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【小説】竜帝の野望・最終話

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――翌日早朝。

「うわぁ、すごい、なんて言う木ですか? これ」

そこは特徴的な木がたくさん生えている森であった。すべて葉や枝が全く無く幹だけの木なのである。直径はちょうどイサの剣の長さと同じぐらいであろうか。

「木の名前なんぞどうでもいいわい」

カミイズミはその辺に落ちていたちょうど木刀ぐらいの大きさの木の棒を拾うと巨木の一本をコンコンと叩いた。

「この木を剣で切り倒せ」

「ええっ」

剣術を始めて2年になるイサでもさすがに驚く。

「そんなこと出来る人いるんですか?」

「どれ、ちょっと剣貸して」

「あの、昨日から不思議だったんですけど」

「なにがじゃ?」

「お師匠様って剣持ってないんですか?」

「うん。錆びたから捨てた」

「さ、錆びた?」

「剣なんぞ無くても剣術はできるわい。そんなことどうでもいいから早く貸せ」

「はい」

イサは剣を抜いてカミイズミに手渡す。

「木が頭に倒れてきたら避けるんじゃぞ。死ぬからな」

「は、はい」

カミイズミはそう言うと構えもなにも取らず、腰も入れず、ただ突っ立って剣を振っただけでスパッと木を切ってしまった。バキバキと音を立てて木が倒れ落ちる。幸いにもイサの方には倒れてこなかった。イサは驚きのあまり絶句してしまった。このような芸当が出来る人間がこの世にいるとは思えなかった。

「お前はまず基本的な剣の扱い方からやり直さんといかん。ジアスが変なやり方を教えとるわ」

(私、1年もかけて変なやり方を学んだんだ……)

イサは呆然としている。

「ほれ、やってみろ」

カミイズミは剣をイサに手渡した。イサは呼吸を整え、腰を入れて思い切り剣を振った。――しかし、剣は食い込むだけで木は全く切れる気配がない。

「剣を適切に使わんと切れんよ」

カミイズミはそばにあった石に腰掛けて棒で肩を叩いている。

(あ、そうだ……!)

イサは木から距離を取ると、思いっきり横薙ぎに剣を振り巨大なかまいたちを作りだした。すると、カミイズミが棒で肩をトントン叩きながらかまいたちの前に歩いてきて、まるでハエでも払うかのように手のひらを振るだけでかまいたちをかき消した。

「こりゃ!」

「あいた!」

カミイズミは棒でイサの頭を叩く。

「お前、こんな馬鹿げた曲芸をどこで覚えた?」

「……父さんが使ってたって聞いて真似しました」

「ペルが? ああ、そういやそんなことあったな。兄弟子に勝てずに悪あがきで編み出して結局負けた技じゃ」

「えっ……そんな技だったの?」

「まあ、剣術なんてのは勝てば何でもいいんじゃが、こんなもんは雑魚には通じても本当に強いやつには通じんよ。その程度の技じゃ」

「そう言えばプロメトスにも通じませんでした……」

「そうじゃろ。今後一切、この類の技を使うことは禁ず」

(えー、大勢を倒すときとか便利なのに……)

イサはこの木を切り倒せるようになるのに1ヶ月を要し、さらに1ヶ月間切り続けるという練習をした。

イサが値切り倒してタダで貰った剣は本当に良い剣でこの練習でも刃こぼれ一つすることは無かった――。

――弟子入りしてから2ヶ月後

カミイズミの小屋のそばにて。

「次はお待ちかねの無刀取りじゃ」

「えっ! 無刀取りを教えて頂けるんですか!?」

イサは笑顔で食いついた。

「違うよ。無刀取りを破る練習じゃよ」

「えー、無刀取り覚えたいのにー」

「覚えんでいいと言うとるじゃろ。無刀取りを破るのは隙を無くす練習になるんじゃ」

「隙を無くす練習はジアス師範のところで死ぬほどやりましたから平気ですよ」

「あいつは1年でお前に負けるような奴じゃぞ。あいつに教わったことは全部忘れろ。今のお前は隙だらけじゃ。現にわしにパカパカ殴られとるじゃろうが」

「それは、そうですけど……」

「ではわしに斬りかかって来い」

――結果は何度やっても同じであった。斬った感触の後に気づいたら地面に寝転がっており剣を突きつけられている。それの繰り返しであった。

「お前は”隙が出来る”という感覚が自分でわかっとらんのじゃ。だから隙を埋められず隙だらけになる」

カミイズミはそう述べていた。

――

(なんで、ああなっちゃうのかな)

