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【小説】魔神系非モテ女子の戦い・第14話

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第14話 絶体絶命!(後半)

バフォメットのいる寺は山梨県笛吹市にあり、陣場山から1時間ほどで着いた。

その寺は市の南部の山中にあった。寺の前で車を止め、階段を登っていく。階段の上には木々がトンネルのように覆いかぶさっており、ひんやりと澄んだ空気が心地よく、心が洗われる感じがする。100メートルほどある階段を登り切ると、正面に立派な崖造りの本堂が現れた。慎重にゆっくりと扉を開けて中を見る。――誰もいない。大きな千手観音の像だけが奈央たちをじっと見つめている。

奈央たちは本堂の裏に回ってみた。奥にもう一つ大きな建物が見える。客殿だろうか。足音を消して慎重にその建物に近づく。――近づくにつれて聞こえてきた。読経の声が。中にいる。奈央とラボラスは顔を見合わせた。奈央がゆっくりと扉を開けると大きな不動明王の像が目に入った。そしてその下に1人の坊主がいた。明王の像のほうを向いて、経を読んでいる。

「聖無動尊大威怒王秘密陀羅尼経、金剛手菩薩説三蔵般若遮迦羅譯、爾時毘盧遮那大會中有一菩薩摩訶薩、名曰金剛手」

坊主は大きな鈴をカーンと鳴らした。

「……ようこそ不満寺へといらっしゃいました」

坊主は奈央たちのほうへ向き直り、合掌をする。見たところ30代ぐらいの若い坊主である。頭に髪はなく、袈裟を身につけている。

「そなたたちが来るのはわかっておりました。アスラ様、ラボラス様」

「サタンミリティアの者よ。あなたバフォメットでしょ。多くの悪魔を殺した罪で今から事情聴取します。抵抗すると殺すわよ」
奈央は炎拳を発動する。
「そなたたちは誤解しております。私は悪魔を殺してなどおりません」
坊主は合掌したまま、目をつぶり、落ち着いた様子で答える。
「多くの情報が寄せられているんだけど。100件以上」
「私は彼らを救っているのです」
それを聞いた奈央は眉間にしわを寄せ少し首をかしげた。
「救っている?」

「チャクラの中は天魔波旬によって支配されています。天魔は人々の煩悩を刺激し、苦悩させ、死の苦しみを味あわせ、破滅の道を歩ませます。人々はブラフマーによって生を受け、この現し世で天魔の力によって苦しみ、ヴィシュヌの力によって現し世に張り付けられ、何回も同じ苦しみを味わい、やがてシヴァによって涅槃に入ります。このチャクラの中こそが地獄なのです。これは悪魔とて例外ではありません。ならばどうすればよいか。仏陀は7年半もの死闘によって天魔を退け、天魔の力の外に出ることによって地獄から抜け出しました。ですが、それよりも簡単に地獄から抜け出す方法があります。……維持神ヴィシュヌによる転生が終わるのを待たずしてシヴァ神の力で入滅すればよいのです。つまりチャクラそのものから抜け出すのです」

それを聞いたラボラスは犬の姿に変身した。
「グダグダ言ってるけど、要は生きるのがツライから安楽死させてたってことでしょ」
奈央はファイティングポーズを取る。
「……そんな屁理屈を認めるわけにはいかないわね」
奈央は坊主に飛び掛かると右のストレートを繰り出した。その瞬間、坊主は黒い光を発するとバフォメットの姿に変身し、奈央のストレートは見えないバリアのようなもので防がれてしまった。
「しかたありません。外法には外法を。力には力を」
バフォメットは手で印を組むと真言のようなものを唱えた。すると奈央とラボラスの周りが炎のカベのようなもので包まれた。常人なら熱いだろうが2人に取ってはぬるい炎である。ラボラスは口をあんぐりを開けるとバフォメットへ向けて放電した。稲妻に貫かれて倒れるバフォメット。
「神妙にしなさい」
バフォメットに近づく奈央。しかし、バフォメットは再び真言のようなものを唱え始めた。

