子の戦い・第11話

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第11話 厄介な男登場(前編)

「アスラさん、どうしたんすか、これ!?」
西村は町でたまたまアスラを見かけて仰天した。
「へへー、契約金で買っちゃった」
アスラは車の窓を開けて満面の笑みで答える。そう、アスラは乗っているのである。車に。それもなんと車種がフェラーリFFなのだ。ピカピカに磨かれた真っ赤なボディがまるで勲章のように輝いている。
「契約金ってサタンミリティアの?」
「そうよ」
西村は周りを見回すと、顔を近づけて小声で喋る。
「あそこってそんな貰えるんですか?」
「んー、まあ契約金でフェラーリが2つ買えるぐらいかな」
「はー」
西村は呆気に取られた。そのとき奈央のスマホが鳴った。LINEの通話呼び出し音である。
「はいはい、何?」
“仕事よ、アスラ。すぐに来て”
「はーい、すぐ行きますよ」
奈央は西村ににこやかに手を振る。
「じゃ、仕事入ったから行くね」

契約してからすでに2ヶ月が経過していた。あれから数十回ほど仕事もこなして、新しい仕事にも慣れてきた。しかし、大抵が人間相手にヤミ金をしている悪魔がいるとか、オレオレ詐欺とか怪しい宗教で金儲けしてるとか、10万円レベルの小さい仕事ばかりであった。そろそろ大きな仕事がしたいなと奈央は感じていた。

15分ほどフェラーリを吹かすと渋谷のBar Satanへと着く。中に入ると、エージェントの沢村がカウンターに座っていた。昼間なので開店前であり、他に客は誰も居ない。
「遅いじゃないアスラ」
「ごめん、ちょっと道が混んでてさ。……マスター、オレンジジュース1つ頂戴」
奈央は沢村のとなりに腰掛ける。
「今回は大きい仕事が入ったわよ」
「え? いくらの仕事?」
「500」
「えー、ほんとに!?」
この仕事をこなすだけで20%の100万円が貰えるのである。
「で、どんな依頼なの?」
沢村が依頼内容が書かれた紙を差し出す。
「かなり強い悪魔が人間を殺したの。タローマティよ」
「タローマティ……」
ゾロアスター教で邪神として恐れられている悪魔であった。
「死刑相当よ。居場所は既に突き止めてあるから見つけ次第、殺して」
奈央は依頼内容の紙を真剣に眺める。
「わかった。すぐに行く。……ジュース飲んでから」

場所はあきる野市の山中にある廃屋とかした山小屋だった。渋谷からだと1時間半ほどで着く。世田谷の路上でトイレに行きたくなり、コンビニに立ち寄ったあと、車に乗ろうとすると、ある人物が奈央に話しかけてきた。
「お久しぶりですアスラ様」
この声は忘れもしない。ナンディンである。奈央は一瞬炎拳を発動しようと思ったが、ここでは戦えないので冷静に対処することにした。
「……なんか用? また殺しに来たの?」
「いえ、本日はシヴァ様からの伝言をお伝えに参りました。失礼ですが今お時間よろしいでしょうか?」
「……助手席に乗って」
奈央はそう言うと運転席に乗り込んだ。ナンディンも助手席に乗り込む。2人は車を停めたままコンビニの駐車場で話し始めた。

「んで、伝言って何」
「この住所に行けということです。面白い人物が居ると」
ナンディンは小さなメモを奈央に差し出した。世田谷区の住所である。ここから近い場所にあった。奈央はため息をつく。
「何が目的なの?」
「それは私にもわかりません。とにかく行ってみろと」
奈央はそのメモをバッグに仕舞うとナンディンに尋ねる。
「なんであの時、私を殺さなかったわけ?」
ナンディンは何も言わない。
「言いたくないってわけね。……だいたいシヴァってさ、どこに居るわけ?」
「天界の頂点、ババーグラという場所におわします」
「天界……そこにはどう行けばいいの?」
ナンディンは何も言わない。
「それも教えられないってか」
「……お許し下さい。代わりと言っては何ですが、これはシヴァ様からの贈り物でございます。本日がアスラ様のお誕生日だからであると。では私はこれで」
ナンディンはバッグから可愛く包装された小さな箱を取り出すと奈央に手渡した。そして、車から出て行ってしまった。今日は10月15日。奈央の誕生日なのである。奈央が箱を開けるとプラチナダイアモンドのペンダントが入っていた。かなり値が張る品物である。100万円ほどであろうか。宿敵から贈られたプレゼントであるのに少しうれしい自分が悔しかった。

