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【小説】放浪の帝イサ・第5話-為政者と親-

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みなさんこんにちは。

てっかまきです。

今回は政治的な話です。

一般的な感覚では理解しづらいかもしれないので、ちょっと説明が多めに入ってますが。

ではご覧ください。

第5話-為政者と親-

「ほい、リンゴ1個ね。姉ちゃん可愛いからもう1個おまけ」
「ほんと? ありがとうおじさん」
ある日の昼。イサは果物屋でリンゴを買っていた。いつものように町を見て回っているのである。ここはヨルイナの町。帝都からほど近いところにある大きな町であった。活気に溢れ、みんな笑顔に溢れている。イサはそう言った国民の笑顔を見るのが何より幸せであった。
イサの治世になってから国民の生活は劇的に向上した。イサはまだ即位して2年ほどであるが、即位して程なく、厳しく貴族を統制する勅令を出し、国民が圧政に苦しまないようにした。そのため、2年にして既に名君と褒め称えられ、国民から愛されている。しかし、イサ本人は自分が名君などと思ったことは一度もなかった。竜帝として公務をしているとどうすれば良いか悩むことが多々あり、途方に暮れることもあった。側近や宰相に相談したりすると、それなりの答えが帰ってきたりするのだが、決めるのはイサ自身が決めなければならない。帝都の国民全員の生活がイサの肩にのしかかっているのだ。いくら気丈な性格とはいえ23歳のイサには辛いものがあった。
ひと通り町を見て回ったあとイサは酒場で昼食を取った。オムレツを食べていると、隣の男たちの会話が聞こえてくる。
「おい、明日、ヴィラム様が来るんだとよ」
「へー、ヴィラムってあのすげえ戦争強え伯爵だろ?」
「そうそう。うちの領主さまと会談だって」
イサがオムレツを食べる手は止まっている。
(ヴィラムがレオと会談?)
ヴィラム伯爵とはヨルイナの町とは別の土地の領主であり、一方、レオ伯爵とはここヨルイナの町の領主である。ヴィラムは豪胆で勇猛な武人として知られる貴族であり、一方、レオは冷静沈着な知将としてしられる貴族であった。この2人は性格も政策も何もかも正反対であり、犬猿の仲であるとされてきた。その2人が仲良く会談するのである。この2家は代々、竜帝には忠実だが、イサは何かあるなと思った。すぐにレオの屋敷へ行って確認することにした。
レオの屋敷は町から1時間歩いたところにあった。石造りの城である。もちろん帝都の宮殿ほど大きくはないものの、貴族の家としては大きな方であった。イサは堂々と正面から門に近づく。門番の兵士が制止したのでイサは竜帝の証である紋章メダルを見せた。そうすると、兵士はとたんに態度が変わり、急いで中に入っていった。しばらくして出てくるレオとヴィラム。
「これは陛下。お久しゅうございます」
「大儀」
レオとヴィラムはイサに跪き、イサはそれを労った。
「どうぞ中へ、狭い家ですがお入り下さい」
レオの家は大きな屋敷ではあるものの、中は貴族にしては質素であった。普通、貴族の家には高価な壺やら金細工の装飾品やらロウソクの数を数えるのが面倒くさくなるようなシャンデリアなどがあったりするのだが、レオの家には一切なく、むき出しの石で出来た壁に松明を挿すための突出し燭台が点々と付いているだけである。イサは城の中を案内される際も中をつぶさに観察していた。大きな城にしては兵士や使用人の数が少ないなとイサは思った。税金を限りなく低く押さえるため倹約しているのだ。レオもヴィラムも領民のことを考え、善政を敷く良い領主で有名な2人だった。
イサは長い廊下を歩いてやがて小さな応接室に通された。ここにも特段高価なものはない。暖炉と傍らに置かれた薪の山。あとは町人が使うような木の椅子が3つ置かれている。壁や床がむき出しの石であるため余計に無骨に感じてくる。そのような色気のない部屋において1つだけ目を引く物があった。
