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【小説】魔神系非モテ女子の戦い・第9話

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第9話 初めてのサタン

ラボラスとの戦いの後、双方とも消耗して動けず、雨も降ってきたため、奈央は西村にLINEで連絡をし、レンタカーで迎えに来てもらった。

「こりゃ2人ともサタンへ運ぶ必要がありますね」
丸焼けになったラボラスを見て西村が言う。
「サタン?」
「ええ、怪我を治してくれるとこですよ」
西村はラボラスを抱きかかえて後部座席に乗せながら言う。
「大丈夫ですか? 立てますか?」
奈央は西村に肩を借りながら助手席に乗り込んだ。

「しかし、凄いですね。あのラボラスをここまで叩きのめすなんて」
西村は車を運転しながら奈央に言った。
「まぐれだし、ほとんど相打ちだし。パズズさんの時と同じ」
奈央は車の中にあったタオルで髪を拭きながら言う。
「いやいや、同じじゃないですって。マルバスはともかく、ラボラスは一筋縄じゃ勝てませんよ。ベリアルさんも人が悪いですよ。”ちょっと稽古つけてくれ”とか言ってアスラさんみたいな物凄い人よこすなんて」
西村は苦笑いしている。

「サタンって病院みたいなとこですか?」
奈央が西村に尋ねる。
「サタングループって言って、悪魔にいろいろなサービスを提供してる会社があるんです。もちろん人間向きには普通の企業なんですけどね。人間で言えば警察、弁護士、探偵、病院を全部合わせた感じかなぁ。とにかく何か問題があったらここに行けば何とかしてくれるって感じですね」
「へぇ、便利なとこがあるんですね」

そうこうしているうちにサタンと呼ばれる場所に着いた。”浅村医院”と書かれている。見たところ少し大きめの個人病院に見える。
「ちょっと待っててください」
西村はそう言って中に入っていった。

「お前、アスラだったのか」
後部座席に横たわっているラボラスが言う。
「え? 知らなかったんですか?」
奈央は驚いて後ろを振り返った。
「聞いてない。聞いていれば電撃は使わなかった」
「もしかして課長、私の雷の力を引き出すためにわざと言わなかった……?」
「俺は捨て石にされたか。まあ慣れてるがな……」
ラボラスはゲッゲッと笑った。

ラボラスと話していると2人の男性看護師と西村が出て来た。ラボラスの状態を見るなり看護師たちの表情が一変し、1人の看護師が急いで2階へと運び込んで行った。
「立てますか?」
もう1人の看護師が奈央に言うも、奈央はまだ1人では立てず、西村と看護師に両脇を抱えられて病院内に入った。通されたのは注射台とベッドとデスクと椅子が1つずつある小さい部屋で、奈央はベッドに座っている。

しばらく待っていると受付らしき若い女性が入ってきた。
「失礼します。当医院は初めてですか?」
女性は奈央の前にしゃがみこんで優しく尋ねた。
「あ、はい……。初めてです」
女性は問診票のようなものに書き込んでいる。
「人間のお名前をお聞きしてよろしいですか?」
「秋月奈央です」
女性は慣れた手つきで書き込んでいる。
「悪魔名は?」
「悪魔名? えっと……アスラかな」
「アスラさんですね……」
女性はスラスラと書く。
「念のためお聞きするんですけどサタングループの会員登録は済ませてらっしゃいますか?」
「いえ、してないです」
「……じゃあ、一緒に登録もしちゃいますね。登録料2000円かかりますがよろしいですか?」
「あ、はい」
「では、少々お待ちくださいね」
そう言って女性は部屋から出て行った。

しばらくすると白衣を着た医師らしき初老の男性と女性の看護師が1人入ってきた。
「アスラさん、ラボラスさんと喧嘩しちゃった?」
医師は椅子に座りながらにこにこ笑って奈央に尋ねる
「え、いや、喧嘩というか……ちょっと鍛えてもらったというか」
「あー、なるほど。訓練ね。はいはい。訓練中の事故と。」
医師はカルテらしきものにサラサラと書き込んでいる。
「じゃあ、ちょっと变化を解いてみてもらえる?」
「え……あの、変身してないんですけど?」
医師は少し首をかしげる。
「変身してない? ……どういうこと? 頭打った?」
「いえ、あの……」
奈央は今までの経緯を説明した。

