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【小説】放浪の帝イサ・第9話-お見合い-

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みなさんこんにちは。

てっかまきです。

今回も血がほとんど流れない話ですね。

ちょっと流れるけど。

第8話の「暗殺者」も帝都に帰ってきたときの話で、今回も帝都にいる時の話になりますが、この2つはつながってません。

つまり、全く別の日ということです。

それでは、珍しくうろたえるイサをご覧ください。

どうぞ。

第9話-お見合い-

「見合い~?」

「左様でございます」

帝都、宮殿、謁見の間。イサは素っ頓狂な声を上げた。帝都に様子を見に帰ってきた日のことだった。

「そろそろお世継ぎのことを考えませぬと」

謁見しているのはブトンフである。

「まだ早いでしょ、そんなの」

「いいえ、現在、血脈を持つお方は陛下以外におりませぬ。一刻も早くお世継ぎをお作りいただかねば」

イサは困惑した顔で傍らに居たエールシスを見た。エールシスはやれやれと軽くため息をつく。

「……まあ、1度ぐらい経験しておいても良いかもしれませんわね」

「ええっ! エールシスまで!」

イサは呆然としてしまった。23歳の今日まで敵と医者以外で男に触れた経験など無い。

「幸いにも良いお相手がおられますぞ」

「えっ、だ、誰?」

イサはまるで子供のようにうろたえる。

「コーネスト公爵閣下のご次男、ウェスリー殿でございます」

その回答にイサはしかめっ面をした。

「貴族の息子なんかやだよ」

「……しかし、皇配となられるお方ならばそれなりのお家柄がなければ」

「母さんだって村娘だったじゃん」

「それは特殊な事例でして……」

「それに、貴族なんかどうせ廃止するんだし」

「う、うーむ……」

ブトンフは黙ってしまった。ちらりとエールシスに目配せし、助けを求めるブトンフ。エールシスはそれを見て軽くため息をついた。

「会うだけで結構ですのよ陛下。気に入らなかったら断れば良いのですし」

「むー……」

腕組みをして唸り声を上げるイサ。

「まあ……、エールシスがそこまで言うなら会ってやってもいいけどさ」

「左様でございますか! ではさっそく段取りをいたします!」

ブトンフは一礼して出て行った。その日1日、イサの機嫌は直らなかった。

――後日、帝都、宮殿、謁見の間。

ついに見合いの日が来た。イサは朝からそわそわして落ち着かない。イサの出生地であるアルポカ村にも同世代の男は居たが、彼らを男だと意識したことなど無い。村を出てから歩いてきた道は血と戦いが連続する修羅の道。竜帝になってからは公務と放浪の旅。男と恋仲になるなど、生まれてこの方考えたこともない。そんなことを考えながら玉座に座っていると、ブトンフが入ってきた。

「陛下、コーネスト閣下がお見えです」

イサはコホンと咳払いすると。心を落ち着けた。竜帝がうろたえていては示しがつかない。

「通して」

程なくして側近に連れられてコーネストが入ってくる。後ろにはウェスリーが続く。2人はイサの前まで来ると、神妙な面持ちで跪いた。

「お久しゅうございます陛下。コーネスト、ここに馳せ参じました」

「大儀」

「この度は我が息子ウェスリーの拝謁をお許しになられたこと、恐悦至極に存じます」

イサは玉座の肘掛けに片肘をついて、表面上はすました顔で2人を見下ろしている。

「そちらが?」

「は……、これが我が息子ウェスリーでございます」

「お初にお目にかかります陛下。コーネストの次男、ウェスリーにございます」

イサはウェスリーをつぶさに観察した。金色の長髪、碧眼、長身、体格も良い。イサの前ということで目を伏せてはいるが、顔立ちは精悍で、覇気に満ちている。なかなかの好青年である。

