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【小説】竜帝の野望2-ブア島の大戦-・最終話

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――正午ごろ。一行はニリラニス平野へ向かって歩いていた。途中にある森を歩いていると。

「おい! お前ら、ちょっと伏せろ!」

レイガたちは身を低くして屈んだ。森の向こうから一筋の黒い煙が上がっている。

「なんでしょう。敵兵でしょうか?」

「たぶんな。味方がこんなとこにいるはずがない」

レイガが戦斧を手に取る。

「全員、戦闘用意」

全員がそれぞれ武器を手に取った。

「身を屈めながら行け」

全員レイガの言うとおり、見つからないように身をかがめながら行く。煙の出処が見えるようになってきたとき、

「茂みに隠れろ」

全員がそばにあった茂みのなかへ隠れる。慎重に木の陰から様子を伺うと、10人ほどの敵兵が野営をしていた。

「数は少ない。いつも通りやれば勝てる。……いいか、3つ数えたら突撃だ。……1、2、3、突撃!」

304分隊は雄叫びを上げて敵兵を急襲した。座って食事を取っていた3人をレイガ、シュアル、アルが一撃で殺した。アーシェはテントの中に入り、寝ていた敵兵の1人を下段突きで殺した。他の敵兵が慌てて起きだしてきたのでテントの外におびき出す。出てきた6人は武器を取る暇もなく待ち構えていたレイガたちに殺された。

「片付きましたね」

シュアルがレイガに言う。

「ああ」

「どうします? ここを調べますか?」

「……そうしよう」

304分隊は野営地を調べ始めた。

「おい、ラス。てめえしれっと戦利品あさってんじゃねえよ!」

ベルルがラスの頭を小突く。

「いたっ! ……あれ? なんだこれ」

ラスはテントの中にあった革袋の中に1枚の紙切れを見つけた。

「こ、これは! 隊長! 隊長!」

「なんだ、どうした?」

ラスから渡された紙切れを見たレイガが目を見開く。

――

伝令書

ロウサンリの森にて敵兵を殲滅した際、敵の持ち物からニリラニス平野に敵軍が大規模な拠点を築きつつありとの資料を押収した。124分隊はこの事実を師団長に報告するためノイリン台地に向かう。貴分隊も合流されたし。

