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【小説】竜帝の野望・第5話

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イサはレルア街道を帝都に向かって歩いていた。宿屋の主人に尋ねたところこの道を道なりにずっと進めば帝都に着くと言われた。しかし、帝都はとても遠く、徒歩で2ヶ月はかかるという。突如としてイサは走りだした。目から涙を流しながら。少しでも早く帝都に着きたかった。自分はいったい何者なのか……。イサはただそれが知りたかった。

――2ヶ月後。

イサはようやく帝都へとたどり着いた。さすがに帝国の首都だけあって今までの町とは比べ物にならない巨大都市だった。中心には天までそびえ立つ巨大な宮殿があり、その周りに首相官邸と各省庁などが並ぶ。人口はおそらく10万人以上はいるだろうか。イサは疲れきっていた。2ヶ月もの長旅はさすがに堪えた。しかし、早く自分の出生のことが知りたい一心ですぐに通行人に声をかけた。

「すみません」

「なんだい? お嬢ちゃん」

「あの、帝都に竜帝……陛下のことについて詳しい人がいるとお聞きしたんですけど」

「陛下のことについて詳しい人? うーん、知らんなぁ。 一口に帝都っつっても他の普通の町の10倍以上でかいからなぁ」

「そうですか……」

「人探しなら情報屋に行ったら? 金があればだけど」

「情報屋? そんなものがあるんですか?」

「うん。金さえ出せば何でも調べてくれるんだよ。ここの道を真っ直ぐ行くと右側に細い路地があってその突き当たりにあるよ」

「あ、ありがとうございます!」

イサは言われた通りの路地に来た。確かに突き当りに木で出来た古いドアが見える。イサは足を速めるとそのドアをゆっくりと開けた。すると、

「いらっしゃいませ~」

と言いながら愛想の良い女が近づいてきた。天井には豪勢なシャンデリアが吊るされていて、部屋の中は明るく、床には赤い絨毯。オルゴールによって景気のいい音楽が流れ、さながらカジノか何かのようである。

