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【小説】竜帝の野望・第4話

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第3章 自分は誰か

「お前、これからどうするんだ?」

イサとボロトは鍛錬場の片隅に座り、お茶を飲みながら話している。

「父を探す旅に出ます」

イサはお茶をすすりながら答える。

「……お前の親父さんって、確か帝国軍に連れ去られたんだよな?」

「そうです」

「帝国軍といえば竜帝陛下の軍隊だ。帝都に行けば何かわかるかもしれんぞ」

帝国の君主は代々自らを「竜帝」と称している。しかし、竜といってもドラゴンの類ではない。人間である。この称号は創世神話に出てくる神竜の子孫を自称したものであった。

「帝都か……帝都ってどう行けばいいんですか?」

「ここから南にちょっと行くとマディ街道に出る。それを1ヶ月ぐらい南東に歩いたところにマヤミルの港町という町がある。そこから船でドラグランカ大陸へ渡れ。帝都はドラグランカ大陸にある」

「ドラグランカのどこにあるんですか」

「……それは俺にもわからん。だが、とりあえず向こうに渡らなければどうにもなるまい」

「そうですね。ありがとうございます」

イサは宙を眺めて何か考えている。

「どうした?」

「そう言えば、お父さまがずいぶんと褒めてらっしゃいましたよ」

ボロトはお茶を吹き出した。

「えっ、お、親父!?」

「ええ、最初の依頼者が町長さんだったんです。それはもう自慢の息子だと褒めちぎってらっしゃいました」

イサはニヤニヤしながらボロトをからかっている。

「お前はもう皆伝なんだから早く荷物をまとめて出て行け!」

ボロトは真っ赤になって鍛錬場を出て行った。

イサはケラケラ笑いながら物置きに置いてあった自分の革袋を取る。

(さて……、いよいよ出発か)

そう思いながら玄関から出ていこうとしたとき。

「姉さん!」

イサは自分を呼ぶ声に振り向く。駆け寄ってきたのは2人の弟弟子である。

「これ、つまらないものですが、持って行ってください」

弟弟子の1人が小さな小袋を差し出す。中を開けると傷薬が3つ入っていた。

「ありがと」

イサはニコリと微笑む。

「ご武運をお祈りしています!」

深々と頭を下げる弟弟子たちに手を振りながらイサはネフヘスの町を後にした。

――この世界、ティシュラルトは恐ろしく広大でしかも人口が少ないため、町から町へ移動するのに1ヶ月かかるなんてことはザラであった。イサはマディ街道を進む。街道は舗装されてこそいないものの草木を摘んで平らに均されているので歩くのは楽であった。しかも、日中ずっと歩いてちょうど日が暮れるころにたどり着く場所に宿屋が用意されており、実戦鍛錬で稼いだ金がたくさんあるので苦労なく旅をすることが出来た。

(帝国軍は竜帝の軍隊……父さんは竜帝の命令で連れ去られたのかな)

イサは街道を歩きながら考える。

(もし、父さんが死んでいたら……私は竜帝を殺す。どんな手段を使ってでも)

イサは拳に力を込めた。季節は夏。遠くに見える入道雲に蝉の声。のどかな原風景とは裏腹に、イサの心には修羅が宿っていた。

地図

――1か月後。

イサはようやくマヤミルの港町に到着した。さすがに港町だけあってネフヘスの町よりずっと大きく人口は5000人をくだらなかった。始めて嗅ぐ磯の香り。堤防の向こうには青い海が見える。イサは堤防によじ登り、初めて見る海をぽかんと口を明けて眺めていた。

(でっかい水たまり……)

サーッサーッという波の音、水平線を見ていると吸い込まれそうで怖い気さえしてくる。小一時間ぼーっと眺めていたところ、停泊している船が目に入り、イサはハッと我に返った。

(いけない、いけない、早く船に乗らないと)