124分隊隊長 シャルペナ

――

「隊長! シャルペナの居場所がわかりましたよ!」

喜ぶアルに対し、レイガは黙って考えている。

「隊長、当然行くだろうな? リュカの仇だぞ?」

ベルルはレイガに詰め寄る。しかし、レイガは伝令書をクシャッと丸めると焚き火の中に投げ入れた。

「おい! なにすんだてめえ!」

ベルルはレイガに殴りかかるが、アーシェに足をかけられて転ばされ、腕を極められて押さえこまれた。

「てめえ! このまま旅団に戻る気だろ! ジレロと戦うよりそのほうが安全で金も貰えるって算段だろ!」

ベルルはもがきながらレイガに罵詈雑言を浴びせた。304分隊はリュカの遺体があったアートリア砦を落としたので旅団に帰れば恩賞が貰えるのである。

「隊長、ベルルの言うとおりです」

シュアルが珍しく語気を荒らげた。

「リュカの仇。しかも、伝令が敵師団に渡れば旅団が危険にさらされる。それでも戻るのですか?」

全員がそれぞれレイガに詰め寄った。アーシェはベルルを押さえながらその様子をじっと見つめている。

「俺らは傭兵だ。金をもらうだけやってりゃいい。それ以上の働きをする必要は無い」

レイガがそう言うと隊員たちは背を向けてレイガから離れていく。

「隊長、我々はもう付いていけません」

アルはレイガに軽蔑の眼差しを向けながら吐き捨てるように言った。

「姉さん、行きましょう。ベルルを話してください」

ラスがアーシェの手首を握った瞬間――。ラスの体が宙を舞い、地面に叩きつけられた。

「ぐはっ!」

「姉さん! なにするんですか!」

アーシェはベルルから手を離すと両手をポキポキと鳴らした。

「あんたらを逃すと私とレイガは逃亡幇助で軍法会議にかけられる。分隊を離脱するならこの場で全員殺す」

ベルルは起き上がって剣を抜き、アーシェに向かって構えた。他の隊員たちもそれぞれ武器を取る。

「ま、待て! 戦うな!」

レイガがとっさに叫んだ。隊員たちは意味がわからず互いに顔を見合わせている。アーシェはフーとため息をつくと、レイガに向かって話し始めた。

「いい? レイガ。あなたはこの子たちの保護者じゃないの。犠牲を恐れていたら何も出来ない。それは傭兵のすることじゃない」

レイガは目をつぶって唇を噛んでいる。

「隊長……」

「我々をジレロと戦わせないために?」

隊員たちはレイガの意図を察したようだった。

「シャルペナの残虐性とジレロの力。そしてリュカの惨たらしい死に方。隊員をあんな目に合わせたくない気持ちはわかるけど、あなたには私情を押し殺してでもやるべきことがあるはずでしょ?」

それを聞いたレイガはそばにあった木におもいっきり自分の額を打ち付けた。ゴンという音がして、レイガの額から血が流れでる。

「すまん……。俺がどうかしてた」

レイガは顔の血を拭うと歩き出した。

「行くぞ。シャルペナを追う」

304分隊はノイリン台地に向けて歩き出した。

――伝令書を手に入れた日の夜。野営地にて。

「もう勘弁してくれよベルル」

アルはうんざりした様子で棒切れで肩を叩きながら言った。

「いいや、まだまだ。お前に一本入れるまでは止めねえから」

ベルルはそう言うと棒切れを振り上げ一気にアルの脳天めがけて振り下ろした。それを棒切れで受け止めるアル。そして一気にベルルの棒切れを弾き飛ばすとベルルの脳天に一本入れた。

「いってぇ」

うずくまって頭を押さえるベルル。しばらくそうしていたが、やがて再び棒切れを手に取るとアルに向かって構えた。

「もう一丁!」

「ベルル、寝なきゃ明日も行軍なんだが」

夕方から未明までずっとこうやって剣の稽古をしているのだ。他の隊員たちは寝静まっている。

「あんたらいい加減寝なよ。明日持たないよ」

「姉さん」

アーシェが笑いながら近づいてくる。

「女の出る幕じゃねえ。すっこんでろ」

アーシェはやれやれとため息をついた。

「私が相手するよ。かかってきなベルル」

ベルルはアーシェとの間合いを詰めると思いっきり上段に棒切れを振り上げた。その瞬間、アーシェがベルルの額を指一本でそっと押さえる。

「うっ……、くっ……」

ベルルは剣を振り下ろそうとするが重心のバランスを崩されていて動けない。次の瞬間、アーシェは手刀でペシッとベルルの顎を打ち据えた。操り人形の糸が切れたようにカクンと昏倒するベルル。