「ノウマク、サンマンダ、バザラダン、カン。ノウマク、サンマンダ、バザラダン、カン」
構わず近づく奈央。
「ノウマク、サンマンダ、バサラダン、センダンマカロシャダヤ、ソハタヤ ウンタラタ、カンマン」
しかし、そのとき、地面が激しく震え始め、地響きがし始めた。嫌な予感がして身構える奈央とラボラス。
「ノウマク、サラバタタギャテイビャク、サラバボッケイビャク、サラバタタラタ、センダマカロシャダ、ケンギャキギャキ サラバビギナン、ウンタラタ、カンマン」
その瞬間、目の前がまばゆい光で真っ白になった。まぶしさに顔をしかめ、手をかざす奈央。やがて光の中から1人の神が姿を現した。

美少年である。外見上の年齢は15~16歳に見える。法衣をまとっているが上半身のみ脱ぎ払って裸であった。
「アチャラナータ……」
奈央は眉間にしわを寄せ、厳しい表情をする。
「衆生の意想は各々不同。滅せよ」
アチャラナータはそう言うとスッと音もせずに奈央の前に近づき、奈央の胸を軽く押した。勢い良く吹き飛び、カベに激突する奈央。その瞬間、ラボラスはアチャラナータに向かって毒霧を吐き出した。対するアチャラ・ナータは毒霧に向かってフウと軽く息を吐き出す。するとと竜巻のような突風が発生し毒霧をかき消した。その風によって吹き飛ばされるラボラス。
「アスラ! 2人じゃ手に負えねえ! 逃げるぞ!」
ラボラスのひとことで客殿から出ようと走る2人。しかし出口に見えないバリアのようなものが張られていて外に出れない。
「ダメ! バフォメットが結界を張ってる!」
ラボラスがバフォメットに向かって電撃を繰り出す。しかし、その前に躍り出たアチャラナータによってかき消されてしまった。
奈央はアチャラナータに飛び掛かると右の外回し雷刃蹴りを繰り出した。印を組んだ左手でそれを受けるアチャラナータ。その瞬間、奈央は千炎拳を繰り出す。凄まじい勢いで炎拳を叩き込む。ラボラスはその隙を見てもう一度バフォメットに向かって放電する。その瞬間、アチャラナータは千炎拳をまともに食らいながら右手の人差し指を上に突き出した。すると、バフォメットに放電したはずの稲妻がアチャラナータのほうに落雷した。
「んなバカな! 稲妻を曲げやがった」
驚きの声を上げるラボラス。ここまでアチャラナータはほとんど攻撃していない。遊んでいるのだ。
「衆生よ。救いのときだ」
アチャラナータはそう言うとひたすら千炎拳を打ちまくる奈央に向かって力を込めて右のフックを繰り出した。まともに食らった奈央は顔が引きちぎれるほど横を向いて倒れこんだ。立ち上がろうと思っても完全にノックダウンしていて立てない。ラボラスはアチャラナータが奈央にかまっている間にバフォメットを倒そうと飛びかかった。するとアチャラナータの人差し指が槍のように伸びてラボラスを貫いた。血を吐いて倒れるラボラス。ヨロヨロと立ち上がった奈央は雷拳を発動する。
「ラボラス! 10億ボルト出せる? 私に撃って!」
奈央の意図を察したラボラスは倒れこんだまま口をあんぐりと開け、奈央に向かって最大出力の稲妻を発した。その稲妻を拳で受ける奈央。ラボラスはそのまま力を使い果たして気絶してしまった。
(ここに、私の全ての魔力を……!)
ラボラスの稲妻に奈央の稲妻を上乗せする。奈央の拳は稲妻を通り越してプラズマのごとくバチバチと光り始めた。そして奈央は素早く間合いを詰めるとアチャラナータに正拳突きを繰り出した。雷心閃動殺をゼロ距離で打ち込んだのである。奈央とラボラスに出来る理論上最強の攻撃であった。しかし、それを受けてもアチャラナータは平然としている。奈央は魔力を使い果たし、絶望しながらその場に倒れこんだ。
「救いを受け入れよ」
アチャラナータは倒れこんだ奈央の髪を持ち、無理やり立たせると左胸に人差し指を当てた。