イサは船に乗る方法がわからず、とりあえずその辺にいた通行人に訪ねてみた。

「すみません、あの、船に乗るにはどうしたらいいですか?」

通行人はきょとんとして答える。

「いま船は出てないよ」

「ええっ! どうして!?」

イサは驚いて尋ねる。

「帝国政府の閣僚が来てるんだ。船はいま彼専用みたいになってるから」

「帝国の閣僚……その人は今どこに居るんですか!?」

イサは通行人にすがりついて尋ねた。

「あ、ああ……宿屋にいるよ。この通りをまっすぐ行った突き当りだ」

それを聞くとイサはお礼も言わず駆け出した。

(帝国の閣僚なら何か知ってるかもしれない……!!)

イサは全速力で通りを駆けて宿屋に辿り着いた。宿屋の入り口には兵士が2人立って番をしている。

「あの、すみません。閣僚さんに会いたいんですけど」

2人の兵士は顔を見合わせる。

「お前、頭おかしいのか? シュロテー様がお前のような得体の知れない者に会うかバカ。帰れ」

イサはそう言った兵士の腕を取ると背負い投げを食らわせた。

「何をする!」

もう一人が持っていた槍で突いてきたため、イサはそれを難なくかわして腕を取りひょいと投げて壁に叩きつけた。2人は意識を失っている。イサは宿屋の中に入ると主人に尋ねた。

「閣僚さんの部屋はどこですか?」

「あれ? 外に兵士が2人居たはずだけど……」

「2人なら寝てますよ」

「寝てる? サボってんのか。けしからん奴らだな。シュロテー様なら二階の突き当りの部屋だよ。でも変なことしないほうがいいよ。物凄く強いからシュロテー様は」

イサは二階に上がると廊下を進み、突き当りの部屋を開けた。60歳ぐらいの老人と30歳ぐらいの若い男がいる。イサは老人がシュロテーだと思い、話しかけた。

「あなたが閣僚さんですか?」

一瞬の沈黙が流れる。

「シュロテー閣下に何をしたいんだい?」

若い男が話しかける。

「父のことを聞きたいんです」

「父? 君の?」

「はい」

若い男はちょっと考える。

「君の名前は?」

「……一体あなた何なんですか! 私はシュロテーさんと話したいんです」

若い男はため息をついた。

「俺が軍務大臣のシュロテーだよ。こいつは側近だ」

「あ、あなたがシュロテー?」

イサはシュロテーをまじまじと眺めた。中肉中背。赤い髪に鋭い目。服装はその辺の町人が着るような簡素なもの。武器は持っていない。

「改めて聞くが君の名前は?」

「イサ」

「イサだと……!?」

シュロテーは驚いた様子で

「アルポカ村のイサか?」

と尋ねる。

「な、なんで知ってるんですか?」

「君の父親のことは知っている。……ペルだろ?」

「知ってるんですか!? 生きてるんですか!? どこにいるんですか!?」

イサはシュロテーにすがりついてまくし立てるように聞いた。

「まあ落ち着け。ただで教えるわけにはいかん」

「お金なら全部あげます! だから教えて! お願い!」

涙目で懇願するイサ。

「そんなもんいらないよ。……俺は強いやつが好きでね。俺を倒せたら教えてやるよ」

「わかりました」

イサは剣を抜こうとする。

「おいおい、宿屋の中はまずいだろ。表でやろうや」

――イサとシュロテーは宿屋の外で対峙していた。イサは剣を構え、シュロテーは丸腰である。

「殺す気でかかって来ないと教えないぞ。少しでも手加減したら教えない。俺がもし死んだら側近のジジイが教えるから」

シュロテーはそう言いながらニヤニヤしている。

(この人……ものすごく強い)