「当店のご利用は初めてでしょうか?」

女が笑顔で尋ねた。

「は、はい」

イサは予想外に明るい感じだったのでちょっと面食らってしまった。

「本日はどのようなご入用でしょうか」

「あの、人を1人探してもらいたくって」

イサがそう言うと女性がスッと何か書かれた紙を差し出し、

「メニューが4つございますがいかがなさいますか?」

と笑顔で尋ねた。紙を見てみると、

人探しメニュー

“街コース”  5

“都コース”  10

“大陸コース” 50

“国コース”  100

と書かれてある。イサはわけがわからず、

「あの、これ何なんですか?」

と尋ねると女はにっこりと微笑んで流暢な口調で説明し始めた。

「簡単にご説明させていただきます。街コースはここ、6番街の中だけで探すコースになります」

「6番街?」

「お客様、失礼ですが帝都外から来られた方でございますか?」

「はい」

「帝都は8つの区画に分かれておりまして、1番街~8番街までございます」

「で、ここが6番街だと」

「左様でございます」

「で、街コースは6番街だけで探すと」

「左様でございます」

「じゃあ都コースは?」

「都コースは帝都全体を探すコースでございます」

「あ、それがいいです」

「都コースということでよろしいでしょうか?」

「はい」

「ではこちらのほうへどうぞ」

女はそう言うと、カウンターの前にある椅子にイサを座らせ、

「人探し都1名さまで~す!」

とカウンターの奥へ叫んだ。すると、奥から上品で紳士的な雰囲気の身なりの良い男が出てきて、

「お待たせいたしました、お客様。当方が人探しの都コースを担当させていただきます」

とニコニコしながらカウンターの向こうに座った。

「本日はどのような方をお探しでしょうか?」

「えっと、顔も名前もわからないんですけど、竜帝陛下に詳しい方を教えてもらえれば、と」

「陛下に詳しい方ならどなたでも良いということでございますか?」

「うーん、私が生まれたころの話を聞きたいから……17年ぐらい前の陛下に詳しい人がいいかな」

「17年前っと。かしこまりました。1日あれば探し出せるかと存じます」

「えっ、そんなに早いんですか」

「はい、そのような方は帝都に複数いると思われますので、特定個人を探すよりも容易に探せるかと存じます」

「じゃあ、お願いします」

「かしこまりました。では、料金が前金で金貨10枚になります」

値段を聞いた瞬間イサの目つきが変わる。

「じゅうまいぃ~?」

――1時間後。

「お客様……困ります。こちらは金貨8枚まで下げると言っているのですから、ご納得頂かないと」

――3時間後。

「お客様、もう勘弁して下さい! 5枚です! これ以上は下げられません」

――6時間後。

「もう本当にやめて! 1枚で許して! これ以上下げたら私がクビになってしまう!」

イサは金貨1枚を払い宿屋で明日まで待つことにした。

(くそ……急いでなかったらもうちょい下げられたのに)

地図

――翌日、情報屋に赴いたイサは17年前に竜帝の側近をしていた男が7番街に居るという情報を貰った。情報屋が比較的7番街に近い位置にあり、その男の住所が6番街に近い位置にあったため30分ほど歩くだけでその住所についた。そこは石造りの小さな家であった。イサは緊張していた。いよいよ自分の中にある秘密が全て暴かれるのだと。イサは深く深呼吸するとドアを3回ノックした。木のドアが軋みながら開き、中から1人の老人が現れる。年の頃は70歳ほどであろうか。頭髪の薄くなった白髪頭。白い口ひげに胸まである白いあごひげ。緑色のローブをまとっている。

「なんだね?」

「あの……17年前のことを……聞きたくて」

「17年前!?」

老人は非常に驚いた様子で絶句していた。老人にとってもその時期に特別な何かがあったようだった。

「……入りなさい」

中に入ると暖炉とベッドと小さな机、そして椅子。それ以外は何もなかった。老人は椅子に座ると、

「そのベッドにでも座りなさい。汚いベッドですがな」

と言い少しだけ笑った。イサは言われたとおり、ベッドに腰掛ける。

「17年前のことを聞きたいとは……いったい17年前とあなたに何の関係が?」

イサは名乗ろうか名乗るまいか迷った。名乗るのが怖かった。全てが暴かれるのが。

「私……アルポカ村のイサと言います」

老人は驚いて絶句し、声が出ないようだった。老人は目を真ん丸くしてイサの顔を見ている。イサも老人から目を話さなかった。

「本当に……本当に、イサ様でございますか?」

老人は椅子から降りるとイサの前に跪きイサの顔を見つめた。

「あ……はい。イサです……」

老人はイサの顔に手を伸ばすと、

「失礼、少し……お顔を拝見してもよろしいですかな?」

「あ……どうぞ」

老人はイサに顔を近づけてイサの顔に触りながら目に涙を浮かべている。

「おお……おお……よく似ておられる。陛下に」

それを聞いたイサは少し俯いた。

「じゃあ、やっぱり私は、竜帝の娘なんですね……」

老人は椅子に座り直すと涙を拭いながら言う。

「いかにも、あなたは竜帝の血脈を受け継ぐお方です」

イサの目にも涙が浮かんでいる。

「でも、でも私の村にはペルという男の人がいたんです! エレトリという女の人と結ばれて、私はその2人に育てられた! 1歳のときにペルは国家反逆の罪人として帝国兵に連れて行かれて……それで」

