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【小説】魔神系非モテ女子の戦い・第8話

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第8話 クソ犬

――パズズと戦ってから2週間後、厚木市郊外の山中に奈央は居た。天気は雨である。
雨の中、髪をポニーテールに結い、道着を着て呼吸を整える奈央。そして気合いの掛け声と共にそばにあった大木に飛び後ろ回し蹴りを食らわせる。バキバキと音を立てて倒れる大木。切り口はチェーンソーで切ったかのごとく綺麗であり、少し焦げている。

奈央はパズズにあわや負けそうになったことから、まだ実戦には訓練が足りないと判断し、ありったけの食料を持ってこの山に2週間こもりっぱなしなのだ。奈央はこの山で、アスラの戦記を読み込み、炎刃の使い方を研究して、蹴りの瞬間に足から炎刃が飛び出すような技を開発した。

(雨の日は心置きなく炎刃の練習ができていいわ)
奈央は拳の指の間から爪状の炎刃を出したり引っ込めたりしながら思った。今は炎刃を投げ技に応用する方法を考えているところだった。
(体のいろんなところから炎刃出せるようになれば投げ技にも応用できるかな)
今は手と足しか出せないのである。
(全身から炎刃出してウニみたいになれば強いんじゃないかな。なんて言う技にしよう……炎ウニ?)
などとウニのことを考えていたら、あと1週間ぐらいで食料が無くなることを思い出した。

1週間後、食料の尽きた奈央は山を降りた。
「あの、すみません。この辺に銭湯ないですか」
奈央にそう尋ねられた年配の女性はあまりのすごい臭いに鼻をつまみ、顔をしかめる。3週間汗をかきっぱなしで風呂に入ってないのである。女性の話では近くに温泉があるとの事だった。
「はあ~、生き返るわ」
温泉に入り、3週間分の垢を落とす奈央。1回洗うだけでは落ちず、3回も洗った。奈央は風呂に入った後は普段着に着替えた。道着をコインランドリーで洗ってリュックに仕舞い、その足で2人目の悪魔のところに行くことにした。

奈央は電車の中で、住所が書かれた紙を見て首をかしげた。”横浜駅東口前の英会話教室Mova ジェローム ・キャメロン”と書いてある。
(外国人さん……?)

奈央は横浜駅で電車を降りると、英会話教室が無いかどうかキョロキョロ探した。だが、どこにもない。駅の中を掃除していたおばさんに聞くと駅を出て右手にあると言われた。駅を出て右に行くと確かにデパートの横にある小さいビルの3階に英会話教室があった。

中に入って受付の女にジェローム・キャメロンは居るかと尋ねると奈央の身元を聞かれたので、黒井和也の紹介で来たと伝えるように言った。しばらく待っていると再び受付の女が出て来て、いま授業中だから少し待って欲しいとのことだった。女に促されてその辺にあった椅子に座ってしばらく待っていると、金髪碧眼の白人が出て来た。体に少し脂肪が付いていてふっくらとした体型の男である。それがジェローム・キャメロンであった。

「エクスキューズミー、アイ、アム……」
「ああ、日本語で大丈夫ですよ」

キャメロンは流暢な日本語で話した。勝負を申し出ると、こんな町中では出来ないから、一緒に自分の家の近くまで来て欲しいという。奈央はキャメロンと一緒に再び電車に乗った。

「私は今、353歳なんですけど、ちょうど160年ぐらい前、190歳ぐらいのときに日米和親条約が結ばれまして、これからは英語の時代だと英語を学んだんです」
キャメロンは言う。
「当時は英語喋れる人が少なかったですから仕事たくさんありましたね。でも戦時中は辛かったなー。当時は日本人に变化してましたけど、うっかり英語で喋ろうものなら特高に連れて行かれますからね」
「いまはなぜ白人に变化を?」
「単にそのほうが生徒の受けが良いからですよ。やっぱり金髪の外国人目当てに来るお姉さんとか多いですからね」
そんなことを話しているうちにキャメロンの家の最寄り駅へと着いた。