対峙したあと何分経っただろうか。イサの顔は汗でびっしょりだった。一方、シュロテーは大きなあくびをしている。

「なあ、お前やる気あるのか? いつかかってくるんだよ」

シュロテーが海の方に目をやったそのとき。イサは一瞬で間合いを詰めると剣を上段に振り上げ、シュロテーの頭を目掛けて振り下ろし――見事に脳天に直撃させた。

「やった!」

イサがそう叫んだ瞬間、大きな金属音が響き――剣が折れた。シュロテーは相変わらず海を見ている。そのうちシュロテーの額に血が流れてきた。

「お? 血? すげえ、俺に血を流させたやつって何年ぶりだろうな」

シュロテーはそう言って笑うと、イサに正面から密着し、顔を近づけ、イサの胸にそっと手を当てた。イサは茫然自失でどうしていいかわからない。

「女相手だから優しくしてやるよ」

シュロテーはそう囁くと胸に当ててる手をグンと伸ばした。するとイサの体はすごい勢いで吹っ飛び宿屋の壁に激突した。

「う……うう……」

イサは全身の激痛で動けず、地面を這ってシュロテーに近づこうとしている。まだ闘う気なのだ。

「俺に血を出させるとは大したもんだ。褒美に一つだけ教えてやろう」

「……はあ……はあ……」

イサはもはや意識を保つのがやっとだった。

「……死んでる」

イサは這いながら顔を上げてシュロテーの顔を見た。

「お前の父親は既に死んでる」

それを聞くとイサは意識を失ってしまった。

――次にイサが目を開けたとき、最初に見たものは天井であった。木製の天井。ここはどこかと起き上がろうとすると全身が痛い。イサは全身の苦痛に耐えながら少しずつ廊下を歩き、階段を降りると宿屋の主人が慌てて駆け寄ってきた。

「もう大丈夫なのかい?」

「ここは……?」

「宿屋だよ。どこも痛くないかい?」

「う……全身が痛い……です」

「あれから3日も寝込んでいたんだよ。ずいぶんとうなされてた。だから言ったじゃないか。シュロテー様とは闘うなって」

「シュロテーは……?」

「君と戦ってすぐ、帝都に戻るために船で帰ったよ」

「船は……いつ……?」

イサはぜえぜえと息を切らしている。

「そんな無茶な。その体じゃ船旅は無理だよ。船は2週間に1回来る。次は11日後だ。とりあえずそれまではうちで休んでなよ。本当は日数のぶんだけ貰うんだけど、君は銅貨10枚でいつまでも居ていいから」

「あ……ありが……と」

そう言うとイサはまた意識を失ってしまった。

――10日後。

動けるまでに回復したイサが通りを歩いている。剣が折れたので新しいものを調達しなければならなかった。イサが武器屋の扉を開けると、

「……いらっしゃい」

とやる気なさげに店主は言った。イサは黙って店の奥にはいると剣を品定めし始めた。色々な長さの剣が並んでいる。イサは自分に合う小ぶりの剣を1本手に取るとまじまじと眺めてみた。

(私が持ってたやつより良い剣だ……)

その後、色々な剣を手にとってみたがやはりこの剣が一番手に馴染むようであった。

「すみません。これください」

「……金貨5枚だよ」

(高っ……! 船賃もいるしこれからの路銀のためにお金を節約しないと)

「もうちょっと安くなりませんか?」

「ならねえよ。金貨5枚だ」

「そこを何とか」

――イサは1時間粘った。

「わーったよ。負けたよ、お前さんには」

「安くして頂けるんですね!?」

「ああ、金2枚でいいよ」

「えー、もう一声」

「はぁ? お前いい加減にしろよ」

――イサは夜遅くまで粘った。他の客が来たら腕を捻って追い出し、閉店した後もテコでも動かなかった。

「もういい! タダで持ってけバカヤロー」

「えっ!? いいんですか!?」

「いいんですかじゃねえ! お前がいると商売上がったりだ。タダでやるから二度と来ないでくれ」

「わーい」

イサは意気揚々と剣を携えて店を出た。店の隣を見てみると良いぐらいに空き地があった。イサは空き地で剣を振り始める。しかし、2分ほど振っただけでぜえぜえと息が切れてしまった