イサはそう言うと黙りこんで俯いてしまった。

「イサ様が混乱されるのも無理もないことです。私が知っていること全てをお話します」

そう言うと老人は少し俯きながら話し始めた――

※※※※※

――クヌルド歴867年9月。今から19年前。イサが生まれる1年8ヶ月前のこと。突如として宮廷に激震走る。

「ジェイドがついに造反したというのはまことか?」

御前会議にて竜帝アレドラードは尋ねた。ジェイド伯爵とはドラグランカ大陸の一部を領地として保有する貴族である。

「はっ、複数の斥候から報告が入っております。間違いないかと」

軍務大臣ククドは答える。

「軍勢の数は?」

「3000」

会議室にどよめきが起こる。大きな町の人口が5000人ほどであるこの世界において、3000人というのは大軍と言っていい兵力であった。

「進軍速度は?」

「おそらく何も手を打たなければ1ヶ月以内に帝都に到達するものと思われます」

「近隣の貴族たちに挙兵するよう伝えよ」

アレドラードは内務大臣に命じる。

「伯爵閣下挙兵の噂ありの段階で、すでにヴァウス伯とユルペン伯に軍備を整えるよう伝えておりましたが、軍事費が足りぬの一点張りで……」

内務大臣マックネが応じる。

「内応の可能性ありということか……」

ククドの表情は厳しい。

「朕の軍を出すとすれば兵力はどれほど出せるか」

アレドラードはククドに尋ねる。

「おそらく5000は出せますが、ジェイド伯は猛将で知られておりますから他の貴族の兵なしでは厳しいかと」

アレドラードは少し考えたあと、

「ディアテュヌスに挙兵を命じよ」

とマックネに命じた。会議室にどよめきが起こる。ディアテュヌス公爵とはイサ達の住むディルメース大陸全土を領地として保有する大貴族である。

「陛下、お言葉ですが公爵閣下の領地と帝都は離れすぎていますし、途中に海もあります。とても間に合いません」

ククドは反論する。

「……同時に3人が造反すれば雪崩をうって他の貴族もしてくるだろう。ならば最大の貴族であるディアテュヌスを出すしかあるまい」

アレドラードは答える。

「公爵閣下に造反の意思ありならば?」

マックネがアレドラードに尋ねる。

「その時は帝国は終わりだ」

ククドが代わりに答える。会議室に重苦しい雰囲気が流れる。

「それを確かめるためにも挙兵の命令を出してみましょう。もしなんのかんのとはぐらかすようなら内応の疑いありかと」

マックネが提案する。

「陛下、いかが致しましょう?」

ククドがアレドラードに尋ねる。

「マックネに任せる」

そう言い残すとアレドラードは退室し、その後、マックネはすぐに部下に命じ、伝書鳩を飛ばした。数日後、ディアテュヌスから返ってきた返書は”すぐに挙兵し、5000の援軍を送る”というものだった。これに閣僚たちは安堵したが、アレグラードだけは違っていた。