ある日、イサはまな板の上で野菜を切りながら考えた。

(そういや、なんでお師匠様って無刀取りを作ったときに斬った手応えがするように作ったんだろ)

イサは鍋に野菜を入れながら考えた。

(剣を奪うだけなら避けて奪うだけでいいのに)

そのとき、イサの手が止まる。

(そうだ……相手を倒すだけなら別に斬った手応えとか要らないんだ)

イサはボーっと考えている。鍋から焦げ臭い匂いが漂う。

(斬った手応え……斬った手応え?)

イサは突如として作りかけの料理を放り出して剣を取り、外で草むしりをしていたカミイズミに後ろから斬りかかった。例によって剣はカミイズミに直撃し、斬った感触がした後――

――手首を掴まれる感触がした。その瞬間、イサは後ろ蹴りを放ち背後に居たカミイズミの胸部に直撃させた。吹っ飛んだカミイズミは宙返りをしてふわりと着地する。

「わかりましたお師匠様! 隙が出来る感覚! 斬った後に相手が攻撃してくることは無いと無意識に思い込んでいたんですね!」

「そうじゃ」

カミイズミは服のほこりを払いながら述べる。

「無意識にというのが重要な点じゃ。あるとわかってる隙など隙ではない。あるとわかってるんじゃからな。自分が気づかない隙こそが隙なのじゃ」

「でも、残心の稽古はジアス師範のところでもやったのに……」

「多くの流派で残心残心と言われてるが、実際には形だけ構えを維持してるだけで、内心は勝ってホッとしてる奴がほとんどじゃ。そして自分がそのような状態にあることに気づいとらん。真の意味で残心が出来てるやつなどほとんどおらんよ。隙が出来てると気づかせるためには隙が出来てるときの感覚を体に覚えさせねばならん。そうすれば自分の隙に気づくようになる」