「年はいくつ?」

「今年で25になります」

イサはだんだん緊張が溶けてきて、冷静さを取り戻した。ウェスリーをじっと見て、何か考えている。

「私を見なさい」

「は……」

ウェスリーは目線を上げてイサと目を合わせる。

「私を見て、どう思う?」

イサはお世辞を言う男は嫌いである。「美しい」とでも言おうものなら叩きだそうと思っていた。

ウェスリーはイサをじっとみる。イサもウェスリーから目を離さない。

「ご無礼をお許し下さい。十人並みと言ったところでございます」

イサはその言葉に「ぶふーっ!」と吹き出してしまった。その場にいた側近たち、ブトンフ、コーネスト、全員の顔から血の気が引いた。エールシスはクスッと笑う。

「あははははは!」

イサは大笑いしている。

「なかなか面白い人じゃん」

イサは身を乗り出してニヤニヤしている。

「あなた、武芸の心得は?」

「一通りたしなみますが、最も得意なのは柔術でございます」

「ふぅん」

イサはウェスリーの目をじっと見る。ウェスリーも目を離さない。そのまましばらく時が経った。

「……腕前が見たいわね」

「え!」

うろたえるブトンフ。

「手合わせの準備をして」

「しかし陛下、今日はお見合いの席ですぞ。お見合いでお手合わせをするなど聞いたことが……」

「私の夫になるなら、それなりに強くないとね」

開いた口がふさがらないブトンフ。

「陛下……」

エールシスがイサをたしなめようとしたとき、イサがエールシスの目をじっとみた。エールシスはそれを見て、何か察したようだった。

「ブトンフ閣下。お手合わせのご用意を」

「し、しかし、エールシス殿」

「陛下のご意思です」

ブトンフは困惑した表情を浮かべた。

「……わかりました。少々お待ちを」

ブトンフは一礼して謁見の間から出て行った。

――30分後、守備兵詰め所、武道場。

ここは宮殿の守備兵が武道の練習をする場所である。石造りの壁に石造りの床。剣術場には特訓用のダミー人形が並び、柔術場には綿で作られたマットが敷かれている。

イサとウェスリーは綿製の道着を着て、対峙した。イサは小柄でウェスリーは大柄である。身長差、体重差はまるで大人と子供だった。道場のはしで観戦するコーネストは不安げであるが、ブトンフとエールシスは平静である。

「全力でかかってきなさい。弱かったら破談ね」

「……かしこまりました」

イサは腕組みをして不敵な笑いを浮かべている。ウェスリーは神妙に一礼した。

「では……、失礼致します!」

ウェスリーは一足飛びでイサに突進し、右の拳でイサの顔面を突いた。しかし、イサはスッと横にかわすと、ウェスリーの額を軽く押す。突進してるところに額を押されたので、ウェスリーは後ろにすっ転んだ。