(まだ完全に治ってない……)

イサは剣を納めると宿屋へと戻った。

――翌日。

イサは船にのるため、旅支度をし、宿屋を後にしようとしていた。

「本当に大丈夫かい?」

宿屋の主人は心配そうに尋ねる。

「戦うにはあと何日か休まないと無理ですけど、船旅には耐えられそうなので、今日の船に乗りたいと思います。お世話になりました」

そう言ってイサが主人に背を向けると、

「ちょっと待って」

主人はイサを引き止め紙袋に入ったパン5つを差し出した。

「大したものじゃないけど持って行きなさい」

イサは中身を見ると、

「うわぁ、美味しそう。ありがたく頂きます」

そう言って深くお辞儀をした。

「しかし、君はドラグランカに何をしに行くんだい?」

「殺しに行くんです」

主人は皿を磨いている手を止めた。

「殺すって……一体誰を?」

「竜帝陛下」

主人は磨いていた皿を落としてしまった。

――3日後。

イサは船の船室にいた。マヤミルの港町からドラグランカ大陸のサヴィシュの港町までは2週間かかるそうだった。つまり、あと11日かかるのだ。

(……船賃って意外と安いんだな)

銀貨10枚だった。イサがそんなことを考えていると、

「大変だー!」

「剣を取れー! やられるぞー!」

と甲板で水夫たちが騒ぐ声が聞こえた。

(なんだ?)

そう思って甲板の上にあがると、水夫たちが戦っている。

「海賊だー!」

1人の水夫がそう叫んだ。

「海賊? 海賊って何?」

イサはきょとんとして呟いて、とりあえずそばで水夫と戦っていた海賊の腕をつかんで海に放り投げた。その調子で甲板をスタスタ歩きながら海賊を海に放り投げていくイサ。そのうち海賊たちのターゲットがイサ1人に向いた。16人の海賊が一斉にイサに斬りかかった。イサはそれらを全てかわしながら、

(何これ、海にいる野盗みたいなの?)

海賊がカットラスを振り上げるとイサはがら空きになった腹に前蹴りを食らわす。

(何あの剣、曲がってる。変なのー)

イサはケラケラ笑いながら斬りかかってきた海賊の腕を取り海に放り投げる。

「タイミングを合わせろ! 同時に斬り付けるんだ!」

海賊の一人がそう言うと15人がイサをぐるりと囲み、一人がカットラスを振り上げたのを合図に全員が一斉に斬りかかった。

(まあ、野盗よりは賢いかな)

イサはそう思いながら海賊たちのはるか頭上に飛び上がると海賊の1人の頭を踏みつけて囲いの外に着地する。その瞬間、イサは大きく息を吸い込み振り向きざまに剣を抜いて大きく薙ぎ払った。するとかまいたちのような真空の刃が発生し、海賊たち14人を一気に真っ二つにした。

「あら……1人外した」

1人残った海賊は恐れをなして自分たちの船に逃げようと背を向ける。イサは剣を逆手に持つとその海賊目掛けて投げ、剣は海賊の背中に深々と突き刺さった。イサは海賊の死体から剣を抜いて、そのまま甲板を全力で走ると、船に横付けしている海賊船に飛び移り、海賊船に残っていた海賊たちを一人で全滅させてしまった。

――

「こりゃすげえ!」

「この金の鎧なんか金貨1000枚は下らないぜ」

水夫と客たちは海賊船から奪った財宝を物色していた。イサは甲板に座ってそれを見ている。

「お前ら待て!」

船長が水夫たちを一括する。

「君、まず君が好きなだけ取りたまえ」

船長はイサに呼びかけた。イサは立ち上がると財宝の山の中から小さな宝石のついた指輪を1つだけ取り、

「私はこれだけでいいです」

と言いながら船室に戻ろうとした。

「ちょ、ちょっと待て。それ、金貨100枚ぐらいにしかならないんだぞ?」

水夫がイサを呼び止めると、

「重い物持ってると戦えないんで……」

イサはそう言って軽く笑った。

(……これで路銀の心配は無くなったな)