「無刀取りが実戦で使えないと言う理由がわかりました。残心が出来てる人には通用しないですもんね」

「そうじゃ。……しかし師匠に蹴りはないじゃろ」

「いたっ!」

イサは棒で頭を叩かれた。入門してから3ヶ月目の出来事だった。

――その直後。カミイズミの小屋の中にて。

「今度はお前さん用に作った特別練習じゃ」

「えっ、わざわざ作ってくださったんですか?」

「そうじゃ。ジアスの奴めがお前さんに妙な癖を植えつけたんでそれを矯正する練習じゃ。お前は斬るときに妙に力む癖があるんでな」

「あの……前から疑問だったんですけど」

「なんじゃ?」

「ジアス師範って強かったですよ? 最期の一撃とか凄かったですもん」

「どんな一撃じゃった?」

「私がおとりで突きの殺気を放って横薙ぎで斬ろうとしたら、寸前で突きを繰り出されて危うく首を貫かれるとこだったんです」

「殺気の読み合いなんぞしてる時点で論外じゃ。強いやつは心を消して斬るぐらい朝飯前じゃからの」

「心を……消す?」

「まあ、それは後で教えるから今はこの練習に集中するんじゃ」

「はい」

カミイズミは紙の束を取り出した。

「何これ。紙? ……ひょっとして剣で紙を斬る練習ですか? そんな簡単な……」

イサは頭をパカっと叩かれた。

「もー、いたぁい」

イサは涙目で頭を押さえている。

「師匠の話は最後まで聞け。……逆じゃ、斬らないんじゃよ」

「えっ、斬らない?」

「どれ、剣貸して」

「はい」

カミイズミは紙を上に舞い上げるとひらひらと落ちてくる紙に思いっきり横薙ぎの斬撃を食らわせた。しかし、紙は全く切れておらず、剣からひらひらと舞い落ちた。

「ほれ、やってみろ」

イサは同じようにやってみた。何回やっても斬れてしまう。

「普通の人間は逆なんじゃけどな。舞い落ちる紙を斬るほうが難しい。じゃが、お前さんは、なまじ才能があるだけに斬るのは簡単に出来て、斬らないのができん。だからこの特別練習をやるんじゃ」

イサは今度は小さくそっと斬ってみた。やはり斬れてしまう。

「斬撃の大小の問題じゃないんじゃな。大小に関わらず斬るときに力がこもるんじゃお前さんは」

斬るときに力む癖はイサの体に相当に染み込んでいたようでこの練習を突破するのに9ヶ月かかった。

――弟子入りして1年。小屋の外にて。

「こんどは心を消す練習じゃ」

「心を消す?」

「そうじゃ。殺気を発せずに斬るということじゃ。殺気を発してたら何するか相手に丸わかりじゃからな」

「そんなの無理ですよぉ。突く時はどうしても突くぞ! って思っちゃうもん」

「……火を焚け」

「えっ」

「火を焚けと言うとる。さっさと動け。頭叩くぞ」

「は、はい」

イサは薪と藁を持ってくるとフリントを使って焚き火を起こした。煙がもくもくと湧いてくる。カミイズミは棒を片手上段に構えると、煙に向かって袈裟斬りをした。

「け、煙が……斬れた」

イサが言うように、一瞬ではあるが、煙がはっきりと真っ二つに斬れた。そしてまたもくもくと元の煙に戻った。

「やってみい」

イサが真似をしてやってみるが、煙がかき回されるだけで全く斬れない。何回やっても同じであった。何日間か練習を続けた頃、

(わからない……。どうやればいいのか全然わからない)

イサは悩み苦しんでいた。解決の糸口が全く見えなかったのだ。それを見かねたカミイズミが助言をする。

「お前さん、煙を斬ろう。早くこの練習を突破しよう。なんで斬れないんだこのやろう。と思っとるじゃろ」

「ま、まあ、確かにそれに近いことは思ってますけど」

「そんなこと思うから斬れんのじゃ。斬ろうと思うな。何も考えずに斬れ」

――それから5ヶ月後のある日の夕刻。イサは夕食の支度をしていた。鍋から湯気が上がっている。イサはその湯気を何気なく包丁で袈裟斬りに斬ってみた。

「えっ……!」

イサは固まった。

「今斬れなかった!?」

確かに湯気が真っ二つに切れたように見えた。イサはもう1度やってみる。しかし湯気がかき回されるだけで斬れない。

「ふぃ~、この歳で薪割りはしんどいわい。腰が痛うてたまらんわ」

カミイズミが薪割りを終えて入り口から入ってくるが、イサはカミイズミにも気づかずにボーっとしている。

「おい、なんか焦げ臭いぞ。おい、なんじゃこれは! 真っ黒焦げではないか!」

イサは気づかない。カミイズミはイサの頭を棒で叩いた。

「あいたっ! あ、お師匠様……」

「大事な食べ物を台無しにしおって! 何考えとるんじゃお前は!」

「あの、さっき包丁で湯気を斬ってみたんです。そしたら1回は斬れたのに、それから何回やっても斬れなくて」

「とりあえず、鍋を火から下ろせ」

「あ、やば」

イサは急いで鍋を火から下ろし、火を消した。

「斬れたときは、どんな気持ちじゃった?」

「それが、覚えてないんです。ほんとに何気なくフッと斬っただけなので」

「そうじゃ。それでいい。斬ったことを覚えていない。何気なくフッと斬った。それが正しいのじゃ」

「どういうことですか?」

「お前は湯のみで茶を一口飲むとき、”今から茶を飲むぞ”などと意気込んで飲むか?」

「い、いえ、何も考えず自然に飲みますけど」

「そうじゃろう。そして、いつ茶を飲んだかなどと覚えてはおらんじゃろう。それが心を消すということじゃ。お前が言うようにそれが自然体なのじゃ。自分と手と湯のみが一体化し、自分の体の一部となっとる状態じゃな。心を消すとは相手を自分の体の一部とすることじゃ」