「うーん、魔神が人間に転生した。しかも魔神の能力は使えるまま……。今までに聞いたことないケースだね」
奈央の説明を聞いて医師は奈央の体を興味深げに見ている。
「精密検査しますか?」
看護師が医師に尋ねる。
「あーいや、魔力計もって来て」
医師に指示された看護師は小さいバーコードリーダーのような機械を持って来た。医師はその機械で何やら計っている。しばらくするとピピッという音が機械からした。
「おー、本当だ。魔力もってるね。念のため、何か能力見せてもらえるかな。この病院が壊れない範囲でね」
奈央は親指の先に100円ライターのように火を灯してみせた。それを見た医師は納得したようで、その後、火傷の状態を見て、体の痛みなどをひと通り聞かれた後、診断を下した。
「軽い火傷と魔力欠乏だね。体は人間だけど、まあプラーナ打っときゃ大丈夫でしょ」
医師は看護師に指示すると部屋を出て行った。

しばらくすると看護師が注射器と注射薬らしきものを持って入ってきた。薬が入っている袋には”濃縮プラーナ20″と書いてある。看護師はそれを注射器の中に入れると、奈央の腕に静脈注射し始めた。
「ここって悪魔専門なんですか?」
奈央は注射を受けながら尋ねる。
「いいえ。人間の病院ですよ。片手間に悪魔さんたちも診てる感じですかね」
「へえ」
「はい、終わりました。しばらくここ押さえといてくださいね」
奈央は腕を押さえながら自分の体の異変に気づく。
「あれ、なんかすごい調子良くなった。……それに火傷も綺麗になってる」
看護師が注射器を片付けながらにっこり笑う。
「悪魔さんたちは軽いケガならプラーナを打つだけで治っちゃうんですよ」
そりゃ悪魔がみんな東京に集まってくるはずだと奈央は思った。その後、会計をして病院を出た。

それから、奈央は西村に車で古本屋まで送ってもらった。ラボラスに殺されかけたことで勉強の必要さを痛感し、黒井に教えてもらった店で本を買って帰ろうと思ったのである。西村は家まで送ろうかと申し出たが、プラーナのお陰で非常に調子が良くなったため遠慮した。

「じゃあ気をつけて下さいねアスラさん」
「はい。ありがとうございました。助かりました」
西村は軽く挨拶を済ませると車で去っていった。古本屋に入ろうとしたその時、
「奈央ー! ちょっと! 奈央!」
と、後ろから声をかけてきたのは会社帰りの智子だった。面倒くさいやつと面倒くさいタイミングで会ってしまったと表情が曇る奈央。
「ちょっと! 誰、あの人!? あんた、とうとう彼氏できたわけ!?」
「あー……いやー、いとこよ。いとこ」
(いくら私でも本当の姿があんな怪物な人には反応せんわ……)
奈央は適当に智子をあしらって本屋に入った。

そこは個人経営の小さな古本屋だった。通路は狭く、色あせた本が並ぶ本棚は天井まで届いている。色々と見て回る奈央。悪魔関連の書籍ばかりである。中にはかなり古い物もあり、ボロボロで読めないようなものもあった。奈央は魔法知識と敵の情報が全く無いのがダメだと考え、”悪魔が使う魔法全書”、”悪魔名鑑”という2冊を買った。どちらも日本語訳が出ており、訳す手間が省けるため奈央は喜んだ。