イサは鼻歌を歌いながら船室へ戻った。

――さらに11日後。

船はサヴィシュの港町に到着した。イサは帝都への行き方がわからないためその辺の通行人に声をかける。とりあえず足早に歩いていた若い男に声をかけた。

「あの、すみません、帝都への行き方を……」

「なんだよ! 俺はいま忙しいんだ! エールシス様を見に行くんだから」

そう言ってイサの手を振り払うと小走りで駆けていってしまった。

「エールシス様……って誰?」

イサはしばらくポカンとしていたが、気を取り直して歩いていた老女に尋ねた。

「すみません、帝都へはどう行けば……」

「なんだい! 邪魔だよ! エールシス様が見に行けないじゃないか!」

そう言ってイサを押しのけると歩いて行ってしまった。

「エールシス様って誰なの?」

イサはちんぷんかんぷんであった。

「邪魔するな! エールシス様が帰っちゃうじゃないか!」

「ああ、エールシス様……今行きます……あ? 何だよお前はうるさいな!」

「なんだよ! そうだよエールシス様だよ」

「エールシス様って誰ですかだって? お前頭沸いてんのか?」

その後も通行人たちは取り付く島も無かった。しまいには、

「お前みたいなちんちくりんの小娘に構ってられるか。お前なんぞエールシス様の足元にも及ばんわ」

などと暴言をはかれる始末。この一言がイサに火をつけた。

(ち、ちんちくりんの小娘だとお!?)

「いいよ……見に行ってやろうじゃないの! そのエールシスってやつがどんなもんか!」

イサは通行人が歩いて行く方向にずかずかと歩き始めた。

宿屋の前は群衆でごった返していた。

「エールシス様ー!」

「エールシス様そのご尊顔をひと目だけでも!」

宿屋の窓は全部閉まっている。イサは観衆の一番後ろでしばらく眺めて観衆の言うことに聞き耳を立てていた。すると、

「やはり陛下のおそばにおられると綺麗になるのかねぇ」

そう言った声が聞こえた。

(陛下のおそば? 竜帝の側近か!)

イサの目の色が変わる。イサは群衆をかき分けて一番前に出た。例によって兵士が入り口を守っている。今度は4人居た。

「今すぐエールシスに会いたい。通して」

兵士たちはきょとんとしている。イサは業を煮やして自分から兵士の1人を投げ飛ばした。群衆から悲鳴が上がる。

「な、何をする!」

兵士は槍でイサを突いたが槍を掴まれてグンと引き寄せられ掌底で胸を打たれ吹き飛ばされた。3人目は剣で上段から斬りかかったが横にかわされて顎を下から掌底で打たれその勢いで後頭部を地面に叩きつけられた。4人目は少し躊躇したが、剣を抜いてイサを突いた。しかし白刃取りで剣を掴まれ、そのまま投げ飛ばされた。――群衆は静まり返っている。イサは宿屋の中に入るが1階には誰も居ない。2階は廊下が1本あり、右、左、奥の3つの部屋があった。右の部屋を開けたが誰もいない。奥の部屋を開けると男が1人、掃除をしていた。

「ここの主人さん?」

「そうですけど、今日はエールシス様の貸し切りで……」

「わかってるよ。その人と話したらすぐ帰るから」

そう言ってイサは奥の部屋を出て左の部屋のドアをゆっくりと開けた。背の高い女が1人向こうをむいて窓から外を見ている。どうやらこの窓は群衆がいるほうとは反対側の窓らしかった。