「相手を自分の体の一部に……?」

「自分の体の一部を殺そうなどとは思わんじゃろう。だから殺気など出ぬのじゃ。今言ったことを念頭に、常にその状態を維持できるようにせよ」

この1か月後にイサは煙斬りを習得した。

――煙斬りを習得した翌日。

「そろそろ一度実戦をやってみるか」

「えっ、お師匠様と戦うんですか?」

「当たり前じゃろ。他に誰がおるんじゃ」

「……勝てる気がしないんですけど」

「お前なんぞ一生かかってもわしには勝てんわ。力量を見るだけじゃ」

カミイズミはその場に丸腰で胡座をかいて座り込むと、

「さて、かかってこい」

と言う。イサは唖然としてしまった。

「か、かかってこいって……」

「いいからかかってこい」

「でも……」

「はよ……かかってこんか!!」

カミイズミがそう一喝した瞬間、イサの体はひとりでに動き出し、剣を抜き、カミイズミに袈裟斬りをしかけた。しかし、イサの剣は宙を斬り、剣は地面にざっくりと刺さってしまった。カミイズミは微動だにしていない。

「な、なに今の……」

「はよ、かかってこんからじゃ。次からは自分でかかってこい」

カミイズミがそう言った瞬間、イサは今度は自らの意思で逆袈裟をしかけた。しかしイサの剣は宙を斬るだけで当たらない。カミイズミはまた微動だにしていなかった。イサは今度は突きを繰り出した。しかしまた宙を刺しただけでカミイズミには当たらない。カミイズミは微動だにしていないのに。その後、何十回も斬撃を繰り出したが結果は同じであった。

「ふむ、最初の頃よりはだいふ良くなった。よし、実戦はこれで終わりじゃ」

そう言うとカミイズミは立ち上がり小屋の中に入ろうとした。

「あの、お師匠様」

「なんじゃ?」

「さっきの、どうやって避けてたんですか?」

「別に避けとらんよ」

「え、避けてない? 剣が当たる一瞬だけ避けたとかですか?」

「なんでそんな面倒臭い避け方せにゃならんのだ。避けるなら普通に避けるわい」

カミイズミはそう言うと小屋の中に入ってしまった。イサには何が起こったのかちんぷんかんぷんであった。

――実戦をした翌日。

「基礎は一通り終わった。では、いよいよ、そのプロなんとかに勝つための対策じゃ」

「やった!それを習得すれば勝てるんですね?」

「そうじゃ。そのプロなんとかは速さ先行型じゃ。速さに対応できれば勝てる」

カミイズミはそう言ってその辺にあった豆粒のような小石を指で弾いた。次の瞬間イサの額にチクっと痛みが走った。小石が額に当たったのだ。

「み、見えなかった」

「この飛んでくる小石を取ってみい」

「えーっ」

例のごとく何回やっても取れない。50回ぐらいやったころ、

「お前、石ばっかりみとるじゃろ」

カミイズミが言う。

「そ、そうかもしれません」

「石じゃなくて相手を見ろ」

「相手を見る?」

「お前はそれを半分は出来とるんじゃ。ジアスと戦ったとき、重心の位置でジアスの動作を読もうとしたと言うとったな?」

「はい」

「重心だけじゃなく、視線の動き、体の動き、それらを全て総合して相手の動きを読め。別に早く読む必要はない。どんなに速い奴でも最初から速いわけじゃないんじゃ。必ず予備動作がある。それを見るのじゃ」