「この肖像画は?」
壁に掛けられた小さな肖像画である。笑っている少女が1人描かれてある。
「娘のエスでございます陛下」
イサは記憶を辿らせた。何しろ世俗貴族の家だけで300家以上あるのだ。その家族構成まで全部覚えるのは大変である。
「1人娘さんだっけ?」
「はい」
「こんなに小さい子だったっけ?」
「いえ、これはエスが10歳のときに描いたものでして、今は18になります」
「へえ、そうなんだ」
イサはレオに促されて冷たくて固い木の椅子に3人で座った。
「それで陛下、本日はどういったご用向きで?」
レオはいささか緊張しているように見えた。竜帝が何の連絡もなくいきなり訪ねてきたのだから身構えるのは当然である。
「いや、ヨルイナの町の酒場でヴィラムが来てるって聞いてさ。なんであんなに仲悪かったヴィラムとレオが仲良くしてんのかなぁと思って」
イサがそれとなく2人に尋ねる。しかし造反を疑っているのは明白であった。ヴィラムとレオは深刻な表情で顔を見合わせた。
「陛下」
レオが切り出す。
「実はこの度、ヴィラム閣下のご子息と私の娘が結婚することになりまして……」
「はあ!?」
イサは思わず目を丸くして立ち上がってしまった。イサが慌てるのも無理もない話で、レオもヴィラムも広大な領地を有する大貴族であり、2人の領地がちょうど帝都に近く、しかも挟撃できる位置関係にあるのである。いくら忠臣とは言え、この2人が同盟関係を結ぶことは帝国にとって脅威であった。
「政府がそれを許したの!?」
「……いえ、申請いたしましたが、却下されました」
イサの表情が一変する。
「政府の許可なしで結婚するのは違法だとわかってやってるの?」
帝国政府は貴族たちが勝手に同盟を作るのを防ぐため貴族同士の結婚は政府の許可がないと出来ないようにしていたのである。
ここでヴィラムが立ち上がり、剣の柄に手をかける。
「我々は、この場で陛下を討ち取ってでもこの縁談を成立させるつもりでございます」
「あんた自分が何言ってるかわかってんの?」
イサは忠臣であるヴィラムが本心からそんなことを言っているとは信じたくなかった。一時的な乱心であって欲しい。そう願っていた。
「閣下。落ち着いて下さい。理由を話せば陛下も理解してくださいます」
ヴィラムを諌めるレオ。
「理由って何?」
イサは鋭い表情で尋ねる。レオは2人を落ち着かせて座らせると、理由を話し始めた。
「実は……私の娘エスと閣下のご子息ウィサ殿が本当に恋仲になってしまいまして」
イサの眉間にしわが寄る。
「私どもは子供たちの恋を成就させてやりたいのです」
「……そんな馬鹿げた言い訳が通ると思ったわけ?」
イサはレオを睨みつけながら言う。
「言い訳ではありません。陛下、事実です。我々は子どもたちに幸せになってほしいのです。陛下も皇子様がお出来になればわかります。それが親心というものです」
「領地も離れていて親は犬猿の仲、まるで接点のない2人がお互い好きになるなんてそんな都合の良い話があるわけないじゃない」
イサは怒りの表情に満ちていた。この2人は自らの子どものために帝都を危険に晒すと言っているのである。
「私とヴィラム閣下が一触即発の冷戦状態に陥ったときのことを覚えていらっしゃいますか?」
イサは一瞬黙った。いきなり何の話を始めたのか、と思った。
「知ってるよ。私がディルメース領を直轄領にしたときのことでしょ」
イサが即位してすぐディルメース領という非常に広大な領地が空白地帯になったことがあった。イサは即座にこの領地を占領し、帝国の直轄領とすることを宣言したのである。このときヴィラムは造反も辞さずとイサに猛反発したのに対し、レオは陛下に弓を引くことは許さないとヴィラムを非難した。それで2人が戦争寸前まで行ったことがあったのである。
「あの時も話し合いのためにヴィラム閣下がおいでくださったのです。そのときウィサ殿もご一緒だったのですが、そのとき一瞬エスと会っただけで互いに一目惚れしてしまったようで……」