ディアテュヌス挙兵の知らせは貴族の間でまたたくまに広まった。それに対抗するようにヴァウスとユルペンが造反、挙兵する。その後、相次いで4人の貴族が造反。

――御前会議。

「ジェイド、ヴァウス、ユルペン以外の貴族はみな小物です。全部足しても6400程度。こちらは帝の軍と公爵閣下の軍で10000ありますから勝てます」

ククドが言った。しかし、アレドラードは何も答えない。

「朕は体調が優れぬ。今日の会議は取りやめとする」

アレドラードはそう言って退出してしまった。その後、宮殿からアレドラードは病気にかかったと閣僚たちに伝えられ御前会議が開かれることは無くなった――

※※※※※

「そのアレドラードって人が私の父さんなの?」

「そうです。あなたのお父上です」

「父さんは何の病気だったの?」

「それが……ご病気ではなかったのです」

※※※※※

「クニム、ちょっと来い」

「なんで御座いましょうか?」

アレドラードが最後の御前会議を途中退席した直後、宮殿の廊下にて侍従クニムはアレドラードに呼ばれた。

「今すぐネイシュを逃がせ」

「は?」

ネイシュとはアレドラードの妹である。アレドラードの命令がクニムには理解できない。

「帝都は陥落する。もう時間の問題だ」

「き、貴族たちの造反の件でございますか? しかし、閣僚閣下の話では兵力ではこちらが勝っていると」

アレドラードは声を潜めて言う。

「ディアテュヌスは裏切る。これは策略だ。おそらく裏で糸を引いてるのはディアテュヌスだ」

「あの……なぜそんなことが?」

クニムはアレドラードの言っていることがさっぱりわからない。

「今すぐネイシュを連れて遠くに逃げ、ディアテュヌスに場所を知られぬよう身を隠せ。帝都が陥落して俺が死ねば血脈を継ぐ者はネイシュしか居なくなる。これは命令だ。急げ」

「そんな……それなら陛下も一緒に逃げましょう。死ぬとわかっていてなぜ残るんですか」

「バカ野郎。民を放り出して逃げる帝があるかよ」

「いいえ、お逃げ下さい陛下」

そう言いながら廊下の奥から歩いてきたのは首相のブトンフである。

「閣下! 行政府の人間は本来、謁見の間から先には入ってはならない慣習のはず」

クニムは声を荒らげてブトンフを非難した。

「今は緊急事態ゆえ陛下にお逃げくださることを進言しに参ったまで。陛下。民は助かります。帝都を無血開城すれば」

「無血開城だと?」

「そうです。もしディアテュヌスが裏切れば、その瞬間を持って降伏し、帝都を明け渡す。そうすれば少なくとも民は助かります。しかし、それでも陛下のお命は助かりません。だから陛下が帝都におわす限り我々は降伏できません。帝都が戦場になれば何千何万もの民が死にます。陛下。どうか我々に降伏の機会を。民を助けるためにお逃げ下さい」

「ふっ……、俺がいると邪魔だから失せろってか」

ブトンフは深々とアレドラードに頭を下げると、

「左様でございます」

と言い放った。アレドラードはその夜、帝都から離れることを決意。しかし、お供しようとする侍従を足手まといだとして拒否。ネイシュとアレドラードはそれぞれ別々に帝都から姿を消した。

――その4ヶ月後にディアテュヌス軍が到着するもアレドラードの予想通り裏切り、帝都は無血開城された。ディアテュヌスは”執政”という新たな役職を作り、帝国の全権を掌握した。閣僚のほとんどは処刑されたがブトンフだけは無血開城を決断した功績を持って無罪とされた。

※※※※※

「その後、父さんはどうなったの?」

「わかりません。その後の陛下を直接見たものはおりません。ですが、陛下がお逃げになってから2年半ほど経ったある日、私に1通の手紙が届いたのでございます」

老人は机の引き出しを開け、ごそごそと漁った後、色あせた1枚の紙を差し出した。所々文字がかすれているが何とか読める。イサは破けないように慎重にその手紙を読み始めた。