この後、さらに50回石を投げたが全くつかめない。

「なんか、わしのほうが飽きてきたわい。あと1回で今日はやめじゃ」

(予備動作を見る……)

カミイズミが石を弾いた瞬間、イサはあっさりそれを掴んだ。

「あ、できた」

「これは元々ある程度できとったから簡単じゃったようじゃな」

「これでプロメトスに勝てるんですよね! ありがとうございました!」

そう言ってイサが背を向けた瞬間、カミイズミが棒でイサの頭を叩いた。

「いたっ!」

「お前は弟子なんじゃぞ。わしが良いと言うまでここを離れるのは許さん」

「で、でも早くしないとディアテュヌスが……」

「何が起ころうともじゃ。さあ、次の練習じゃ」

その後、イサはカミイズミの元で毎日様々な練習をやり続けた。

――弟子入りして3年後。イサ21歳のとき。小屋の外にて。

「お前の修行は完成した。これでもう教えることはないわい。後は自分で技を磨くが良い」

「本当ですか! ありがとうございます!」

「3年で全部終えるとはやはりお前には才能があったようじゃな。ちょっとまっとれ」

カミイズミは小屋の中に入ると、紙を1枚持って来た。

「ほれ、これをやろう」

紙を見るとこう書いてある。

“シンカゲ流兵法剣術目録”

「目録じゃ。持っていけ」

「わー! やったー! ありがとうございます!」

イサは飛び上がるほど喜んだ。3年もの修行をしたのは初めてであり、その成果を改めて目にして感慨深かった。

「これからはジアス流ではなくシンカゲ流を名乗れ。わしから目録を取ったやつは20年ぶりじゃ」

カミイズミも嬉しそうに笑った。優秀な弟子が出来て嬉しかったのであろう。

――

イサは意気揚々と山を降り、街道を歩いていた。その時、

「イサ様ー! イサ様!」

一匹の早馬がイサの元に駆け寄ってきた。乗っていたのはブトンフである。

「あ、ブトンフさん、久しぶり」

「イサ様! 大変でございます!」

ブトンフは顔面蒼白であった。

「何? どうしたの?」

「ディアテュヌスが……!!」

「え!? ついに造反したの!?」

イサの表情が一変する。

「いえ、今回は造反ではありません! クーデターです!」

「クーデター!?」

「ディアテュヌスは陛下に謁見すると言って100名の少数精鋭と共に帝都内に入り、軍事行動を起こし、そのまま宮殿を占拠。ネイシュ様は捕らえられ、クーデターは成功しました」

「近衛師団は何をしていたの!?」

「帝国軍全体が乗っ取られました! テュリウス将軍が裏切ったのです」

テュリウス将軍とは帝国軍の最高司令官である。

「早くネイシュ様をお救い下さいイサ様! この馬なら1週間で帝都に着きます!」

イサはそれを聞くなり馬に飛び乗り、もの凄いスピードで駆け出した。

1週間後、帝都に着いたイサは馬も降りずにそのまま正門へ突進した。帝都の5番街正門、兵士5名が門を封鎖している。

「おい! そこで止まれ!」

5名全員が剣を抜く。それでもイサは止まらない。イサが正門に到達したとき5名全員が同時に斬りつけ、5つの斬撃がイサの体を貫いた。しかし、全く手応えはなく、イサは平然と宮殿のほうへ走っていった。宮殿へ向かってひたすら走り続けるイサ。町中はそこら中に帝国軍兵士が巡回し、厳戒態勢が取られていた。一直線に宮殿に走るイサを兵士が見つけ、斬りかかるも当たらない。イサはただ走ってるだけなのに。イサは30分ほど馬で走って宮殿に到着した。宮殿は塔のような構造で10階建てである。入り口から入ると部屋の真ん中に女が1人倒れている。イサが駆け寄って抱き起こすとエールシスであった。見たところ外傷などは無い。