「アル、ベルルをテントに連れてってさっさと寝な」

「すみません姉さん」

アルはベルルをズリズリと引きずってテントの中に連れて行った。

――

「今日はすまなかった。どうかしてた」

「まあ、気持ちはわかるわよ」

二人は野営地から離れた小さな丘の上で夜風に当たりながら話していた。

「……あんたのお父さんもたぶんリュカのお父さんと似たような理由で死んだんでしょ」

レイガはしばらく黙っていた。

「なんでわかる?」

「なんとなくね」

レイガは草の上にゴロンと仰向けに寝転がった。

「俺の親父は鍛冶屋だった」

「へぇ」

「小さな村のな。俺が12歳のときまでは細々と営んでた。でも12歳のときにあいつが来たんだ」

「あいつ?」

「最初は客として来た。そいつは親父の作った剣を見てこう言ったんだ。これは間違いなく売れるってな」

「……それで?」

「やつは共同経営を持ちかけてきた。大きな町に大きな店を構えて大々的に売れば……、ってな」

アーシェはそれだけ聞いて事の顛末をだいたい察したようで何も言わなかった。

「親父とそいつは協力して町の金持ちから資金を募り、いよいよ店を構えようというころ」

レイガは一呼吸おいてから言う。

「……あいつは金を持ち逃げした。後に残ったのは金貨2000枚の借金だ」

「で、お父さんは亡くなったのね」

「ああ。自殺したよ。……俺は親父の借金を返すために働き口を探した。12歳でも多く稼げるって言ったら傭兵しかなかった」

「それが傭兵になった理由?」

「そうだよ。結局、借金を返し終わったのは20歳のときだ」

「だから平和が嫌いなのね」

「ああ。もし平和だったら俺は借金を返せなかったからな」

それを聞いてアーシェは吹き出した。

「私の父さんも裏切りで殺されたのよ。奇遇ね」

「誰から裏切られた?」

「あー、えーっと……、部下かな」

アーシェは頭をかきながらそっぽを向いて言う。

「部下? 兵士か何かだったのか?」

「え? あー……、うん。そんな感じ」

レイガは怪訝な顔つきでアーシェを見ている。

「お前ってさ。嘘下手くそだよな」

「え? え? なによ嘘って」

「裏切りは本当だけど、部下ってのは嘘だろ」

「なんでそんなことわかるのよ」

「態度にすぐ出るんだよ」

レイガは笑っている。アーシェはそれを見ながらむくれた。

「なあ」

「ん?」

「……人間って何で裏切るんだろうな」

「……人間なんてそんなものじゃない?」

アーシャは立ち上がると野営地へと帰っていった。レイガはずっと星空を見つめていた。

――アートリア砦を出て3日後正午ごろ。一行はついにノイリン台地に差し掛かった。

「お前ら伏せろ!」

レイガたちは身を低くして屈んだ。台地の上から一筋の黒い煙が上がっている。

「全員、戦闘用意」

全員がそれぞれ武器を手に取った。

「身を屈めながら行け」

全員レイガの言うとおり、見つからないように身をかがめながら行く。煙の出処が見えるようになってきたとき、

「伏せろ」

全員がその場に伏せる。見たところ30人規模である。そして、火の前で酒を飲んでいるのは――

「シャルペナ……」

シャルペナであった。見たところジレロは居ない。

「隊長。これは絶好の機会ですよ」

アルがレイガに言う。

「シャルペナは俺とアーシェでやる。お前らは……」

「待ってくれ隊長」

ベルルがレイガの言葉を遮った。

「シャルペナは俺にサシでやらせてくれ」

「お前のかなう相手じゃない」

「お願いだ! 俺は死んでもいいから!」

レイガは黙って考える。

「わかった。シャルペナはお前に任せる。……だが、死ぬのは許さん。必ず勝て。いいな」

ベルルは黙って頷く。

「他の全員はベルルの援護だ。他の敵兵をベルルに近づけさせるな」

全員が頷く。

「全員、武器を構えろ。俺が3つ数えたら突撃だ」

全員、武器を構える。

「いくぞ。……1、2、3、突撃!!」

全員が雄叫びを上げて30人に突撃する。いきなり敵襲を受けた敵兵は混乱した。

「うろたえるな! 敵兵の数は少ない! 落ち着いて1人に複数でかかれ!」

シャルペナが指示を出す。そこにベルルが横から袈裟斬りに斬りかかった。難なくかわすシャルペナ。

「おや。今日はあの木偶の坊じゃなく、お前さんが相手か。坊や」

ニヤニヤ笑うシャルペナ。

「てめえだけは必ず俺が殺す! リュカの仇だ!」

「リュカ? ああ、あの女か。ひどく絞まりの悪い女だったな。仕方ないから色んなもん突っ込んで遊んでやったよ」

シャルペナはゲラゲラ笑っている。激昂して右手で突きを繰り出すベルル。シャルペナはそれを左に避けベルルの左手を斬り落とした。

「ベルル! もうやめろ! 下がれ!」

レイガが命令するもベルルは下がらない。

「うああああああああ!!」

雄叫びを上げながらシャルペナに横薙ぎの攻撃を繰り出すベルル。シャルペナはそれをしゃがんでかわし、ベルルの両足をいっぺんに切断した。両足が無くなって倒れこむベルル。

「どうした? 仇を討ってみろ。ん?」

シャルペナはニヤニヤしながらベルルの腹を突く。意図的に急所を避けて。

「ちええええええええ!!」

アルがシャルペナに斬りかかる。シャルペナは後ろに飛び退いてそれをかわす。そしてアルの後ろからやってきたシュアルがレイピアでベルルの心臓を突き刺した。絶命するベルル。これ以上、ベルルを苦しませたくないから絶命させたのである。シャルペナ以外の敵兵は概ね片付きつつあった。アーシェが13人殺し、レイガが7人殺し、残りを他のメンバーで片付けた。残りはシャルペナ1人である。