ナンディンから言われた住所がすぐ近くにあるので、奈央は仕事の前にそこに行くことにした。

近くのコインパーキングに車を停めてその住所に赴くと、そこは普通の1軒屋であった。洋風で茶色のカベにこげ茶色の三角屋根の2階建て。小さい窓が3つ、ドアが1つ付いている。玄関先には小さな洋風の庭があり、色とりどりの植物たちが思い思いに花を咲かせていた。

その庭で花に水をやっている1人の女性がいた。茶色い髪を後ろに束ね、ひざ下まである黒いワンピースを着た、どても美しい女性である。年齢は35歳ぐらいであろうか。奈央が路上からその女性をじっと見つめていると、女性のほうから声をかけてきた。
「何かごようですか?」
とてもにこやかな笑顔である。奈央はバツが悪そうに頭をかいた。用など無いのだ。
「あの……。ナンディンっていう人から、ここに行けって言われたんですけど」
女性は驚いた表情を見せた。
「まあ! ナンディンが? じゃあ、あなたは悪魔さんなのね?」
「はい。アスラって言います」
女性はより一層驚く。
「まあ! あなたがアスラさんなのね。どうぞ、上がって」
奈央は女性に促されるままに家へと上がらせてもらった。

リビングに通された奈央は部屋を見回してみた。広さは8畳程度。おしゃれな四角い木のテーブルに赤茶色のソファー。カベ際には鮮やかな赤い花の描かれたキャンバスが立てかけられてある。カベは白でカーテンは茶色。そこそこ大きな液晶テレビ。温かい暖色系の間接照明がホッとする雰囲気を醸し出している。どこにでもある普通の女性の部屋である。

ソファーに座って待っていると、女性がキレイなティーカップに入った紅茶を2杯持って来た。
「すてきなカップですね」
「ウェッジウッドっていうブランドで英国王室御用達のカップなのよ」
女性はにこやかに奈央に紅茶を差し出す。
「いただきます」
奈央は一口飲んでその美味しさに驚いた。とても繊細で上品な味、そして豪快な渋み、鼻腔をくすぐる鮮やかな香り。一口飲んだだけで口がさっぱりして爽やかな気分になる。奈央はこんな美味しい紅茶を飲んだのは初めてであった。
「これ、なんて言う紅茶ですか?」
「ふふ、美味しいでしょう? ハイグロウンティっていうの。スリランカ産の最高級品よ」
「紅茶に詳しいんですね」
「美味しい紅茶を探すのが趣味なの。あとティーカップを集めたりとか」
奈央はティーカップをテーブルに置くと単刀直入に切り出した。
「あの、すごく失礼な質問なんですけど、あなたは誰なんですか?」
女性は軽く笑うとティーカップをテーブルに置いて答えた。

「私はパールヴァティ。シヴァの妻よ」

奈央は仰天して、絶句してしまった。しばらくの間、黙ってパールヴァティを見つめていた。パールヴァティは軽く笑いながら紅茶を飲んでいる。
「シヴァ……さんの奥さん?」
「ふふ、”シヴァさん”なんて言わなくていいわ。あなたの敵なんだから」
「その……なんでこんなところにいらっしゃるんですか?」
「……別居中なの。喧嘩しちゃって」
「喧嘩? どういった理由で?」
「それは彼に会って直接聞いてちょうだい」
「それが……天界に居るんですよね。どうやって会えばいいのかわからなくて」
「時がくればいずれ会えるようになるわ。今のあなたでは彼に会っただけで消滅してしまう。強くなりなさい。彼に会えるほどに」
奈央は俯いた。真剣な顔で澄んだ色の紅茶を見つめている。その後、30分ほど他愛もない世間話をして奈央はパールヴァティの家を後にした。

「私はいつもここにいるからちょくちょくいらっしゃいな」
奈央は車中でパールヴァティの言葉を思い出した。なんであんないい女の人がシヴァの妻をやっているのかと。別居の原因とは何なのだろうと。奈央はそんなことを考えながら仕事の現場に向けてアクセルを踏み込んだ。

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作者コメント

今回から2話で1つの物語になります。パールヴァティは勢いで出したものの扱いに苦労しそうな予感がしますねw