新しい本も買って意気揚々と家に向かって住宅街を歩いていると、向かいから1人の女性が歩いてきた。白いペンシルスカートに黒のトップス、その上にグレーのジャケットを羽織り、ピンヒールをツカツカ言わせているスタイルの良い女性である。女性は奈央の前でピタリと足を止め、ニコッと笑い、じっと奈央を眺めている。なんだと思って奈央が避けて通りすぎたその時、
「魔神アスラさん……ですよね?」
奈央は驚いて振り向いた。
「シヴァ様の使いの者です。シヴァ様のご命令により、あなたを抹殺しに参りました」
奈央はとっさに後ろへジャンプして間合いをとると、背負っていたリュックをその辺に投げ、両手に炎拳を発動した。
「あなた、なんて悪魔?」
「これから死ぬお方に名乗っても仕方ないのですが、ナンディンと申します。宜しくお願い致します。来世で」
そう言った刹那にナンディンの姿が消えた。そして次の瞬間に奈央はみぞおちに大砲を撃たれたような凄まじい衝撃を受け、その勢いで後ろに吹っ飛び、住宅の壁に激突した。奈央は一撃で気を失ってしまった。

奈央が次に見たものは天井だった。真っ暗な部屋の天井。しかし、見覚えがある。浅村医院の天井である。どうやら奈央はベッドに寝ているらしかった。腕には点滴が刺さっている。体を起こそうとするも、みぞおちの辺りに激痛が走り、動けない。

「目が覚めたか」

声のしたほうを見ると隣のベッドに何かが寝ている。シルエットと声質からしてラボラスだとわかった。
「ねえ……私なんでここにいるの?」
その言葉にゲッゲッと笑うラボラス。
「また死にかけたらしいじゃないか。1日に2回も死にかけるとは。運が無いな。いや、運がいいのか」
「そうだ、私、あの女の人と話して……それから覚えてない」

突然、病室が明るくなり、黒井が入ってきた。
「あ、課長……痛っ!」
「そのまま寝てろ。動くのは無理だ」
ベッド脇の椅子に腰掛ける黒井。
「すみません。何がどうなったのか……」
「それはこっちのセリフだ。さっきパズズから3人とも負けたという連絡が入った。だから今後のことを伝えようと携帯に連絡した。だが何回かけても出ないから嫌な予感がしてお前の家に向かったんだ。そしたら途中でお前が倒れてた」
黒井は何が起こったのかうすうす気づいていた。
「……シヴァにやられたか?」
奈央はうつろな目でポツポツと話し始める。
「そうだ……。あの女の人。ナンディンって」
それを聞いた黒井の眉間にしわが寄る。
「シヴァの幹部で3番目ぐらいに強いやつじゃなかったか? お前よく生きてたな」
ラボラスは呆れた顔で奈央を見ている。
「でも、あの人、私を殺すって……。なんで助かったんだろ」
黒井は奈央をじっと見て、何か考えている。

「……お前はもう俺の手を離れたほうがいいのかもしれんな」
「えっ……どういうことですか?」
奈央は怪我で動けない状態でそのようなことを言われて急に不安になった。
「見捨てられたってことだよ」
ラボラスはゲッゲッと笑った。
「実は俺はそこの犬をお前と戦わせるのに懐疑的だったんだ。パズズやマルバスはただの手合わせなら手加減する奴らだし、実際に手加減しただろう。だがその犬は違う。そいつは本気で殺しに来るやつだ。まだ早いんじゃないかと思っていた。だが、クールマさんに実戦的な教育をしろと背中を押されてな。しぶしぶそいつを相手に選んだんだ」
「じゃあ、ラボラスさんに私がアスラだと教えなかったのは……」
「クールマさんの指示だ」
「くそっ、どいつもこいつも俺を何だと思ってやがるんだ」
「……パズズから連絡を受けて驚いたよ。てっきりお前は死ぬと思っていた。だが、お前は勝った。新しい力を得てな」
奈央は黒井の顔を真剣な目でじっと見ている。
「お前は俺があれこれと指導するよりも、もっと様々な悪魔と接しながら成長していくほうが合っているのかもしれん」
その言葉に奈央は天井を見ながらしばらく考えていた。
「……自分ではよくわからないです。でも、もっと悪魔のことを知りたいなという気持ちはあります」
その言葉に黒井は深く頷いた。
「よし……。お前、傷が治ったら会社に来い。退職手続きをする」
「退職? 退職してどうするんですか?」
黒井は立ち上がり、奈央の顔を見て、軽く笑った。

「……いい仕事先がある」

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作者コメント

次回から大きくストーリー動きます。お楽しみに。