「全員でかかれば必ずいけますよ隊長!」

アルがレイガに言う。シャルペナはニヤニヤ笑っているだけで何も言わない。

「……周りを囲んで全員で斬れ」

レイガが命令する。その時――

――嫌な音が聞こえる。甲冑を着た人間の足音である。その音を聞き、全員が絶望する。自分の死を覚悟する。そして、そちらを振り向き、戦慄する。嫌な足音を立ててこちらに向かってきているのはジレロであった。ジレロはこちらを見て状況を把握すると剣を抜きながら物凄い速さで走ってくる。

「お前ら散れ! 一箇所に固まるな!」

ジレロが剣を上段に構え、ものすごい勢いで振り下ろす。全員が飛び退いて間一髪でかわした。ジレロの大剣が地面に叩きつけられる。凄まじい轟音と土煙が上がる。ジレロは返す刀で剣を大きく振り回し、横薙ぎの攻撃を繰り出した。真っ二つになるダム。シャルペナは遠くからそれを見ながらニヤニヤ笑っている。

「隊長! 逃げましょう! このままではみんな死ぬ!」

シュアルがレイガに叫ぶ。

「こいつは足も速え! 背を向けたらその瞬間に斬られる! この場でやるしかねえ!」

レイガが必死の形相で叫ぶ。

「ちえええええええ!!」

アルが正面からジレロに斬りかかった。ジレロも上段に振り上げ剣を振り下ろす。剣と剣がぶつかり合った瞬間、アルの両手剣が切断され、アルは斬られた。いや、肉片にされたというほうが正しい表現かもしれない。ジレロは次にレイガに目を付けた。剣を振り上げながら走り寄ると、レイガへ勢い良く剣を振り下ろす。その瞬間、横からアーシェがジレロの頭に両足で飛び蹴りを食らわす。吹き飛ぶジレロ。

そばに居たシュアルが倒れこんだジレロの甲冑の隙間を狙ってレイピアで突く。しかし、シュアルのレイピアよりジレロの大剣のほうが早かった。真っ二つになるシュアル。起き上がったジレロはまた素早く走り寄り、大きく横薙ぎの攻撃を繰り出し、ラスをふたつに斬り裂いた。とうとう残りはレイガとアーシェ2人だけになった。

「アーシェ、俺が時間稼いでる間に逃げろ!」

「馬鹿じゃないの」

アーシェはレイガの言うことを聞かない。もうダメかと思ったが、ジレロは動きが止まっている。何で向かってこないんだと思ったが、ジレロの視線を見るとどうやら自分たちの後ろの何かを見ている。レイガとアーシェが後ろを振り返ると30頭ほどの馬がこちらに駆けて来る。ある程度まで近くに来ると、どうやら帝国軍の騎兵らしいということがわかった。

「援軍……?」

レイガはよくわからずに呟いた。

「ふん、あの程度の軍勢なんぞ敵じゃねえな」

シャルペナはニヤニヤ笑っている。馬はどんどん近づいてきて、レイガたちの前で止まった。乗っていた30人が馬から降り、一斉にアーシェに向かって跪く。そのうち一番上級そうな1人がアーシェに歩み寄り、言う。