※※※※※

ブトンフへ

お前が処刑されて無ければよいがと思いながらこの手紙を書いている。思えば俺はろくでもない帝だった。自分でも無能だったなと思う。貴族たちに造反されたうえに都を追われ、隠れて震えているとは全くもって恥ずかしい限りだ。あれから俺はサヴィシュの港町に赴き、船に乗ってディルメース大陸に渡った。あえてディアテュヌスの領地に居たほうが見つかりにくいだろうと思ったのだ。ディルメース大陸の港についた後、街道を歩きながら途中にある町や村々を見て回った。ひどいありさまだった。ディアテュヌスがどれだけの圧政を敷いていたのか、その実態がよくわかった。大きな町はそこまで貧しくないのだが、小さな村々は荒廃が酷く、食べるものは毎日穀物の粥など貧相なもので、病気になっても薬すら買えず、不衛生な環境の中、死んでいく者が多く居た。俺は村々を回っては少しずつ金品を分け与え、金が尽きれば剣を売って金に変えて与え、今度は服を売って金に変えて与えた。そうして俺はとうとう一文無しになった。自分でもバカだったなと思う。しかし、俺は見ていられなかったのだ。俺の国の国民が放蕩な貴族のせいで苦しんでいるのが。1人でも多く助けたかった。一文無しになった俺はやがて空腹で目が回り始め、朦朧とした意識の中、道に迷い、倒れこんだ。目を覚ましたとき、目の前にカエルがいた。俺はカエルを食べた。カエルを食べたのは初めてだったがなかなか美味かったぞ。今度お前も食べてみろ。そうやって俺はカエルを食べ、虫を食べ、夜露を飲み、川の水を飲み、何とか生き延びた。ヘビも食べたし、ムカデも食べた。だが、そんな生活も1ヶ月ほどで限界が来た。俺は疲れきってフラフラになり、どこかの山中をさまよっていた。そんなとき野盗が3人現れて、俺に金を出せと言った。俺が金はないというと剣を抜いて斬りかかってきた。普段なら野盗の3人ごとき物の数ではないが、さすがにその時の状態では太刀打ちできず、背中を斬られ俺は倒れた。野盗は俺が倒れたのを見ると笑いながら去っていった。ああ、俺はここで死ぬんだなと思い俺は意識を失った。次に目を覚ましたとき、俺は女の家に居た。その女は素性のしれない俺を熱心に看病し、自分の財産を売ってまで薬を買い、俺を助けた。正直に言って、変な女だった。だが俺はその変な女と一緒に暮らすうち、徐々にそいつに惹かれていった。今はその女を妻に娶り、娘が1人いる。名をイサという。先日1歳になった。たぶん俺に似て育ちそうな気がする。ディアテュヌスもそんなに馬鹿ではないだろうから、そのうち俺は捕まって処刑されると思う。俺の素性は誰にも明かしていない。だから、イサが大きくなったとき、俺を探して必ずそちらに行くだろうから真実を教えてやってくれ。必ず帝都まで行く。俺の娘なら。俺は別に命が惜しいわけではないが、心配なことが2つある。イサのことと血脈のことだ。俺が死ねばネイシュかイサしか竜帝の血脈を受け継ぐものは居なくなる。この2人のうちどちらかを即位させなければならない。ディアテュヌスはたぶんそのうち失脚するだろうから、出来ればネイシュを即位させてほしい。イサはまだ小さすぎるし、大きくなってもたぶんそんな柄じゃなく育つだろう。たぶんな。お前しか信用出来ないから頼む。ディアテュヌスが失脚したからといって油断してはならない。必ずディアテュヌスを殺せ。ディアテュヌスは必ず竜帝の血脈を根絶やしにしようとしてくるだろう。そういう男だ、あいつはな。あいつが居る限り帝国の安定はない。そしてあいつが居る限り血脈を持つイサが危険にさらされる。繰り返し言うがディアテュヌスは危険だ。奴を生かしておいてはならない。お前は首相としてよく働いてくれた。感謝している。イサとこの国を、よろしく頼む。

ペルセシャス・アレドラード

※※※※※

「ペル……セシャス……?」

「そうです。イサ様の村の方々が”ペル”とお呼びになっていたその方こそペルセシャス・アレドラード様。先代の竜帝陛下です」

そのときイサの胸にあったのは感動でも悲しみでも安堵でも嬉しさでもなく、”危機感”であった。

「その後、ディアテュヌスはどうなったの!? まだ生きているの!?」

イサは父がここまで危険視する男のことをまず考えた。

「順を追ってお話いたします。手枷を嵌められて都中を引き回されている陛下を見たのは、皮肉にもこの手紙が届いた1か月後でした。おそらく捕らえられる1ヶ月ほど前にしたためたのでしょう。そのとき陛下がアルポカ村で捕らえられたと聞いて、イサ様の居所を知りました。それから3ヶ月後に陛下は処刑されました」

