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【小説】竜帝の野望2-ブア島の大戦-・第3話

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――895年5月30日夜。ブア島近海。

船は待機していた。大本営から攻撃開始の命令を待っているのである。もう、待機を始めてから6日目になる。船は全部で5隻、1隻に800人ずつ乗っている。船を節約するために、通常は2,3人でゆっくりくつろげる空間に8人で寝るのだからお世辞にも心地よい船旅ではない。竜帝国は大陸国であるため(そもそもティシュラルトには大陸国以外無いが)、船に乗るのが初めてという隊員も珍しくなく、船酔いが深刻な問題として上がっていた。幸いにも304分隊は全員が船酔いにはならなかったが、他の分隊の隊員たちがそこらじゅうで嘔吐するのだから、その悪臭たるや凄まじく、気分のいいものではなかった。

甲板で304分隊の隊員たちが夜風を浴びながら話している。

「みんな辛そうですね。ゲーゲー吐いて」

ダムが心配そうに他の分隊の隊員を見ている。

「こっちはいい迷惑だ。そこら中ゲロだらけで臭えのなんの」

ベルルは鼻をつまみながら手で臭いを払う動作をする。

「薬草とか持って来てないのかな。値段が高いから買えなかったのかな」

ラスがりんごをかじりながら言う。先遣旅団もこのことを予期して薬草は持って来ていたが、あまりに酔う人数が多すぎて足りなかったのだ。

「こんな状態で戦えるのかな。早く上陸してしまったほうが良いのでは」

アルは剣を磨きながら上の方針に疑問を呈する。だが、まさに3日前、大本営ではアルの言ったことが議論されていた。

――895年5月27日。帝都。大本営。

大本営と言っても竜帝と海軍の長(軍令部長)と陸軍の長(参謀総長)、首相、そして軍務大臣の5人しかいない。この5人が宮殿で話し合うだけである。

「船酔いは大丈夫なの?」

イサは参謀総長マイドンに尋ねる。

「いえ、かなり深刻な状態です。急速に兵の体力と士気が低下していっています」

マイドンの表情は厳しい。

「海軍としても早く上陸していただけるとありがたいです。本隊の輸送前に一旦船の整備をしておきたいので」

軍令部長パルミラが言う。

「陸海の利害は一致している……」

軍務大臣ガゼットがは腕組みをして言った。

「だが、ニリラニス平野が問題か……」

首相マラカウは俯いている。ニリラニス平野とは上陸予定のレナシリ海岸のすぐとなりにある平野である。斥候に小舟で上陸させて偵察させたところこの平野に2400の敵勢が展開していることがわかったのだ。下船しているところをこの敵勢に急襲されると一網打尽であるので上陸できないのである。