「エールシス! エールシス!」

イサが揺り動かすとエールシスが目を覚ます。

「イ……サ……?」

「エールシス! 何があったの!?」

「プロメトスが……」

「プロメトスがどうしたの!?」

「私は大丈夫だから……最上階に……ネイシュ様が」

イサはそれを聞くなり階段を駆け上がり始めた。2階に上がり、3階に上がったとき、そこにいた1人の将軍らしき人物が剣を抜いた。

「あなたは?」

イサがそう尋ねるとその将軍は剣で斬りかかってきた。将軍の剣はイサの体を通り抜けたがまるで手応えはなく、気づくと心臓に自分の剣が刺さっていた。その将軍がテュリウスだとイサが知るのは後日である。イサは階段を登って3階、4階と進み、5階に到達した。するとシュロテーが血まみれで倒れていた。イサは駆け寄って抱き起こす。

「シュロテー! シュロテー!」

「う……イサじゃねえか……修行は終わったのか?」

「誰にやられたの!?」

「プ……プロメトスに……や、奴は……」

それだけ言うとシュロテーは息を引き取った。イサは6階、7階と進む。8階に到達したとき、意外な人物が血まみれで倒れていた。

「あなたは……ディアテュヌス?」

イサが抱き起こすとまだ意識があるようだった。

「う……おまえは……いつかの」

「なんであなたが?」

「プ……プロメトス」

「プロメトスがあなたを斬ったの?」

ディアテュヌスは口から血を流しながらうなずく。

「なぜ? 何があったの?」

「あ……あいつは……あいつの……正体は……ううっ」

そう言ってディアテュヌスは事切れた。イサは不審に思いながらも9階へ進み、最上階へ到達した。そこで見たものは血のついた剣を持ったプロメトスと、血まみれで倒れているネイシュであった。イサがネイシュに駆け寄ろうとしたとき、プロメトスが剣を構え、すさまじい速度で突きを繰り出した。しかし、突きは宙を突いただけであった。確かにイサを狙ったはずなのに。

「な!?」

驚くプロメトス。イサは平然とネイシュに近づくと抱き起こした。すでに事切れている。

「叔母さん……」

イサはそうつぶやくと、立ち上がり、悲しそうにプロメトスを見た。

「お前……この3年間で何をやった!?」

プロメトスが尋ねる。イサは何も答えない。

「なぜディアテュヌスを殺したの?」

イサが尋ねる。プロメトスはそれに答えず、今度は物凄い速さの袈裟斬りを繰り出した。しかし袈裟斬りはまた宙を斬るだけだった。イサは微動だにしてないのに。

(こいつ……俺の体を操っている……?)

「なぜディアテュヌスを殺したの?」

もう一度、イサが尋ねる。プロメトスは剣を下ろすと、

「公爵閣下はここを登っている途中、”竜帝を傀儡として利用し、帝国を治める”と言った。だから殺した」

と答える。イサには話が見えてこない。

「なぜ竜帝を傀儡として利用するのがダメなの?」

プロメトスはイサを睨みつけている。

「お前も竜帝の一族だそうだな」

「……そうよ」

「竜帝の血脈は根絶せねばならない!」

そう言うとプロメトスは今度は下段から先程よりも更に速い逆袈裟を繰り出した。しかしイサには当たらない。どうしても狙いが外れてしまう。

「お前は何なんだ! なぜ死なないんだ!!」

プロメトスは苛立っている。

「俺は……! 竜帝の血脈を……竜帝の野望を根絶しなければいけないのに!」

「竜帝の野望?」

プロメトスは必死だった。ただただ自分の使命感、それだけが彼を動かしていた。

「なぜ、そこまで竜帝にこだわるの?」

「うああああああああ!!」

プロメトスは雄叫びを上げるとイサをめちゃくちゃに斬り刻みはじめた。しかし、例によって全ての斬撃が外れてしまった。さすがにプロメトスも息が上がってきたようで、剣を構えながら後ろに後退りすると背中から壁に寄りかかって休み始めた。