「私は先遣旅団長のジョーアと申します」

「……旅団長が私に何の用?」

アーシェはジレロを見据えたまま言う。

「お迎えに上がりました、陛下」

一瞬、その場を沈黙が支配した。

「へ、陛下?」

きょとんとするレイガ。

「迎えに来てくれと言った覚えはないんだけど?」

ジョーアを見下して言うアーシェ。

「それが、女官長エールシス様から伝書鳩が届きまして、レリィ様とフェリラ様では相性が悪すぎるから一度戻ってきて人事を見なおしてくれと」

「……なんでこの場所がわかったの?」

アーシェはかなり不機嫌になっている。

「陛下ならたぶん先遣部隊の傭兵の中にいるだろうとエールシス様が」

「ちっ……さすがにエールシスからは逃げられないか」

アーシェは険しい顔をした。

――同刻。帝都。宮殿内。

レリィと、それまで”イサ”と呼ばれていた女がケンカをしている。

「フェリラ!! こんな好き勝手して、あんた自分が何やってるかわかってんの!?」

「だってイサ様から全部自由にやっていいって言われたんだもん!!」

「だいたい、何であんたのこと陛下なんて呼ばないといけないのよ!!」

「影武者なんだからしかたないでしょ!!」

「子供の頃からあんたは私に尻拭いばかりさせて!!」

「なんで子供のころの話が出てくるんだよ!!」

――再び、ノイリン台地。

「あの……陛下ってどういうこと?」

レイガがあっけに取られて誰ともなく尋ねる。

「無礼ものが! この御方こそ第240代竜帝であらせられるイサ・アレドラード様だ!!」

脇にいた兵士がレイガを怒鳴りつける。全員の視線がアーシェ、いや、イサに集中する。

「ひゃははは! これはいい! 竜帝の首を持って帰れば莫大な恩賞間違いなしだ! ……おい、ジレロ、あの女を一番最初にやれ」

シャルペナがジレロに命令する。剣を構えるジレロ。

「……ジョーア。戻ってもいいが、条件がある」

「条件とは?」

「……剣を貸せ」

「なんですと?」

「なんども言わせるな! 剣を貸せ!」

「は、はい!」

ジョーアは腰に携えていた剣をイサに差し出した。剣を受け取り、柄に手をかけるイサ。その瞬間、ジレロが凄まじい勢いで走り寄ってきた。イサの首を狙っている。横薙ぎの攻撃である。ジレロの剣が風切音を立ててイサの首に近づいていく。だがイサは柄に手をかけたまま動かない。ジレロが間合いを完全に詰め終わり、剣を振り抜こうと力を込める。だが、まだイサは動かない。ついに、剣の刃がイサの首に触るか触らないかというところまで来た。誰もがイサは死ぬと思った。だが、その瞬間――。横一閃。縦一閃。ジレロの体が一瞬で十字に切断された。誰もが目を疑った。だが、目の前の光景は、歴然であった。血の付いた抜き身を持ち、冷たい目で返り血を浴びるイサ。そして、血を噴いて崩れ落ちるジレロ、いや、かつてジレロであった4つの肉片。

「ひ……ひいいいい!」

腰を抜かして怯えるシャルペナ。

「レイガ」

誰もが呆気にとられる中、イサがレイガに呼びかける。

「は、はい!」

本来なら権力に媚びるような男では無いのだが、剣技の凄まじさに圧倒され、つい”はい”などと返事をしてしまうレイガ。

「竜帝としてお前に命ずる」

シャルペナを剣で指し示すイサ。

「このクズぶち殺せ」

それだけ言うとイサは剣の血を払って鞘に納め、ジョーアにそれを返した。戦斧を構えるレイガ。しかし、シャルペナは腰が砕けてしまって立てない。

「レイガを倒せば逃がしてやるぞシャルペナ」

不敵な笑いを浮かべながら言うイサ。

「立ち直るまで待ってやる。早くしろ」

真剣な表情でシャルペナに言うレイガ。シャルペナはしばらく激しく息をしていたが、やがて呼吸を整えると、ゆっくりと立ち上がり、剣を抜いた。

「いくぞ」

そう言った瞬間、シャルペナに走り寄って間合いを詰めるレイガ。勢い良く戦斧を振り下ろす。シャルペナはそれを左にかわすとレイガに向かって左側から切り上げる。レイガはかがんでそれをかわす。そしてシャルペナの足を切断しようと右側から勢い良く横薙ぎの攻撃を繰り出す。シャルペナは後ろに飛び退いてそれをかわす。レイガは立ち上がり素早く間合いを詰める。その瞬間、シャルペナは左手でレイガの顔に何かをかけた。――砂である。さっき腰が抜けたときに掴んでいたのだ。目が潰されて何も見えないレイガ。レイガに向かって右から首を跳ねようと剣を振るシャルペナ。レイガはその剣を左腕で受け止めながら戦斧を振り下ろす。そして、レイガの左腕が飛ぶと同時に鈍い音と共にシャルペナの頭が2つに割れた。倒れこむシャルペナの死体。レイガはシャルペナを倒した後もずっと鬼のような形相でシャルペナの死体を睨んでいた。左腕から血を滴らせながら――