「まさかすぐ隣にいるとは」

ガゼットはため息をついた。イサは目を瞑って考えている。

「上陸地点を変えては?」

パルミラが提案する。

「それはダメだ。作戦計画が全部練り直しになる。レナシリ以外に上陸はできない」

マイドンは首を横に振りながら言う。

「夜襲はできないの?」

イサが誰ともなく尋ねる。その場に沈黙が流れる。

「理論的には可能ですが、うちの軍は夜に強襲揚陸した経験が無いのです。出来るかどうか」

ガゼットは不安そうに言った。

「訓練はしてるんでしょ?」

イサがガゼットに尋ねる。

「いや、してないです」

「え!? してないの? なんで?」

イサは目を丸くして驚いている。

「そもそも陸海共同訓練の数自体が少なく、強襲揚陸の訓練自体が数回しか行われていません」

イサは頭を抱えた。

「もういい、夜襲をかけろ! 失敗したらその時だ!」

イサはずかずかと歩いて勢い良く扉を閉めて出て行った。

大本営会議直後、宮殿内廊下。

「陛下!」

レリィがイサを呼び止める。

「なに? またお小言?」

「お小言も何もないですよ。大本営にまで口出してるんですか?」

「だって口出すの私しかいないじゃない」

「あの方に後で怒られるの私なんですから」

「知らないよ。そんなの」

イサはプイッと行ってしまった。レリィはうなだれた。

その後、すぐ船に伝書鳩が飛ばされ、先遣旅団に攻撃命令が下された。

――再び895年5月30日夜。ブア島近海。

甲板でくつろいでいた隊員たちの前にリュカが現れる。

「あの、隊長がすぐ来いって言ってますけど」

「あー? またあのゲロ臭い船室に入るのー?」

ベルルはあからさまに嫌そうな顔をしている。

「ダメだよベルル。上官の命令は聞かなきゃ」

シュアルが爽やかな笑顔でベルルを諌める。寛いでいた5人はすぐに割り当てられた船室に入る。

「お前ら、遅いぞ。攻撃命令が出た。今すぐ出撃だ」

「えっ、こんな夜遅くにですか?」

「夜遅くだからやるんだよリュカ」

シュアルが教えてやるが、リュカは理解していない。8人は身支度を整えると下船命令を待った。

「お前ら言っとくが、大きな物音だけは立てるなよ。すぐ隣で敵が寝てるんだからな」

リュカのゴクッという生唾を飲む音が聞こえた。30分ほど待っていると304分隊に下船命令が出た。

他の分隊と一緒に1列に並んで極力物音を立てないように船を降りていく。そのとき、

「ヘクシュ!!」

リュカが豪快にくしゃみをした。その辺いる隊員全員がビクッとする。

「ごめんなさい、私花粉症で……」

「わかったから黙れ」

レイガが小声で叱りつつリュカの頭を押さえる。

下船は意外にもあっさり成功した。敵軍もまさか外交交渉してる途中で帝国軍が来るとは思ってなかったのだろう。5000人の先遣旅団は2時間かかって下船した。

旅団は陣形を整えたあと、いよいよニリラニス平野の敵軍2400人と戦うことになる。

ニリラニス平野では雄叫びや悲鳴が飛び交っていた。ゼレルシュ王国軍2400人と帝国軍5000人が戦っているのである。

「前方にいる敵中隊へ突撃! 前へ!」

中隊長の号令が響く。前方にいる敵兵200名ほどの集団に突撃するのである。

「アーシェとアルは前に出て殺しまくれ。他は後方で戦え。リュカは一番後ろだ」

レイガの指示を聞き、アーシェとアルが飛び出した。

敵兵が垂直に剣を振り下ろしアーシェの脳天を狙う。アーシェはそれを紙一重で右にかわして顔に掌底を食らわせ、そのまま顔を掴んで地面に後頭部を打ち付ける。受け身もとらずに後頭部を激しく打った敵兵は絶命した。すると今度は別の敵兵が後ろから左の袈裟斬りで斬りかかってきた。アーシェは背中から敵兵の懐に入り込んでかわし、背負投げを食らわせる。倒れた敵兵にはまだ息があるので顔面に下段突きを打って止めをさす。

アルの武器は身長ほどもある長大な両手剣である。アルはトンボと呼ばれる独特な構えをして敵兵に突撃していく。

「ちえええええええええ!!」

ジゲン流特有の奇声を発しながら渾身の力で両手剣を振り下ろす。とっさに敵兵は小盾でで受けようとするが、盾ごと真っ二つに斬り裂かれた。すると、別の敵兵が後ろからアルに斬りかかった、その一瞬の殺気を感じ取ったアルは敵兵が振り下ろすより速く両手剣を横薙ぎに払った。

「ちえええすとおおおおお!!」

敵兵は真っ二つに斬り裂かれた。他のメンバーもそれなりに戦果を上げているが、やはりアーシェとアルが飛び抜けていた。

一番後方で構えていたリュカはうろたえていた。あまり敵兵は来ないとは言え全く来ないわけではない。小ぶりの剣を持って震えていた。そのとき、横から敵兵が垂直に剣を振り下ろしてきた。あわてて、横に払うリュカ。敵兵は横薙ぎの攻撃に切り替えた。リュカは剣で受け止める。そのまま、敵兵は力ずくで押してリュカの体勢を崩した後、今度は銅を目掛けて突きを繰り出した。

(やばい!死ぬ!)

リュカがそう思って目を瞑った時、敵兵の首が飛んだ。目を開けたとき、敵兵の死体と片手用の戦斧に血をつけたレイガが立っていた。ずっと後方でリュカの後ろにいたのだ。レイガは何も言わずに他の敵と戦っている。どうやらレイガは自らリュカのサポートに回っているようだ。

「いちおう傭兵ではあるみたいだな」

レイガは戦斧で敵兵の頭をつぶしながら言う。

「どういう意味ですか?」

「死ぬときに悲鳴を上げなかっただろ」

リュカは初めて褒められて少し嬉しかった。一方、アルとアーシェの快進撃は止まらない。

アーシェは敵兵の逆袈裟をかわして一瞬で背後に回りこみ敵兵の頭を持つと首をねじり、絶命させる。すると背後から別の敵兵が突きを繰り出してくる。アーシェは半身になってそれを避けると剣の柄を持ってひょいとぶん投げる。相手が地面に叩きつけられて剣を手放すとアーシェはそれを逆手に捕まえて相手に突き刺す。

基本的にアーシェの戦闘スタイルは投げで相手を地面に叩きつけ、突きあるいは奪った剣で止めをさすというスタイルであった。

「ちええええええええええ!!」

敵兵は剣で受け止めようとしたが剣ごと真っ二つにされた。

アルの戦闘スタイルは長大な両手剣で奇声を上げながら渾身の力を込めて斬りつけ、一撃必殺で決めるというものである。典型的なジゲン流の戦い方であった。

シュアルはレイピアで優雅に戦っている。ラスは敵の攻撃を全部かわしながら死体から戦利品を漁り始めている。ダムは端から見るとひょろひょろして今にも殺されそうに見えるが殺されてないところを見るとそれなりに腕はあるのであろう。ベルルは必要以上に敵を煽り、徴発しながら戦っている。一方リュカは敵兵から猛烈な攻撃を受け防戦一方だった。敵が次々と斬撃を繰り出してくる。リュカはそれを払ったり受けたりするのに必死である。敵が大きく振りかぶってリュカの剣を大きく弾いた。そして間髪入れずに袈裟斬りを繰り出してくる。

(いやああああ!!)

心の中で悲鳴を上げながら反射的に繰り出した蹴りがたまたま敵兵の股間を直撃した。体を曲げて悶絶する敵兵。リュカはその隙に敵兵の首筋を斬った。頸動脈を切られた敵兵は血を噴き出して絶命した。

「へっ、初戦果か」

レイガはそれを横目で見てニヤリと笑っている。

(は、初めて人殺した……)

リュカは血のついた自分の剣を見て自分の心臓がバクバクするのを感じていた。そういうしているうちに敵中隊の動きが変わり始めた。撤退を始めている。どうやら今回の戦闘は勝利のようだ。

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