「あなたでは私には勝てない……。絶対に。だから教えて」

プロメトスは肩で息をしている。

「あなたはいったい誰なの?」

イサが尋ねる。すると、プロメトスは剣を下ろし、話し始めた。

「俺は……」

――エールシスはようやく起き上がった。まだ殴られたところがズキズキする。プロメトスに殺されそうになったとき、ディアテュヌスが”そいつは美しいから殺すな、あとで私の妾にする”と言って助かったのだった。エールシスはゆっくり少しずつ塔を登った。上に登って行くとテュリウス将軍が死んでいた。胸には自分の剣が刺さっている。エールシスは将軍が自害したのだと思った。更に登って行くと今度はシュロテーの遺体を見つけた。同じ孤児院で育った幼なじみを失った悲しみからしばらくその場で泣いていた。涙を拭ってさらに上に行くと、なんとディアテュヌスが死んでいた。何か異変が起きている。エールシスはそう思った。そして、最上階についたとき、エールシスが目にしたのは、血まみれのネイシュの遺体、血まみれのプロメトスの遺体、そして血のついた剣を持って、悲しそうにロケットペンダントを見つめるイサの姿だった。ロケットペンダントには小さな女の子の写実画が入っており、蓋には”ラナ”と書かれていた。

「竜帝の野望……」

イサはそう呟いた。

エピローグ

ディアテュヌスの死によって、クーデターは失敗に終わった。帝国軍が暴徒化し、治安が悪化したが、イサの頼みでブトンフが臨時首相兼軍務大臣に就任し、素早く事態を収拾したため、大事には至らなかった。そうして帝都は元の状態に戻った。竜帝の帝位を除いては。

「もうあなたしかいないわ。あなたが即位するしかない」

エールシスはそう言った。イサは悩んだ。自分が即位して良いのだろうかと。父が言ったとおり、そんな柄ではないし、自分に務まるとは思えなかった。しかし、

(俺が死ねばネイシュかイサしか竜帝の血脈を受け継ぐものは居なくなる。この2人のうちどちらかを即位させなければならない)

この父の言葉を思い出し、やはり自分しかいない。自分がやらねばならないと決意した。そして、エールシスに即位する意向であることを伝えた。

クヌルド歴889年6月13日。イサ。第240代竜帝に即位。

イサはまずブトンフを正式な首相として任命する。ブトンフは高齢であることを理由に固辞したが、適任者が見つかるまででいいと言われ、承諾した。また、エールシスを女官長に抜擢し自らのそばに置く。政務として最初に行ったのはディルメース領を帝国の直轄領にすることであった。貴族たちからは当然反発が起きたが、抗議のために謁見にきた貴族をイサはその場で斬り殺し、彼が従えていた200人規模の軍勢を1人で壊滅させた。さらに、造反の情報を掴んだ時点で自分が直接殺しに行くと宣言した。これに貴族たちは震え上がり、誰も逆らうものはいなくなった。晴れてディルメースが直轄領になったことで、イサはディルメースを直接扱えるようになった。ディルメースに対してまず行ったのは減税である。放蕩なディアテュヌスが居なくなったことで財政にはかなりの余裕ができたので減税はしやすかった。さらにディアテュヌスの財産を財源として経済水準が低い町村に補助金を与えた。これで領民の生活水準ははるかに向上した。そしてイサはペルセシャスの遺骨をアルポカ村に移す意向を固める。宮中からは慎重論も出たがエールシスが押さえ込んだ。そして、晴れてペルセシャスの遺骨はアルポカ村に移ることになった。