――その5日後、895年6月21日に45000人の本隊が到着し、本格的な侵攻を開始。4ヶ月間の戦いの後、ブア島は帝国の領土となった。

エピローグ

「……みんなが死んだのは私の責任だから」

イサが蒸留酒を飲みながら言う。

「何がだ?」

レイガがエールを飲みながら言う。

「分隊のみんなが死んだこと」

その言葉にレイガは首を傾げながらイサの方を見た。

「何が言いたい?」

「私が剣を捨てなかったらみんな死ななかったでしょ」

「はっ! バカなことを……おい、おやじ! 火貸してくれ!」

レイガは鼻で笑いながら、マスターが持って来た小さい火鉢でタバコに火を付けた。

「お前にも事情ってもんがあるんだろ。剣を捨てた理由がよ。そんなもんでお前を責めるやつは誰もいねえよ」

イサはすました顔で蒸留酒をちびちび飲んでいる。

「ふん……人に気使うなら自分の心配しろ」

そんなイサを横目で見ながらレイガは言った。

「自分の心配って何のこと?」

「なんか側近から戻れって言われたんだろ? 知らねえけど」

イサはソーセージをパクパク食べている。

「いいよ放っといても。ただ側近同士がケンカしたってだけだから」

それを聞いてレイガは煙草の煙を上にプカーと吐き出した。

「物好きな王さんだなお前も。宮殿で贅沢三昧できるのにわざわざ血みどろの戦場に来るなんてよ」

「もともと宮殿って柄じゃないから」

それを聞くとレイガは下を向いて笑った。

「まあ、戦場で人を殴り倒してるほうが似合うっちゃ似合うな」

イサは無視して鶏肉の香草焼きを食べている。

「……結局さぁ」

レイガはニヤニヤしてイサの顔を見ながら言う。

「なに?」

「あんた何歳なわけ?」

それを聞いたイサはムッとして言う。

「別にあんたに関係ないでしょ」

「……んー、33歳ぐらい?」

「お前、血が見たいのかよ」

レイガは肩を揺らして笑っている。しばらく沈黙した後、イサが口を開く。

「あんた、これからどうすんの?」

またしばらく沈黙した後、レイガが口を開く。

「どっかで戦争が起こればそこに行くまでさ」

「その腕で戦えんの?」

イサは包帯が巻かれたレイガの左腕を横目で見ながら言う。レイガは自分の左腕を見つめている。

「……無くなっちまったもんは仕方ねえさ」

それを聞いたイサはチーズを食べながら言う。

「もう傭兵やめたら? 就職口ぐらい好きなとこ世話するよ?」

レイガはしばらく黙っていたが、やがてため息をついて口を開いた。

「……俺は戦うこと以外できねえ」

それを聞いたイサはやるせない顔をして言う。

「ふっ……しょうもない男」

イサは鼻で笑った。

「なんだと?」

「これ、あげる」

イサは懐から手のひら大のメダルを取り出した。

「なんだこりゃ?」

「竜帝のメダル。帝都でこれを見せればいつでも宮殿に入れる」

「へっ……」

レイガは唾を吐くかのように鼻で笑った。

「なに?」

「どうせ宮殿行ってもお前いねえんだろ?」

それを聞いたイサは蒸留酒を一気に飲み干した。

「……今後、正式な行幸以外ではずっと宮殿にいようと思ってる」

「どうした急に」

イサは空になった木製のタンブラーを見つめながら決意に満ちた目をして言った。

「……リュカの無念を晴らす」

レイガは二本目のタバコに火をつけた。

「そうか。まあ……、お前ならそれが出来るかもな」

そしてレイガもエールを飲み干す。

「世界に平和をもたらすため」

「世界に平和をもたらすため……か」

レイガがフーっと吐いたタバコの煙を見ながら二人はリュカの顔を思い出した。

「世界が平和になったらあんた仕事無くなっちゃうね」

レイガは灰皿にギュッとタバコを押し付ける。

「そんときゃそんときさ」

――ブア島の戦争終結から一年後、イサはゼレルシュ王国、セクメオン国と”捕虜に対する暴行、陵辱、拷問に対して厳罰を課す国際条約”を締結させ、捕虜の待遇の向上に貢献した。この条約はイサ条約と呼ばれ、後世まで残ることとなる。

――イサの元に紋章が届き、拷問で死んだ捕虜が持っていたと報告されたのは条約締結の二週間前であった。

竜帝の野望2-ブア島の大戦-・完

キャスト

レイガ
23歳。男性。ブア島奪取のため帝国が雇った傭兵の1人。ドラグランカ大陸出身。傭兵歴は11年になるベテラン。冷めた性格であり、戦争は金儲けの場所。金が貰えれば何でもいいと言い切る。普段は粗暴で荒っぽい性格であるが隊長として戦ってるときは幾分冷静で常識的な性格になる。家族はなし。武器は片手斧。好物は酒。