「信じられないね。政略結婚としか思えない」
イサがそう言ったとき、
「嘘ではありません」
と言いながら1人の女が入ってきた。
「誰? いま大事な話をしてるんだけど」
女はそう言われるとイサの前に跪いた。
「お初にお目にかかります陛下。レオの娘、エスでございます」
イサは不審な表情で見ている。
「私はウィサを愛しております。ウィサも同じように……。どうか私たちの結婚をお許し下さい」
エスはそう言うと深々と頭を下げた。それを見たイサは厳しい表情でため息を付くと、目を瞑って考え始めた。部屋の中を沈黙が支配する。イサはしばらく考えていた。
「……認めるわけにはいかない」
イサが出した結論はそれであった。
「悪いけど結婚はあきらめな」
突き放すように言うイサ。
「そんな、結婚させて下さい!」
「ダメよ」
「お願いします!!」
イサは一瞬考えたあと、
「2人の領地を帝国に差し出して平民に戻るならいくらでも結婚していいよ」
レオとヴィラムは示し合わせるように顔を見合わせる。
「陛下、子どもは我々の宝ですが領民も宝でありますので……」
「ふざけるな!!」
イサは剣の柄に手をかけた。
「これ以上ごちゃごちゃ言うと全員この場で処刑する」
イサは3人が駄々をこねているようにしか見えなかった。領土も欲しいが子どもも幸せにしたい。帝都のことは知らない、そんなふうに聞こえたのである。
「陛下」
ヴィラムが立ち上がる。
「陛下のここ最近の貴族への弾圧は異常です。なぜ我々を苦しめるのですか!?」
イサは冷たくヴィラムを見ている。
「我々は代々竜帝陛下に尽くしてきました。その結果がこれではあまりにもひどすぎます」
「閣下、陛下に対してご無礼ですよ」
レオがヴィラムを止める。
「陛下は常日頃から国民のためだと仰っておられる。我々貴族も国民ですぞ。貴族はどうなっても良いというのか」
「閣下!」
「あなたは貴族を憎んでおられるのではありませんか? 敵視してるのではありませんか? それで権力を振りかざして貴族を虐めているのでしょう。 あなたが貴族を敵視するのはあなたのお父上が」
「ヴィラム!!」
レオが叫んだことで我に返るヴィラム。
「申し訳ありません、言い過ぎました……」
イサの父親はイサが1歳のときに貴族の造反によって殺されたのである。ヴィラムは一番触れてはいけない部分に触れたのであった。
「……顔も知らない父親のことなんてどうでもいい」
イサは冷たく言い放った。
「1日待ってやるよ。明日の昼、あんたらにもう1度、子供を結婚させる意思があるかどうかを聞く。私がここまで言ってもまだ結婚させるというならレオもヴィラムも処刑する。自分の命と子供の結婚とどっちが大事かよく考えな」
イサはそう言って屋敷を後にした。
貴族も国民だから助けろ――簡単に言ってくれるなとイサは思った。一度、竜帝の立場に立ってみろと言ってやりたかった。イサはヴィラムたちが憎いわけではない。本心ではエスの結婚を許可し、祝福してやりたいのである。だが、イサは帝都に住む10万の都民も守らなければならないのだ。貴族制を廃止するからそれまで待てと言うのはダメかなとイサは考えた。そうすれば晴れて平民になり、結婚しほうだいである。しかしすぐに思い直した。本当に貴族制を廃止できるかどうか現時点ではわからないし、領民は宝とか言ってるのであるから、そもそも廃止そのものに反対するだろうと。あの2人が同時に反対してきたら帝都が大きな危険にさらされる。子どもが結婚して親戚関係になってしまったらなおさらである。イサは忠実なあの2人なら従ってくれるだろうと思っていたので、今回の件は衝撃であった。しかし、冷静になって考えると、ヴィラムたちの気持ちも理解できるのだ。イサ自身も父親を生かす代わりに帝国を差し出せなどと言われたら、父親も帝国もどちらも手放さないと言うであろう。何とか帝都を守りつつ、彼らを幸せにしてやる方法はないのか。殺すしかないのか――イサはその日、一晩中悩みぬいた。