イサは真剣な表情で聞いている。

「陛下が崩御なされたことで帝位が空きました。ディアテュヌスはすぐに即位しようとしました。しかし貴族共和制を目指していた貴族たちからの猛反発にあい、ディアテュヌスと他の貴族たちの連合軍との間で内乱が再び始まりました。その戦争が1年ほど続いたところで、ドラグランカ大陸のとある場所でネイシュ様が発見されたのでございます。疲弊しきっていた両陣営は一旦ネイシュ様を即位させ、元の鞘に納まるという形で和平を成し遂げました。その体制が今でも続いています。よってディアテュヌスは生きています。イサ様の故郷、ディルメース領の領主として」

「じゃあ、今の竜帝はネイシュ……様?」

「そうです。ネイシュ様です」

イサは目を瞑ってしばらく黙っていた。自分がいま何をすべきなのか。それを考えていた。

「ブトンフさん」

「はい」

「ディアテュヌスは、必ずまた造反するよね?」

「おそらく」

「私……ディアテュヌスを殺す! そして絶対ネイシュ様を守る!」

そのときのイサの目は決意に満ちていた。

 幕間・キャラクター紹介

シュロテー

28歳。男性。帝国の軍務大臣。一兵士から大臣にまで登りつめた叩き上げで、恐るべき戦闘能力を持っている。豪快で筋を通す性格で悪人ではない。孤児であり、帝都内の孤児院で育った。酒を飲むことを好み、酒場にある酒をまるごと1軒飲み干したことがある。ガサツで乱暴で不器用なところがある。

エールシス

29歳。女性。竜帝の女官。孤児でありシュロテーと同じ孤児院で育った幼なじみである。戦闘能力の有無は不明。頭がよく温和な性格で常に竜帝のことを考えて行動している。反面、冷酷な一面もあり、仲間が窮地に陥っても竜帝のためにならないと判断すれば容赦なく見捨てる。

ブトンフ

19年前当時で52歳。現在71歳。男性。当時の総理大臣。戦争裁判にかけられるも無血開城を決断した功績が認められ無罪。裁判が終わってからは国政を退き細々と本を執筆するなどして生計を立てていた。竜帝の一族に対する忠誠心は誰よりも強くペルセシャスからも絶大な信頼を置かれていた。ペルセシャスの治世において、首相に任命されたのは彼のみである。

ディアテュヌス

現在61歳。男性。帝国領土の一部を領地として与えられている公爵。その領地は帝国の貴族たちの中で最大のものであり帝国領土の半分を占める。残忍で卑怯な性格で謀略と暗殺を駆使して公爵にまで登りつめた。厳しい税を取り、圧政を敷き、領民を貧困の渦に巻き込んでいる。失敗した部下を許し再びチャンスを与えるなど寛大な面もある。

ネイシュ・アレドラード

現在39歳。女性。現在の竜帝。ペルセシャスの妹。15年前、24歳のときに竜帝に即位。高潔で慈悲があり常に国民のことを考えている女性で善政を敷いている。帝都の民からは国母と呼ばれ親しまれている。ペルセシャスを殺したディアテュヌスのことを憎んでいるがまた戦争になり多くの民が犠牲になることを恐れ、私情を押し殺している。ときどき情にほだされて囚人を恩赦することがあり、そのことが原因で釈放された殺人鬼に国民が殺されたことがある。

ペルセシャス・アレドラード

享年29歳。男性。先代の竜帝。ネイシュの兄。イサの父。エレトリの夫。ネイシュと同じく高潔な性格で正義感が強く善政を敷いていた。その政策の最終目標は帝国の身分制度の撤廃であったが、貴族たちの反発によってなかなか実現できずにいた。27歳のときエレトリと出会い、29歳で処刑。ついに最期まで自らの理想とする政策は実現できなかった。生前はペルという偽名をよく使っていた。公的な場では「朕」という1人称を用いて硬い口調で喋り、私的な場では「俺」という1人称を用いて砕けた口調でしゃべる。

⇒第6話に続く