「この近くの空き地でやりましょうか」
少し歩いたところに小さな空き地があった。建物に囲まれていて確かに人目につきにくい。2人は空き地に入ると、対峙した。キャメロンはまばゆい黄色の光を発すると、下半身がライオンで上半身は人型、上半身の腕が4本ある怪物へと姿を変えた。剣と盾を1対持っている。

「私は悪魔マルバス。行くぞ!」
マルバスは間合いを詰めて上段から剣を振り下ろしてきた。奈央は炎拳を作ると左手のひらで剣を受け止める。真っ赤になってドロドロに溶ける剣。一瞬目を丸くするマルバス。そして奈央は即座にマルバスが左手に持っていた盾を内回し炎刃蹴りで真っ二つにした。

そして奈央はすかさずものすごい勢いで炎拳を乱れ打ちし始めた。さながらガトリング砲のような勢いで炎拳を縦横無尽にマルバスに叩きこむ。千炎拳。山中で身につけた技である。炎の弾幕で奈央からもマルバスの姿は見えない。でも、確実にそこに居る。手に伝わる感触でわかる。奈央はそう感じていた。

奈央は恐ろしいほど冷静に炎拳を叩き込み続けた。やがて、マルバスが倒れた感触が奈央の手に伝わってきた。そこで奈央は殴るのをやめた。そこに居たのは全身が火傷と打撲でボロボロになり、横たわっているキャメロンの姿だった。

「大丈夫ですか?」
奈央がキャメロンに駆け寄ると、キャメロンは体を押さえながらヨロヨロと立ち上がり、何も言わずに奈央の横を通り過ぎると、足を引きずりながら空き地から出ていった。奈央はその後ろ姿をしばらくじっと見つめていたが、やがて足早に駅へと歩き出した。

奈央はその足でもう1人も片付けてしまおうと再び電車に乗った。奈央は次の相手の情報をみて再び首をかしげた。
“埼玉県日高市の北平沢カントリークラブ近くの山中で犬缶を開けて待て”
(なにこれ……? 犬ってこと?)

奈央は日高市の高麗川駅で降りると、言われたとおりに犬缶を買い、ゴルフ場の脇の道から山道に入った。

しばらく歩き、この辺でいいかなというところで犬缶を開け、待っているが、何も来ない。なんだこれは、と5分ぐらい待ったとき、遠目に一匹の鳥が目に入った。カラスでも来たかなと思ったが、だんだんそれが近づいてくるにつれて、カラスなどではないことがわかった。巨大すぎるのだ。羽を広げたら3メートルはある。そして更に近づいてくるにつれてわかったが鳥ではなかった。――犬だ。犬が空を飛んでいる。背中に生えた大きな2枚の羽で力強く羽ばたきながら。

犬は奈央から10メートルほど離れたところに着地すると犬缶へと走り寄って来て、
「お前か? ベリアル様の弟子というのは」
と犬缶を臭いながら言った。犬が喋ったと驚きつつも、
「あ、はい、そうです」
と答えた奈央。

改めて犬をまじまじと見てみてその異様さがはっきりした。まず口。異常に牙が発達しているのだ。体は柴犬ぐらいの大きさなのに。まるで肉食恐竜か何かかと言いたくなるような鋭い、肥大化した牙が印象的である。次に全身の体毛。これも柴犬ぐらいの長さの体毛に覆われているのだが色が紫なのだ。くすんだ紫色。そして、背中から生える2枚の大きな羽。体毛と同じく紫色をしている。

「コンビニで売ってる安物だな」
犬缶を臭って犬は言う。
「ご、ごめんなさい。お金なかったから」
とっさに言い訳する奈央。
「俺はグラーシャ・ラボラス。ベリアル様の配下だ」
ラボラスは犬缶にがっつきながら言う。犬缶にがっつく姿は普通の犬と変わらないのだが。
「配下?」
「そうだよ。パズズは違うが、マルバスと俺はソロモン72柱という悪魔の軍勢に所属する幹部だ。ベリアル様はその軍勢の頂点に立つ四天王の1人だ」
「へぇ……そうなんだ」
奈央はもう少し悪魔のこと勉強しなきゃなと思った。犬缶をあらかた食べ終わったラボラスはその長い舌を器用に使って缶に付いている肉を隅々まで舐め取った。