――翌日昼。
イサはレオの屋敷へと向かった。門番に話すと昨日と同じ応接間に通された。レオとヴィラムが座っている。レオから椅子に座るように勧められるもイサは座らない。
「昨日の回答を聞きに来たよ」
イサはそう言うといきなり剣を抜き、ヴィラムに突き付けた。
「……もう一度聞く。帝国の意思に反してまで子供たちを結婚させるの?」
レオとヴィラムは顔を見合わせ、頷いた。そして、ヴィラムがイサの目をしっかりと見上げて言う。
「我々が子供たちを結婚させるという意思に変わりはありません」
張り詰めた緊張感が応接間を支配していた。レオもヴィラムも子供と領民のために死ぬつもりであった。やがてイサが口を開く。
「……結婚を認める」
「えっ?」
レオもヴィラムも目を丸くした。
「結婚を認めると言ってる」
「……よろしいのですか?」
レオがイサに尋ねる
「ただし条件がある」
「条件とは?」
「結婚後、ウィサとエスには帝都で暮らしてもらう。政府の監視下の元で」
レオとヴィラムは再び顔を見合わせる。
「……なるほど、結婚させて2人とも人質に取るというわけですか」
レオがニヤリと笑いながらそう言うと、イサが返す。
「あんたらが変な気起こしたら即座に2人とも殺すからそのつもりでね」
ヴィラムは大笑いした。
「どうせ我らは造反など起こさんから息子たちが帝都で幸せに暮らすのと同じことですな」
イサは剣を納めながら言う。
「あとは本人たちが承諾するかどうかね。もし承諾しなかったら終わり。すぐに確認取って」
すぐにエスを呼んで確認したところエスは大喜びで承諾した。エスは都会暮らしに憧れていたのである。ヴィラムの領地に居るウィサには伝書鳩で確認を行った。2日後、ウィサの返書には”エスと一緒ならどんなところでもいい”と書かれていた。
レオとヴィラムは無事に縁談が決まったことで大喜びし、その日は盛大に宴が催された。イサは臨席するように求められたが、あんたの家は石ばっかりで閑散としてるから嫌だなどと言って行かなかった。

世話のやける奴ら――ため息を付きながらイサは町を後にした。

あとがき

みなさんいかがでしたでしょうか。

以前、コメント欄に「血のない話が読みたい」というご要望がありましたが、今回は一滴も血がでませんでしたw

帝国の政治体制は実は江戸時代の日本をモデルにしてたりします。

江戸時代の日本も、大名が勝手に結婚できないように幕府が管理してました。

そして、イサが貴族制を廃止するのが、日本で言う明治維新になるわけです。

というわけで、明日も連載しますので、どうぞお楽しみに。

See You!

コメント

  1. ハルカ より:

    うん、本当に血のないお話だった♪
    ちょっと危なかったけどw
    物語に地図が出てこないからわからないけど、意外と近くを放浪してたのねw

    • てっかまき より:

      どこを放浪してるかはあんまり考えてないですw
      今回はたまたま近くにいたということでw

    • てっかまき より:

      ディルメースはイサの領土だから除外するとして、ドラグランカのどこかを放浪していますね。
      ティシュラルトは歩きまわるのに時間がかかるので、この作品では時間の概念が止まってたりします。サザエさん式というかw