「く……、今一度!」

ウェスリーは立ち上がると左の裏拳でイサの顔面を狙った。イサは素早くウェスリーの懐に潜り込み、裏拳の腕を取ると背負投げでマットに叩きつけた。

「ぐはっ!」

ウェスリーは何度も立ち上がり、イサに向かっていくが、イサにポンポン投げられた。そして、とうとうウェスリーは立てなくなってしまった。

「ふぅん、ま、腕前はわかったわよ」

イサは息一つ切らさず腕組みをし、不敵な笑いを浮かべている。

「はあ……、はあ……、うう」

ウェスリーは汗びっしょりで激しく息を切らし、マットの上に横たわる。

「馬鹿者! 早く起きんか! 陛下に無礼であろう!」

コーネストはウェスリーを怒鳴りつけるも、ウェスリーは上体を起こすのがやっとである。

「ねえ、あんたらちょっと出て行ってくんない?」

イサは観戦していた3人に言う。

「2人きりになりたいんだけど」

「おお! それではウェスリー殿をお認めになってくださったのですな!」

ブトンフの顔が思わずほころんだ。

「さあさあ、あとはおふたりに任せましょうぞ!」

ブトンフはコーネストとエールシスを急かす。道場の入り口で、エールシスは振り返ってイサの顔をチラリと見た。イサはエールシスの顔を見て軽く笑った。

イサは3人が出て行ったのを見ると、ウェスリーの前にあぐらをかいて座る。そして、ウェスリーの顔をじっと見て言った。

「あんたさ、ここに無理やり連れてこられたでしょ?」

「は……?」

ウェスリーはきょとんとしている。イサはウェスリーの目をじっと見る。

「いえ……、そのようなことは……」

ウェスリーは思わずイサから目を逸らした。

「嘘ついても無駄よ。あんたの戦い方見てると丸わかりだから」

ウェスリーはそれを聞いてうつむいている。

「私が弱い男は嫌いと言っているのに、あんたの技には若干のためらいが感じられた。たぶん自分でもわかってないぐらい、ほんの少しね」

ウェスリーは何も言わない。

「好きな人が居るんでしょ?」

しばらくの間、道場を沈黙が支配した。ウェスリーはずっとうつむいていたが、観念したのか正座に座り直し、つらつらと語り始めた。

「……、私は好きになってはいけない者を好きになってしまったのです」

「誰を?」

ウェスリーは一瞬間を置いて言った。

「……罪人です」

これにはイサも若干驚いた。貴族が罪人に恋をするなど聞いたことがなかった。

「ほー、そりゃまたどうして?」

「……その罪人は当家に度々盗みに入る盗人でして、私がその者の追跡を任されておりました。そして……」

※※※※※※

――半年ほど前のある日の夜。コーネストの屋敷、西側の裏庭。

「今日も盗人は来るでしょうか?」

「わからん。だが、今日は税が入ったばかりだ。今までのパターンからして来るとしたら今日だろう」

ウェスリーと兵士長は裏庭で話している。今日は新月。辺りは真っ暗である。2人と30人ほどの兵士たちは火を焚き、明るくして、盗人の襲来に備えていた。季節は冬。白い息を吐き、身震いをしながら、来るとも知れない盗人を待つ。待って待って、深夜未明――。

「ウェスリー様!」

兵士が血相を変えてウェスリーの元に来る。

「どうした?」

「東側を警備していた者たちが……!」

ウェスリーたちは屋敷の東側に回りこむ。すると、5名ほどの兵士たちが倒れていた。そして窓のガラスが破られている。

「2人の兵を金庫部屋に向かわせろ! 他は引き続き屋敷の回りを固めろ!」

ウェスリーは倒れている兵士の1人に歩み寄り、しゃがみこんで死んでいるかどうか調べる。

「これは……、薬で眠らされたか」

傍らに落ちているのは木製のタンブラー。

「執事にでも化けたか、くそっ!」

そのとき、金庫部屋に向かった兵士の1人が戻ってくる。

「ウェスリー様! 金庫部屋には異常ありませんでした!」

「もう1人はどうした?」

「金庫部屋は自分が見ておくから、一刻も早くウェスリー様に報告するようにと!」

「馬鹿野郎! 単独行動をするなと言っただろう!」

ウェスリーと兵士長は金庫部屋に急ぐ、部屋に入るともぬけの殻で、破られた金庫。脱ぎ捨てられた兵士の鎧。

「東だ! 追うぞ!」

2人は屋敷の外に出て東側に回りこむ。

「お前は屋敷を固めてろ! 俺がやつを追う!」

「かしこまりました!」

ウェスリーは助走を付けて塀を乗り越え、木々を分け、森に入った。屋敷は森のなかに立っているのだ。たいまつに火を灯し、辺りを伺いながら走る。茂みが不自然に分けられているため、人が通った跡だとすぐわかった。その跡を追い、10分ほど走ったところにて。

覆面をつけた人間と野盗2人が戦っている。

野盗の一人が覆面に斬りかかると覆面は短剣でそれを弾いた。

「おとなしくその金を渡しな」

野盗は覆面が背負った袋を剣で指し示す。もう1人の野盗が覆面を上段から斬りつけた。覆面は短剣で受ける。お互いに鍔迫り合いのような形になった。野盗が強引に覆面の体勢を崩すと、覆面は尻もちをついた。袋が放り出され、口からジャラジャラと金貨が流れでる。

「キャッ!」

思わず悲鳴を漏らす覆面。驚く野党2人。

「お前女か!」

「捕まえろ!」

野盗に羽交い締めにされる女。そして、もう1人の野盗が覆面を脱がす。中から出てきたのは非常に愛らしい顔立ちをした娘である。栗色のショートヘアに栗色の目。まるで人形のように小さな顔。

「こりゃ、上玉だ」

下卑た笑いをする野盗。

「待て!」

ウェスリーの声に野盗が振り向く。

「なんだてめえは?」

「その娘を離せ」

「なんだと?」

「ふざけんじゃねえ!」

野盗がウェスリーに横薙ぎに斬りかかる。ウェスリーは体勢を低くしてそれをかわすと、下から思いっきり野盗のアゴを殴りつけた。泡を吹いて昏倒する野盗。もう1人の野盗が後ろから斬りかかるも後ろ蹴りによって吹き飛ばされた。