アーシェ
年齢不詳。女性。プア島奪取のため帝国が雇った傭兵の1人。出身地不明。つかみ所のない性格で、不思議な雰囲気の女性。素手で戦うがその戦闘能力は並みの兵士2~3人分はある。鎧を身につけておらず男物の服を着ているだけ。年齢を聞かれるのを異常に嫌がる。武器は無し。好物は鶏もも。

リュカ
16歳。女性。ブア島奪取のため帝国が雇った傭兵の1人。ディルメース大陸出身。傭兵歴1年。正義感が強く、真面目な性格。戦争を終結させ、平和にするために戦うという信念を持っている。太ももに大きな傷跡がある。武器は小ぶりの剣。好物はオムレツ。ブア島の戦争によって戦死。

アル
21歳。男性。傭兵歴7年。304分隊の隊員。腕は立ちそうだが頭は固そうな武人タイプ。ジゲン流の目録を持っている。304分隊の中ではレイガ、アーシェに次ぐ実力を持っており、主力の1人である。武器は長大な両手剣。好物はおにぎり。ブア島の戦争によって戦死。

シュアル
19歳。男性。傭兵歴6年。304分隊の隊員。戦場に似つかわしくない美少年。気が利き、常識的な性格であるが、さわやかな笑顔で優雅に敵兵を突き刺す様は不気味である。武器はレイピア。好物はガーリックトースト。ブア島の戦争によって戦死。

ラス
20歳。男性。傭兵歴6年。304分隊の隊員。金のこと以外に興味がなくいつも大量の戦利品を持って帰る。どうやって持って帰っているのか、どこに収納しているのか不明。武器は片手斧。基本的になんでも食べる。ブア島の戦争によって戦死。

ダム
18歳。男性。傭兵歴5年。304分隊の隊員。普通で地味な目立たなそうな男。しかし、常識的な性格であり304分隊の中では常識的すぎて目立っている。武器は剣。好物はパスタ。ブア島の戦争によって戦死。

ベルル
17歳。男性。傭兵歴3年。304分隊の隊員。生意気そうな男。大きな口を叩くが腕は普通である。実はツンデレであったりする。武器は剣。好物はクジラ肉煮込み。ブア島の戦争によって戦死。

シャルペナ
24歳。男性。ゼレルシュ王国の傭兵。卑怯で残忍で冷酷な性格で味方を身代わりにしてまで戦功を上げようとする。ジレロを上手く利用し、戦場で功績を上げる。武器は剣。好物は甘いもの全般。ブア島の戦争によって戦死。

ジレロ
25歳。男性。黒い全身鎧に黒い兜を身につけているため、素顔は明らかになっていない。恐るべき剣の達人で「黒い死神」の異名で知られる。昔、シャルペナに命を救われたことがあり、それ以来、シャルペナの命を命令なら何でも聞く。基本的に喋らない。好物はゆでたまご。ブア島の戦争によって戦死。

フェリラ
28歳。女性。イサの影武者。外見はイサとそっくりで、見分けがつくのはレリィとエールシスのみである。イサとはときどき伝書鳩で通信している。戦闘能力は無し。基本的になんでも食べる。普段の公務をイサに任されるなど、政治的手腕に長けている。

レリィ
28歳。女性。イサの副女官長。フェリラとは幼なじみで子供の頃から仲が良くなかった。よって、フェリラが竜帝の権力を預かっているのを良く思っていない。戦闘能力は無し。好物はシチュー。

エールシス
35歳。女性。イサの女官長。とても美しい外見をしており、帝国一の美女と名高い。イサのことを誰よりも理解している。しかし、イサが君主にふさわしくない行動を取ると、非常に長いお説教をするため、イサが唯一恐れる存在である。基本的に戦わないが護身用に柔術のたしなみが少々ある。基本的になんでも食べる。

イサ・アレドラード
27歳。女性。第240代竜帝。ディルメース大陸出身。実務はフェリラに任せ、自分は放浪の旅をしていることが多い。たまに様子を見に帝都に帰ってくる。アーシェという偽名を使う。正義と慈悲を重んじる名君であるが、同時に君主としての冷酷さも併せ持つ。世界最強の剣の達人として知られるが、数年前、ある出来事がきっかけで剣を捨てた。

あとがき

はい! 「竜帝の野望2-ブア島の大戦-」完結しました!