「誰……?」

女は窓から外を見たまま尋ねる。

「あなたがエールシス……様?」

「ええ……そうよ」

イサはさあいよいよ勝負のときだとばかりにエールシスを凝視した。エールシスが振り向いた瞬間、

「うっ……!」

イサは鳥肌が立った。細りとした小さな顔、切れ長で大きな目、透き通るような白い肌、背が高くスラリとした肢体、細くて長い手足、程よく出た胸。サラサラとした長い金髪を棚引かせ、ごく薄い白いローブを身にまとっている。その姿はまるで天女のようであった。――イサは思わず下を向いて自分の体を見た。

(わ、私だっていい体だっていわれたことあるんだから……野盗にだけど)

イサが敗北感に顔を歪めていると、エールシスは、

「どうしてここに来たの?」

と柔らかい口調で尋ねた。

「竜帝の居場所を知りたい。帝都にいるの?」

イサがそう言うとエールシスは少し微笑み、

「そうよ。陛下なら帝都におわすわ。でもなぜ陛下に会いたいの?」

「竜帝が……私の父さんを殺したから」

エールシスは目を見開いて絶句した。

「……陛下がそんな事するはずがないわ」

「だって! ペルを連れ去って殺したじゃない!」

エールシスの顔色が変わる。

「ペル……!? じゃあ、あなたが……アルポカ村のイサ……?」

「私のことを知っているの?」

エールシスは優しく微笑みながら言う。

「ええ、知っているわ。ペルのことも……」

「ペルは……死んだんでしょ?」

「そうね……。すでにこの世にはいないわ」

イサはそれを聞くと改めて激昂した。

「絶対に竜帝を殺す! そのあと死刑になってもいい! 殺す!」

「……あなたは大きな勘違いをしているわ」

「勘違い……?」

「……あなたが竜帝を殺すなどと言っては駄目」

「なんでよ!?」

「それは、あなたが……」

エールシスは一呼吸置いてから言う。

「……竜帝陛下の娘だからよ」

そう言われてからどれだけ時が経過しただろうか。イサは何も言わなかった、いや、言えなかった。エールシスが何を言ってるのかわからなかった。しばらく経って、イサはやっと言葉の意味を理解した。

「な……何いってんの? 私の父親はペルよ!」

エールシスは冷たい目をして言う。

「あなたは、ペルの顔を見たことがあるの……?」

「そ、それは……」

イサは言葉に詰まった。確かにイサはペルの顔を知らない。

「それから……あなたはもう一つ勘違いをしているわ」

「もう一つ?」

エールシスは窓の外を眺めながら言う。

「ペルを殺したのは……陛下ではないわ」

イサは完全に混乱していた。何がどうなっているのか全くわからない。

「ねえ、ちゃんと詳しく教えて! お願い!」

イサはエールシスにすがりつき、涙目で懇願した。自分の出生のこと、ペルのこと、竜帝のこと、真相を知らないと自分が壊れそうな気がした。

「……あなたが生まれたとき、そしてペルが死んだとき、私も子供だったの。だから伝聞でしかしらないのよ。帝都に直接の当事者がいるからその人から聞いたほうがいいわ。そのほうが、真相がはっきりわかると思うから」

イサはエールシスのその言葉を聞くと肩を落とした。

「とにかく帝都に行きなさい。そこで全てが明らかになるから」

――その夜。

イサは宿屋のベッドに横になって何も考えずに天井を眺めていた。いや、何も考えられなかった。あの後すぐにエールシスはドラグランカの別の町に行くと言ってサヴィシュの港町を出て行った。

(あなたは……竜帝陛下の娘なのよ)

(ペルを殺したのは……陛下ではないわ)

イサはエールシスが言った言葉を思い出した。

(エレトリと結ばれたペルは……いったい誰なの? 私は一体……どこから来たの?)

イサはその夜全く眠れなかった。

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