「この糞野郎!」

野盗は起き上がると悪態をつきながら上段から切りつけてきた。ウェスリーは横にかわし、野盗の顔に飛び後ろ回し蹴りを放つ。顔面を蹴られた野盗は吹き飛んで動かなくなった。

「……!」

女はウェスリーの顔をじっと見ている。

「お前……。名前は……?」

ウェスリーがそう話しかけるも女は茂みに飛び込んで逃げてしまった。

※※※※※※

「この馬鹿者がぁ!!」

宮殿、謁見の間。コーネストはウェスリーを何回も殴りつけた。

「よりにもよって盗人に心を奪われ、このような場にて陛下に直接それを吐露するなど、お前は何をしでかしたかわかってるのか!!」

ウェスリーは跪きひたすら耐えている。鼻、口から血が流れ、飛び散る。

「閣下、陛下の御前ですよ」

エールシスがコーネストを制止した。コーネストはしばらくぜーぜーと肩で息をしながらウェスリーを睨みつけていたが、やがて玉座に座っているイサに向かって土下座をし始めた。

「このコーネスト一生の不覚でございます陛下! このような愚か者をこの場に連れてきたこと、お詫びのしようもございませぬ!」

「……まあ、そのくらいで許してやんなさいよ」

イサはやれやれと笑っている。

「で、その後、その女は屋敷に来たわけ?」

「いえ……、その後、全く現れなくなりまして……」

「じゃあ、一目惚れだったわけだ?」

「はい……」

「ふぅん。さぞ可愛らしい子なんでしょうね。『私とは違って』」

イサはそっぽを向き、思いっきり皮肉を込めて言った。

「い、いえ! さきほどのあれは陛下のお目に止まるまいとあえて言った言葉でございまして、本意ではありません!」

うろたえるウェスリーを見てイサはクククと笑う。

「私がその場で斬ろうとしたらどうするつもりだったわけ?」

「そのときは……、死ぬつもりでした」

「そんなにその子が好きなの?」

「はい……」

イサはウェスリーを見て目を細める。

「陛下! この不始末、一切の責任はこのコーネストにあります。どのような御沙汰も甘んじて受ける所存でございます!」

「責任ねぇ……。とりあえず、その子が見てみたいわね」

「え!」

「え!」

同時に驚くコーネストとウェスリー。

――後日、アドルノの町にて。

ここはコーネストの領地で、コーネストの屋敷に一番近い町である。イサは酒場のカウンターで夕食を取っていた。ウェスリーも一緒である。酒場なら何か盗人について情報が無いかと思ったのだ。ウェスリーも旅人風の服に着替えて正体がバレないように偽装している。