――ペルセシャス、エレトリ、2つ並んだ墓。その墓前にて。

「ペルが竜帝陛下で、イサがその娘だったとは。もう喜んでいいやら驚いていいやら」

長老は泣きながら言う。

「どっちでもいいよ長老」

イサは笑いながら言う。

「良かった。イサが無事で。もう死んでしまったと思っておった」

「生活はどう?」

「減税と補助金のお陰でかなり潤いました。それに、あなたの出生地ということで観光客がかなり押し寄せてまして、村民の生活は豊かです。陛下」

「陛下って呼ぶのやめてよ。イサでいいよ長老」

――ネフヘスの町、剣術道場にて。

「へー、ボロトさんが師範になったんだぁ」

「ああ、その後どうだ? 剣の腕は上がったか?」

「へへー、これ見てよ」

イサはカミイズミに貰った目録を見せる。

「し、シンカゲ流ってジアスですら習得できなかった、あのシンカゲ流か!?」

「そうだよ。目録もらったの。手合わせしてみる?」

「お、俺は門下生に教えるので忙しいんだ。そんな暇はない」

イサは大笑いする。

――帝都から1ヶ月歩いたところにある山中。3年間厳しい修行をした場所にて。

「陛下からの手紙を届けたときには、もう亡くなっていたそうです」

側近は言う。

「そう……」

「小屋の中にこれが」

“イサへ。修行を怠らぬように”

――その後、宮中にて。

「巡幸はもういいですか?」

エールシスは言う。

「うーん、まあ、行きたいとこは全部行ったかな」

「では、これからは宮中にいてくださいね」

「あーあ、また退屈な毎日かー」

「陛下、1つだけお尋ねしたいことが」

「なに?」

「プロメトスとの戦いのとき、一体なにがあったんですか? あのペンダントに何か?」

イサは真剣な顔で、少しうつむいて言う。

「……それは言えない。プロメトスとの約束だから」

――謁見の間にて。

「誰かー、ブトンフ呼んできてー」

「は! 少々お待ちくださいませ!」

側近は急いで呼びに行く。

「お呼びでございましょうか陛下」

「あのさ、一番やりたい政策があるんだけど」

「陛下が一番やりたい政策ですか! ぜひ、やりましょう。どういう政策でしょうか?」

「あのね……竜帝が自由に旅に出てもいい政策!」

竜帝の野望・完

 キャラクター紹介

プロメトス

33歳。男性。ディアテュヌスの私軍の長である将軍。その出生は謎に包まれている。ほとんど感情を表に出さず常に無表情で何を考えているのかわからない。野盗に襲われた子供を助けるなど正義を重んじる面もある。ディアテュヌスに従っているのはある目的のためであり、忠誠を誓っているわけではない

カミイズミ

91歳。男性。ペルセシャスとジアスの剣の師匠。剣聖と呼ばれ世界一強い剣士と言われた。大雑把で適当で面倒くさがりな性格で、一見ただの老人にしか見えない。山奥でひっそりと隠遁生活を送っている。

あとがき

はい。竜帝の野望終わりました。

みなさん読んでくださってありがとうございました。

この作品は私が2つ目に書いた作品です。つまり処女作の次ですね。だから、書き方がまだ荒いね~。

プロットも今読んでみると「ちょっとどうかなぁ」と思うところはあるのですが、ご感想を聞く限り好評なようで、良かったです。

この作品はスカイリムからも影響を受けていて、スカイリムファンなら思わずニヤリとするネタが入ってたんですけど、わかったかな?w

さて、みなさんご存知のように、この作品には大きな謎が1つ残ってますね。そう、「プロメトスは何者か?」という謎です。

それは外伝で明らかになります。外伝はプロメトスのスピンオフ作品です。

明日上げる予定なのでお楽しみに。

というわけで、ひとまず、全部読んでくださってありがとうございました。

今後とも宜しくお願いします!

それでは、また明日!

See You!

コメント

  1. フェアリー より:

    面白かったです♪
    内容がよく考えられてて読みふけってました♪
    プロメトスがすごい気になるので期待ですw

    またほかの作品も楽しみにしてます♪

    • てっかまき より:

      読んでくれてありがと~^^
      実は「竜帝の野望2」も書いたのよねw いつ上げようか迷ってるんだけどw
      まあ、機を見てそのうちあげますわ。外伝上げた翌日から上げるかもしれんし、いつになるかはわかりません。

  2. ハルカ より:

    おおー、外伝もあるのね♪
    プロメトスすごく気になるぅ(‘-‘*)