「ゲプッ……それじゃあ、勝負を始めるか。言っておくが俺は他の2人ほど甘くはないぞ」

そう言うとラボラスは1メートルほど空中に舞い上がる。奈央は両手に炎拳を纏わせると素早く間合いを詰めて右の炎刃ハイキックを繰り出した。しかし手応えはない。上を見るとラボラスは3メートルほど上空に逃げている。ジャンプして追い打ちをかけようとした瞬間、奈央の目の前が突然真っ赤に染まり火の海になった。奈央は何が起こったのかわからなかったが、とりあえず炎拳でそれを吸収する。

「おや、炎は効かんのか。ではこれはどうだ?」

ラボラスがそう言った瞬間、奈央を物凄い寒さが襲った。腕や顔に霜が降り始めている。何かと思ってラボラスを見上げると、口から冷気を吐き出している。奈央は炎拳で腕や顔をさすって何とか耐えたが、もし炎拳が無かったら凍傷になっていたであろう。それほど冷たいブレスであった。

奈央はラボラスの居るところまでジャンプすると飛び後ろ回し炎刃蹴りを繰り出した。しかし、またもや手応えなしである。その瞬間、強烈な青い光で目の前が覆い尽くされ、体に激痛が走った。自分の意に反して体が痙攣してしまい、言うことを聞かない。奈央は受け身も取れないまま地面に落下した。

「今ので10万ボルトぐらいだ。その気になれば10億ボルトぐらいまで出せるぞ」

ラボラスはそう言ってゲッゲッと笑う。電撃――ラボラスの言葉で奈央は察した。奈央はヨロヨロと起き上がると再び飛び上がりラボラスに向かって飛び炎刃蹴りを繰り出す。しかし、またもや手応えはない。その瞬間、さっきとは比較にならないほどの強烈な光と激痛が襲う。体が硬直したまま地面に落ちる奈央。皮膚がところどころヒリヒリする。火傷――奈央は朦朧とした意識の中で察した。

「ほう。100万にも耐えるか。なるほど、なるほど」

ラボラスの笑い声が奈央の耳に聞こえた。横たわっている奈央をまたあの冷たさが襲った。奈央の皮膚はもう感覚が無くなっている。炎拳で辛うじて冷気を防ぎながらヨロヨロと立ち上がったが、もはや飛び上がる力はない。

「では、とどめだ。死ね」

ラボラスはそう言うと奈央に向かって口をあんぐりと開けた。次の瞬間、鼓膜が破れるほど大きな轟音と共にラボラスの口から巨大な稲妻が発せられた。目の前に迫り来る青い光、そして、その先にある死。奈央は死を感じた瞬間、反射的に目を瞑り、迫り来る稲妻に向かって右の拳を突き出す。稲妻が奈央の右手を直撃した。死んだ――奈央はそう思った。しかし、特だん痛みも衝撃もない。奈央が目を開けて、自分の拳を見ると稲妻がヘビのようにまとわりついている。雷拳――その単語が頭に浮かんだ。奈央は上空のラボラスに向けて拳を突き出した。すると、今度は奈央の拳からラボラスに向かって巨大な放電が起こり、ラボラスの体を稲妻が貫いた。叫び声を上げて地面に落下するラボラス。そして、奈央も糸が切れたようにその場に倒れこんだ。

奈央の鼻に毛と肉の焼けた臭いがする。奈央自身の臭いではない。殺してしまったかなと奈央は思った。
「う……うう……吸収して……跳ね返したの……か」
ラボラスはか細い声でそう言いながら目を開けた。かろうじて生きている。
「ありがとうございますラボラスさん。新しい力に目覚めました」
奈央はへたり込んだままとりあえずラボラスに礼を言った。
「よりによって……10億のときに目覚めんでも……目覚めるなら……早く目覚めろ」
そう言ってラボラスは再び気を失ってしまった。

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作者コメント

ラボラス戦は自分でも気に入ってる場面です。マルバスは完全に噛ませになってしまいました。今後も登場しません。