「このようなところで食事するのは初めてです……」

「ふ……」

イサは失笑する。

「平民の食事もなかなか美味なものですね陛下」

頭をボコっと殴られるウェスリー。

「そんな呼び方したら正体バレるでしょうが。イサさんと呼びな」

「は、はいイサさん」

イサは酒場をつぶさに観察し、聞き耳を立てる。

「おい、またキャットが出たらしいぜ」

「本当か! スラムの奴らはいいなぁ。金もらえて」

その2人の客の話し声をイサは聞き逃さなかった。イサは立ち上がると、2人が話しているテーブルへ向かう。後ろにはウェスリー。

「ねえ、お兄さんたち。ちょっといい? いまの話聞きたいんだけど」

「おっ、姉ちゃんかわいいじゃねえか。こっちで一緒に飲もうぜ」

「無礼者! この御方は……イッ!」

イサはウェスリーの足を思いっきり踏みつけた。そしてテーブルの椅子へと座る。

「ねえ、キャットって何?」

「ああ、ここ最近話題の義賊だよ。金持ちの家に盗みに入って、スラムに金を撒いてくれるんだよ」

イサとウェスリーは顔を見合わせる。

「そのキャットがまた出たって、盗みに入ったってこと?」

「ああ、アニラスの家に入ったって新聞に書いてあったよ」

「アニラス?」

「この町でいちばんの大商人ですね」

ウェスリーが割って入る。

「ほー」

「最近、アニラスの家ばっかり狙ってるみたいだよ」

それを聞くとイサはおもむろに立ち上がる。

「いくわよ」

「はい」

2人は酒場を後にした。

アニラスの家は町の中央付近、高級住宅街にあった。ひときわ大きい屋敷。そこに2人は赴く。

「ここはあんたに任せるわ。よろしくね」

「は、お任せを」

ウェスリーは狼の顔を模したドアノッカーを掴み、ゆっくりと3回ノックした。しばらくして、ゆっくりとドアが開き、年配の執事が顔を出す。

「こちらはアニラス様のお屋敷でございます。どちら様でしょう?」

「コーネストの次男ウェスリーだ。アニラスに会いたい」

「おお! ウェスリー様、ようこそいらっしゃいました。どうぞ中の方へ」

「失礼する」

ウェスリーとイサは屋敷に入る。イサは歩きながら屋敷の中をつぶさに観察した。窓が多い。警備のために私兵が各所にいるのだが、窓の数の割には少ないなと思った。

「こちらへどうぞ」

2人は応接間に通された。程なくして恰幅の良い1人の男が入ってくる。年の頃は60歳ぐらい。白髪交じりの総髪に立派な口ひげを携えていた。

「これはこれは、ウェスリー様、ようこそいらっしゃいました」

「うむ」

アニラスはウェスリーに対して跪いた。

「して、本日はどのようなご用向きでございましょう?」

「この屋敷に盗人が出没してると聞いたが」

「キャットのことでございますか? はい、仰るとおりでして、ここのところ、ことごとく財産を盗まれ、難儀いたしております」

「公爵閣下は私にそのキャットという盗人の捕縛を命じた。この屋敷に出たところを捕えたいのだが」

「それは願ってもないことでございます」

「では、キャットが出没する日まで、我々をこの屋敷に滞在させよ」

「は、光栄に存じます」

こうしてイサとウェスリーはアニラス邸に滞在することになった。

――翌日夜。イサは1人でスラムに居た。スラムの人間からキャットの情報を聞き出そうとしたのである。イサはとりあえず情報の集まる酒場へ行こうとした。しかし繁華街と違って道は暗く複雑で、どこに酒場があるのかわからない。イサはちょうど向かいから歩いてきた通行人に声をかけてみることにする。影からして中肉中背の男のように見える。

「お兄さん、この辺で酒場とかな……」

そこまで言ったところで男はいきなりイサに抱きついてきた。しかし、男はイサに触れた瞬間に宙を舞っていた。地面に叩きつけられた男にイサは剣を突きつける。

「おとなしく酒場の場所を教えろ」

「ひ……ひ……」

男は震えながら通路の奥を指差した。イサは剣を納めると、そちらの方角に向けて歩き出した。

5分ほど歩いたところで大勢の人の笑い声が聞こえてくる建物を見つけた。イサはボロボロに朽ち果てたドアに手をかける。ギイイときしむ音を立てて、ドアが開いた。

「らっしゃーい」

酒場の中は活気に満ちていた。各々、見窄らしい格好であるが、笑い声が絶えず、みんな幸せそうである。イサはカウンターに腰掛けた。

「らっしゃい、可愛い姉ちゃん、何にする?」

「エールを」

「コニー! エール一丁だ!」

「はーい!」

コニーと呼ばれたウェイトレスは元気よく返事をした。栗色のショートヘアに栗色の目。小顔で愛らしい少女である。年の頃は18歳から20歳ぐらいであろうか。

「姉ちゃん、この辺じゃ見ねえ顔だな」

「ええ。ちょっと仕事でね」

「ここに来るってことは何かわけありかい?」

「ええ、まあね」

イサはしばらくマスターと話しながら酒を飲んでいた。そして、ある程度マスターと打ち解けたところで、ベロベロに酔ったふりをしながら話を切り出す。

「実は私の仕事は殺し屋なのよ。誰に雇われたかは言えないけど、ある人を殺らなきゃいけないのよね」

「ほー、そりゃまた偉い仕事してんな。ターゲットは誰だい?」

「ここの領主の次男、ウェスリーよ」

その瞬間、給仕をしていたコニーが運んでいるエールを落とした。木製のジョッキがカランカランと音を立てて跳ね、中に入っていたエールが飛び散る。

「おい! 何やってんだ!」

「ご、ごめんなさい」

コニーの顔には明らかに動揺の色が見えた。それを横目で見るイサ。酒場で情報操作してスラムのどこかにいるキャットの耳に入るのを待とうかと思っていたが、どうやら待つ必要はなさそうだとイサは思った。