みなさん如何だったでしょうか。

この作品は「竜帝の野望」の次に書いた作品です。

意外かもしれませんが、この作品はフロントミッションや、映画のプライベート・ライアンから影響を受けています。

戦記というよりは上記の2作品のような戦場を舞台にした人間ドラマにしたかったのです。レイガたちが戦場においてどう動き、何を考え、どう成長していったのか。それを書こうと思いました。

分隊の仲間たちについてですが、本当はアル、シュアル、ラス、ダム、ベルルはモブで、プロットの時点では途中でどんどん死んでいく予定でした。だが、書いていくうちにこいつらがやけに個性的になってしまい、殺すのが惜しくなって、最後のジレロ戦で一気に死ぬことになりました。

特にベルルの目立ち方が凄かったですね。書いてるうちに凄いことになっていきました。まさかリュカに惚れるとか全く考えていなかったです。書いていくうちにそうなってしまいました。

当初、ヒロインはリュカのつもりでした。リュカがレイガに惚れ、レイガもリュカに惚れる。そんなときリュカが惨たらしい死に方をする。苦悩するレイガ。アーシェはそれを見て、ちょっとだけ立ち直るきっかけを与えてやる。ということを考えていました。

しかし、書いているうちに思った以上にレイガとアーシェがいい感じになってしまいまして、逆にレイガがリュカに惚れるイメージが浮かばなかったのです。だからリュカをヒロインから降板させました。これはこれで良かったと思っています。

ちなみにリュカとアーシェのキャラ調整も苦労しました。リュカは初めは元気で男勝りで正義を重んじ、腕の立つ女の子だったのです。そしてアーシェは「竜帝の野望」と同じキャラでした。すると、書き始めたところでリュカとアーシェのキャラが被っている事に気づきまして。そこでリュカをビクビクした弱虫キャラに変えました。ところが、それが戦場という舞台でどうも使いにくく、本編のような平和を重んじているが戦いは初心者でどこか間の抜けている天然キャラになったのです。

アーシェのキャラも変遷しています。最初は「竜帝の野望」のころのアーシェと同じキャラでした。だが、書いているうちにどうしても姉御キャラになってしまい、もう姉御でいいやと思ってそのままにしました。いちおう年を取ることによって性格が変わったということにして自分を納得させています。

ちなみにアーシェが年齢を聞かれるのを嫌がる理由は著者もわかっていないですw というか思いつかない。お肌の曲がり角を気にするような柄でもないし。最初は単にミステリアスな雰囲気を出すため年齢不詳にしただけなのですが……。

アーシェが素手で戦う件に関してですが、最初は剣を携えたまま素手で戦い、抜かないのは単に面白がって手加減してるから、という風にするつもりでした。でも、それだとジレロ戦でみんなが殺されていく中、面白がって手加減しているアーシェが鬼畜になってしまうではないか、と気づきまして。そこで急遽、剣を捨てさせたのです。何か重大な出来事があって剣を捨てたというふうにしました。

その理由については、まだ作品にはなってないです。おぼろげながら構想みたいなものはあるけどね。

さて、というわけで、一段落というところですね。

え? 明日から何も連載しないのかって? 誰がしないって言いました?

竜帝の野望シリーズ「放浪の帝イサ」2015年12月26日公開。

みなさんお楽しみに。

それでは、この辺で失礼します。

See You!

コメント

  1. フェアリー より:

    ほんと面白いな~w
    毎日楽しみに見てます!
    まきまきさんの中でも設定はけっこうあやふやなんだねw
    次回作も楽しみに待ってます♪

    • てっかまき より:

      読んでくれてありがとー^^
      人によって違うと思うんだけど、私はガチガチに設定固めないほうが上手く書けるかな。
      設定や構成をきっちり決めて書いたこともあるんやけど、最後まで書ききれなかった。
      これは小説家にかぎらず、漫画家でもそうだと思うんだけど、キャラがひとりでに動き出すのよ。そういう感覚がある。
      「これどうなるんやろう?」と思いながら書いてるw
      でも、そういう感覚で書いた作品のほうが、面白い場合が多いのよね。
      なにはともあれ、次回作をお楽しみに♪

  2. 匿名 より:

    竜帝シリーズけっこう長く書いてるのね♪
    最後にジレロさんが簡単に死んじゃったのはちょっと意外…。

    • てっかまき より:

      長く書きましたね。一応、いま連載してる「放浪の帝イサ」で最後ですけど。

      ジレロは完全に噛ませになってしまいましたねw まあ、イサ相手だから仕方ないというか……。だいたい「竜帝の野望」のプロメトスと同じぐらいの強さです、ジレロ。