「やれやれだ。使えない配下を持つと苦労するよ」
入り口のほうから聞き覚えのある声がした。アチャラナータが奈央の髪を放すと奈央はドタリと床に倒れ込んだ。奈央が声のするほうを見るとベリアルが立っていた。
「な! バカな! どうやって結界を破った!?」
うろたえるバフォメット。
「結界とは入り口に張ってあった蜘蛛の巣みたいな膜のことか? あんなもん手で払えるだろ」
ベリアルは奈央に向かってプラーナドリンクを放り投げた。それを受け取った奈央はまるで灼熱の砂漠を彷徨っていた迷い人のように必死でがぶ飲みし始める。
「お前も救いを求めてやってきたのか?」
ベリアルは後ろ頭をボリボリとかいた。
「お前さんの言う救いってやつは神にも適用できるのか?」
「神はチャクラの外。救いなど必要ない」
「じゃあ、お前も味わってみるか。衆生の苦しみ。痛みってやつをな」
ベリアルは青い光を発し、悪魔の姿になった。
「無益。お前も我が力によって救ってやろう」
アチャラナータは人差し指をベリアルに向けると凄い勢いで槍のようにシュッと伸ばした。ベリアルはそれを難なくつかむ。
「バカが! 3大神ならいざしらず、お前のような下っ端が、この魔王ベリアルに勝てるか!」
ベリアルは弾丸の如き速さでアチャラナータに飛び掛かると顔面を思い切り殴り飛ばした。アチャラナータはものすごい勢いで吹き飛び、寺のカベをぶち破り、100メートルほど先にある山肌に激突した。ベリアルは寺の屋根をぶち破って空に飛び上がると山に張り付いてぐったりしているアチャラナータに向かって巨大な光弾を放った。そうすると、天をつんざくような轟音と地鳴りと共に大きな山が半分消し飛んだ。アチャラナータはあとかたも無い。
寺の中ではバフォメットがこそこそと逃げ出そうとしている。
「待ちなさい」
バフォメットが振り向くとプラーナドリンクで少しだけ回復した奈央が立っている。
「ひ、ひえええ」
悲鳴を上げて走りだしたバフォメットを奈央の炎鞭が真っ二つに斬り裂いた。

「ラボラス、大丈夫? 飲める?」
奈央は残ったプラーナドリンクをラボラスの口に流し込む。ラボラスはうっすら目をあけて舌をペチャペチャ言わせながらドリンクを飲んだ。ある程度飲ませて残ったドリンクをラボラスの傷口にかける。それでとりあえず血は止まった。そこに人間の姿に戻ったベリアルが入ってくる。ベリアルは2人の様子を見るとため息をついた。そして、奈央を肩に抱え、ラボラスを脇に抱えると、寺の階段を降りて奈央の車の後部座席に2人を乗せ、車を運転し始めた。

「どうしてここに来たんですか?」
「フェネクスに呼ばれてきた。悪魔とつるんで悪さするような情けない神に歯が立たないとは、先が思いやられるな」
奈央はベリアルに怒られてしょぼんとしてしまった。
「アチャラナータは死んだんですか?」
「神は死なないよ。ある程度ダメージを負うと天界に戻る。まあ、あいつは力を悪用してチャクラを乱したからシヴァの怒りを買って消滅させられるだろうけどな」
ベリアルはこの後、山梨県内にあるサタン系列の病院に2人をあずけると、どこかへ行ってしまった。

翌日夜、Bar Satanにて、いつものように奈央と沢村が酒を飲んでいる。
「ラボラス、全治2週間だって」
そう言う奈央もいたるところにバンソウコウや包帯をつけている。
「あんたは大丈夫なの?」
「私は打撲と魔力欠乏だけだったから」
「それにしてもベリアルさんってそんなに強いんだ。うちの会社と契約してくれないかな」
「まー、悪魔の中で1番目か2番目かってレベルだからねー」
「けど、コントラクター以外が無許可で決闘したら規約違反なんだけど、あ、相手が神だからいいのかな。その辺ちょっと上に聞いてみないとわかんないな」
「サタングループの会長と知り合いだって言ってたわよ。よしなにしてもらうんじゃない?」

奈央はその翌日にはすっかり回復し、仕事を再開した。

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作者コメント

アチャラナータはパッと思いついてパッと死なせたキャラなのですが、「小説家になろう」に投稿してたころに10代のうら若き乙女たちにやけに人気が出てしまいまして、「もっと活躍させて欲しかった」と言われましたw なので再登場させるかもしれませんw