「しかし、領主の屋敷なら警備がきついんじゃないのかい?」

「いまウェスリーはアニラスの屋敷にいるのよ。あの屋敷の警備ならかいくぐれるから」

「なるほど。手際いいな姉ちゃん」

イサはフフフと笑った。

「じゃあ、明日、仕事だから。そろそろ帰るね」

「また来てくれよな。いい知らせを待ってるぜ」

マスターはにこやかに手を振る。イサはコニーの顔をチラリと見てみた。握りしめた手を震わせながら何か言いたそうにしている。イサは軽く笑いながら店を出た。

――翌日夜。ウェスリーはキャットの襲来に備えて庭で警備のふりをしていた。イサには「キャットがあなたを迎えにくる」と言われたものの半信半疑だった。

待って待って午後8時を回ったころ。裏庭で待機していた兵士たちが騒ぎ始めた。ウェスリーはなんだと思って裏庭に走る。

「逃げて!」

ウェスリーはいきなりそう言われてギョッとした。黒ずくめに黒覆面。キャットである。兵士たちに押さえつけられながら必死に「逃げて」と繰り返していた。

「待て、そいつを離してやれ」

「は? しかしこいつは……」

「そいつはキャットではない。私はやつを何回も見ている」

「は、はあ……」

兵士たちはキャットを離す。キャットは離されるなり覆面を取った。中から出てきたのはコニーである。コニーは半ば泣きそうになりながらウェスリーにすがりついた。

「お願い! 今すぐ逃げて!」

「に、逃げるってどこに……?」

「お願い! 私を捕まえてもいいから!」

ウェスリーは困惑した。何が何やらわからなかった。

「来て!」

「お、おい!」

コニーに手を引かれて走るウェスリー、走って走って、町を出た。町の出口でその2人の後姿を見つめるイサ。軽く笑ってため息をついた。

――後日。それからまた各地を放浪し、帝都に戻ってきたときのこと。

宮殿、イサの自室にて。コンコンコンとノックが3回鳴る。

「なにー?」

「陛下、お手紙が届いておりますが」

ノックしたのは副女官長のレリィである。ドアを開けるイサ。

「誰から?」

「コーネスト公爵閣下からです」

「見せて」

イサは手紙を受け取り、封を切る。

『偉大なる竜帝陛下。ウェンデル領主コーネストでございます。本来なら陛下の元に出向いてご報告すべきところを手紙という形でご無礼致します。本日、ウェスリーとコニーという娘の結婚が決まりました。コニーはスラムの出身でございますが、『出自に関わらずウェスリーの希望を尊重せよ』との陛下の御沙汰の通り、結婚を許可いたしました。スラムの人間と話すなど初めての経験でございましたが、コニーはとても気立てが良く、私としても気に入っております。きっとウェスリーの良き妻になってくれるものと存じます。ウェスリーも一時期は盗人に心を奪われるなど血迷った言動がございましたが、コニーという良き妻が見つかり、親としても安心しております。追ってまた帝都に2人を連れてご挨拶に参ります。よろしくお願いいたします。 ウェンデル領主コーネスト』

イサは手紙を机の上にポンと放り投げるとベッドにドサリと横になった。

もう見合いは懲り懲りだ。そう思うイサであった。

あとがき

みなさん如何でしたでしょうか。

この作品は昨日書き上げたものですが、まあそれなりのものになったのではないかと思います。

ちなみにイサの容姿は本当に十人並みです。特に可愛いというわけでもないがブサイクというわけでもない。お店の人からは可愛いと言われる。その程度ですw

いま書いている話はここまでなので、いったんこれで休載という形を取らせて頂きます。

明日からは別の作品を上げていきます。

「魔神系非モテ女子の戦い」という作品です。

ジャンルは現代ファンタジー。竜帝の野望シリーズで異世界ファンタジーが続いたので、次はこの作品をと思いました。

この作品も書きかけではあるのですが、書いたとこまでは上げようと思います。

だいたい5万文字程度は書いています。

それでは明日をお楽しみに。

See You!

コメント

  1. フェアリー より:

    新しいお話と!
    楽しみに待ってます♪

  2. ハルカ より:

    うん、今回もおもしろかった♪
    次回作に期待(‘-‘*)

  3. ハルカ より:

    最後間違えた(・・;)
    新作に期待♪